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8.

「でも、アランジェールよりかっこいい男なんて探そうと思ってもなかなかいないわよね。国中探さないといけないかも」


「まあ、確かにねえ」


「アランジェールの凛々しさを魅力に感じてくれる人なら理想的じゃない?」


「………………」


アランジェールはどんな表情をしていいかわからなかった。


もちろん自分と比較して落ち込まれても困る。しかし「凛々しさ」を評価してくれる相手であれば、それはそれで、毎日失望されないか心配をすることになるだろう。


世間が持てはやす「文武両道でかっこいい令嬢」というアランジェールの看板の中身は、実のところ空っぽに近いからだ。


剣術は形こそ覚えたが実戦では並の騎士にも及ばず、学問もまた、広く浅い知識をそれらしく並べているに過ぎない。


どこまでも上には上がおり、その分野の一位になれたことがアランジェールにはなかった。


アランジェールは自分が凛々しさなどとは程遠い、何も自慢できるものがない人間であることをよく知っていた。


アランジェールの母は騎士団所属の指導官であり、戦術を得意として成り上がった女傑である。


父親は運動は得意ではないものの、言語学の学者であり多くの発見をしている。


どちらもトップレベルの才能でありながら、アランジェールにはそのどちらも受け継がれていないようだった。

両親の偉大さが、アランジェールにはずっと重荷だった。


さらに言えば、目の前のいとこのアリスは剣術の天才であり、アランジェールは幼いころから一度も勝てたことがない。


エルミーヌはヴァイオリンの名手でありコンクールで入賞しており、音楽をたしなむ者であれば彼女の名を知らないものはない。


彼女たちがそれぞれの分野で秀でた才能を見せるのに対して、アランジェールは何一つ、これが自分の才能だと言えるものを持っていなかった。


期待が大きければ大きいほど、失望もまた深い。

自分がただの小物であることがばれ、愛想を尽かされる屈辱を思えば、「かっこよさ」を期待している相手のそばにいることは、アランジェールにとって苦痛な日々の始まりかもしれなかった。


(そういえば、北方の貴族のことを彼女たちは知っているだろうか?)


「話は変わるんだけど……、北方のユノヴァン・セレスティアという貴族に会ったことはある?」


「ユノヴァン?うーん……。何年か前にサロンで話したことがあるかも。ずいぶん遠くから来ていたから、珍しいと思ったの。」


「私は初めて聞くなあ。北方なんてそういかないものね。」


ユノヴァンに会ったことがあるというのは朗報だった。

「本当かい?どんな人だった?」


「少し話しただけだから、あくまで印象だけど……。


音楽にはあまり興味がないのかなと思ったわね。サロンに来ているのに、女性にばかり話しかけていたような気がするわ。


軽薄そうな話し方だし、知性はあまり感じなかったの。」


知性を感じない。友人の率直な感想に、アランジェールは落胆している自分がいるのを感じた。


ユノヴァンに対する期待が高まっていたなか、本人に対する評価があまりよくないのは、幸先がよくない。


アランジェールは彼と結婚ができれば、なんて先々のことまで考えていたのだ。


「ねえ、なんでそんなこと聞くの?知り合い?」


エルミーヌは不思議そうな顔をしている。

ちょうどいい。


異性との恋愛にうといアランジェールだけで考えるよりは、2人に相談した方が、よい選択ができるだろう。


「じつは、ユノヴァン様が自分と婚約しないかと手紙をくれたんだ。まずは自分のことを知ってから考えてほしいと」


2人は「きゃー」とも「ええ!」ともつかない感嘆の声をあげ、顔を見合わせた。

わかりやすく瞳が輝きだす。


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