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3.


そのうち、一人の令嬢がアランジェールの手をそっと取り、熱のこもった吐息とともに囁いた。


「ねえ、アランジェール様。……形式ばかりの結婚など、もうお止めになってはいかが? 


もし誰にも邪魔されない場所が必要でしたら、私の別邸へいらして。貴女を私の『特別な友人』としてお迎えしたいのです」


それは、婉曲的な愛人への誘いだった。

婚約者と破談になったことでなおさら、こうして愛を囁いてくれる令嬢が増えている気がする。


(気持ちにこたえることができないのが、本当に残念だ。)


令嬢たちの熱烈な愛情表現には感謝する。しかし彼女の恋愛対象は、あくまで男性だった。


アランジェールが令嬢らしくない立ち振る舞いをしているのはあくまでそれが自然なだけで、男になりたいわけでも、女性が好きなわけでもない。


アランジェールは断りの言葉を告げるべく添えられた手を離そうとしたが、令嬢は顔を寄せるとささやくように告げた。


「それに……、うちのシェフのウサギ料理は、国随一といわれているのですよ。」


ウサギ料理。

魅力的な単語にアランジェールは少し揺らいでしまう。


ウサギのパイはアランジェールの好物だ。自分の屋敷のシェフ以外の料理の味には興味がわく。


よだれがたれそうになるのを必死にこらえ、アランジェールは誘惑にあらがった。


「魅力的なお誘いですが、お屋敷に伺うときはぜひ『皆さんと』一緒にお邪魔しますね。」


「残念ですわ……。絶対に一度は遊びに来てくださいましね。」


令嬢は残念そうな顔をつくったものの、すぐに周囲の令嬢たちを屋敷に招待するべく声をかけ始めた。


(17歳を過ぎ、18、来年には19……。季節が巡るたびに、結婚の適齢期からは離れていく。いっそ誰か令嬢の愛人になることも、本当に検討したほうがいいのかもしれない)


アランジェールは先日婚約破棄をされてから、将来のことを考え始めていた。


元婚約者だったサペルミウスはコンプレックスの多い男であり、別れの言葉からしてもおそらくそれを苦にして婚約破棄を申し出てきたのだろうと思う。


アランジェールはサペルミウスよりも身長が高く、乗馬が上手く、舞踏会に出れば令嬢からのダンスの誘いも絶えることはない。


簡単にいえば、そこらの男よりかっこいいのだった。



アランジェールと結婚すれば、生涯サペルミウスに自信が戻ることはなかっただろう。


しかしサペルミウスは特別コンプレックスの多い男だったとしても、そこらの男よりもハンサムなアランジェールのことだ。


だいたいの男では同じことの繰り返しとなるだろう。


(面倒だなあ。)


女性からの誘いは絶えることなく順番待ちの列ができるほどだが、しかし男からとってみれば、自分よりも男前な女性など扱いに困るだけなのだ。



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