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9.

「なんでそれを早く言わないの!」

「すてき!絶対逃がせないわね!」

「だけどセレスティア家なんて交流もないし、どんな人かも全く分からない。どうしたものか決めかねていて、手紙だけやり取りしているんだ」

「アランジェールは令嬢とばかり遊んでいるから、本気で誰かの愛人になるつもりなんじゃないかって心配していたの。やっと春が来たのね!」

「やだ私、悪く言ってしまってごめんなさい。でも外見は良かったわよ、安心して!」


2人は口々にまくしたてた。恋愛の話となると獲物を前にした猟犬のように走り出すのだ。


「気にしないでくれ。私も諦めかけていたよ。まあ正直他に相手もいないから、彼を選ぶ他ないんだが、まだ手紙でしか相手を知らないからさ。ここからどうやって仲良くなっていくべきかアドバイスをしてほしいんだ」

「よろこんで手助けするわ!まずはとにかく会わないとね。」

「これまではどんな話をしたの?」

アランジェールは手紙で話した内容を簡単に説明した。


「優しそうでいい感じじゃない。」

「北方だったら、今度アデルロッテで夜会があるわ。そこに誘ったら?」

「私も行こうかな!相手を確認したいもの。」

「そうね、夜会に行くことになったら手紙で教えて頂戴な。」

「ありがとう、誘ってみるよ。」


アランジェールは、大喜びしている2人を見ていたら、何だか悩んでいたのがバカみたいに思えてきた。もっと気楽に考えてもいいのかもしれない。


「あ!だけどアデルロッテに行くなら気を付けないといけないわ。最近殺傷事件が起きているの知ってる?」

アリスミリアが言った。

「ええ?初耳だわ。」

「ここからは遠いから大丈夫だと思うけど、ラネシークで何件か続けて、女性が刃物で切り付けられる事件があってね、まだ犯人が捕まっていないってお父様が言っていたの。狙われているのも女性ばかりだし、夜に出かけるなら注意しないといけないわ。」


ラネシークはアデルロッテからは馬車で3時間、セレスティア家の領地からも4時間ほどのところだ。


「被害者は3人で庶民ばかりだけど、みんな『彼氏に会いに行く』って出て行って被害にあっているの。同じ犯人なんじゃないかって言われているわ。騎士団が調査しているけど、あまり進んでいないみたい。」


「……提案しておいてなんだけど、私やっぱりやめておこうかな。」

エルミーヌが言った。

「遠いしね。アランジェールもどうするかよく考えて決めてね」

アランジェールはぞっとする。恐ろしい話だ。

「ありがとう、考えてみるよ」


***


さて。殺傷事件が起きている危険を知ってまで、夜会に誘うべきだろうか?

被害者は女性だというから、彼が被害にあう可能性は低いだろうが……。

ここまで考えて、アランジェールはある可能性に気がついた。


いや、おかしくはないだろうか?


殺傷事件が起き始めたこのタイミングで、その近い場所に住む貴族から手紙が来る。


アランジェールはアリスミリアの言葉を思い出す。


『被害者は彼氏に会う、って出て行って……』


私が知っているのは彼の文章だけだ。手紙を送るだけなら、何通でも誰にでも送れるだろう。


もし庶民が、貴族に気に入られるなんて戯曲のような展開になれば、多少怪しくても喜んで会いに行くだろう。


(すでに3人を切りつけ、周囲の警戒が強くなった犯人が、遠方のモテない令嬢をターゲットにした、としたら……。)


ろくに会ったこともない相手に求婚を申し込まれることを不思議に思っていたが、ここでつじつまが合ってしまったのではないだろうか。



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