6.
後日届いた返事の手紙には、このようなことが書いてあった。
『親愛なるアランジェール様、お返事を頂けて本当にうれしいです!
あなたと手紙を交換しているなんて夢のよう。
私の父の名前はノスティノンです。
実は最近まで私は病で臥せっていまして、あまり交流のある人がいないのです。
教会にはよく行っているので、神父のラディーゾとは懇意にさせていただいています。
最近になって体調が回復したので、乗馬も狩りもようやく練習し始めたところです。
以前は体調がよい時は、屋敷を散歩する程度でした。
アランジェール様は乗馬が得意だと聞いています。
いつかアランジェール様といっしょに走るときに恥ずかしくないよう、それだけを目標に退屈なレッスンを乗り切っているのです。……』
まるで子供のようなユノヴァンの文章に、アランジェールは笑ってしまう。
ロマンチックさに欠けた内容ではあるが、かえってそれがアランジェールにとっては気楽で好感を持てた。
令嬢たちが普段アランジェールに送る手紙は、『隠されたそのおみ足を見ることのできる関係になれたら』
『瞳を見ているとその深い色におぼれてしまいそう』
なんて、過剰なほどの口説き文句がいつもちりばめられている。
女性からの口説き文句はかわいらしいと思えるが、異性からの手紙ではどう返していいか困ってしまうだろう。
そのまま何度か手紙を続けることで、アランジェールはユノヴァンとの手紙を楽しみにするようになった。
ユノヴァンからの手紙は最初こそ色気の少ない日記のような内容だったが、少しずつ口説き文句が増え始め、愛の手紙らしくなっていた。
愛情表現を素直に受け取れるようになった自分の変化もうれしい。
しかし、アランジェールには一つ気がかりがあった。
ユノヴァンからの手紙の内容が、少しずつアランジェールの性格を知っているような、身近にいるような内容に変わっていっているのだ。
最初は「乗馬が得意らしい」「美食家らしい」なんて誰でも知っているような情報だったものの、「最近サファイアを好んでいる」「剣術の練習に熱心」なんて、屋敷の者でないと知らないような内容が増えてきている。
屋敷に知り合いがいるのかと思い手紙で聞いてみたことがあるのだが、「噂で聞いたんだよ」なんてはぐらかされてしまった。
(共通の知り合いがいるのなら教えてくれたほうが、お互いのことを知れるのに。)
ユノヴァンは何か隠し事をしている様子がある。それが何なのか気にはなるものの、きっといつか説明してくれるのだろうとも感じていた。
そんなある日、いとこのアリスミリアと友人のエルミーヌが屋敷を訪れた。
「おひさしぶりねアランジェール。元気だった?」
「この前ぶり。ちゃんと眠れてる?ご飯は絶対食べれてるだろうけど」
エルミーヌとアリスミリアが声をかけた。
「エルミーヌ、アリス、いらっしゃい。元気だしぐっすり寝れてるよ。ご心配ありがとう」
アランジェールは玄関先まで2人を迎えに行き、2人が使用人に靴の土を落とされるのを待つ。
エルミーヌはいつも通り完璧なボリュームのドレスをまとい、ヘッドレストを合わせている。
ネックレスの大粒ダイヤがまぶしい。ただの友人の家に来るためだけに、美しい完璧なコーディネイトだ。
さすがエルミーヌと言わざるを得ない。
それに対してアリスミリアは、一見すると豪華なドレスだが、以前「このドレスは着心地がよくて楽なの。どうでもいい日のドレス!」と言っていた手抜きの服装だ。
アクセサリーは何一つつけていないことからも、気合が入っていないことが伺える。雑な彼女らしい。
アリスミリアとは定期的に会っているが、エルミーヌに会うのは久しぶりだった。
2人とも婚約破棄をされて以降は初めて会うので、確実にその話題になるだろう。
正直あまりこのタイミングで会いたくなかった。




