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12.わしを倒してからにしろ

***


「以前の婚約相手とは破談になって、新しい婚約者ができたの」と、アリスミリアが父・ライオネルに報告をしたのは、そこから数日後だった。


ブライドネンと婚約破棄をしたときは、ライオネルは遠方に視察に出ていて、家にいなかったのだ。

もし婚約破棄になったばかりであれば、ライオネルはどれほど怒り狂ったかわからない。

ブライドネンの首が飛びかねなかったので、タイミングが良かったといえる。


「もう次の相手ができたのか!?」


さすがのライオネルも驚いている。

婚約破棄になったことは知っていたような口ぶりだ。



「うん!王宮護衛団のセリュディっていうんだけど...知ってる?」


「知らん知らんそんなやつは!!......ん?セリュディ......?......いや、知らん!というかお前、わしに相談もせんで婚約など、なんてことを!」


「お父様が選んだ相手でダメになったんだから、今度は自分で選びたいわ!私、すごく傷ついたんだから。」


アリスミリアは拗ねて見せた。

本当はそう傷ついてもいなかったが、こういったほうが父には有効だ。


「ぐぅっ......!それは本当にすまんかった。父の見る目がなかった。でももう無理して結婚せんでもいいんじゃ。跡取りは遠縁から養子を取っても……」


「もう約束してしまったもの!今度セリュディにあいさつしてほしいんだけど、いつがいいかな?」


有無をいわせず約束を取り付けてしまう。

アリスミリアが一度決めたら頑固なことは、父であるライオネルも当然知るところだった。


***


「婚約破棄に傷付いた娘のそばにいてくれたこと、心より感謝する。


だがやはり、そう簡単に納得ができるものでもないのだ!


庭に出ろ!!!アリスミリアがほしいのであれば、わしを倒してからにしろ!!!」


後日。あいさつに来たセリュディに対し、大声で決闘を挑んでいるのは、もちろんライオネルだ。


セリュディが自己紹介や出会った経緯など説明したあと、ライオネルは突然立ち上がり、冒頭の言葉を叫んだ。


「あなた!なんてことを言うの!」


引き留めるのはアリスミリアの母だ。


「そうよお父様!無茶言わないで!」


「大丈夫です。こうなるかもしれないことは覚悟しておりました。私でよろしければ、ぜひお手合わせ願います!」


セリュディはライオネルの大声に驚きはしたものの、すぐに提案を受け入れた。


「その心意気や良し。そうでなくては娘はやれん。」


「お父様......」

アリスミリアは呆れている。


父が引き下がらないであろうことは、娘も妻もよく知っていた。


しぶしぶ全員で庭に出ると、セリュディとライオネルは向かい合う。


「現役は引退したが、まだ簡単には負けてやらん。一撃でも入れば娘をやろう」


「こちらも本気で行かせていただきます」


二人は木刀を持ち構え合った。


「はじめぇ~」

気の抜けたような合図をだすのは、アリスミリアの母だ。


直後、バキンと大きな音を立て、二人の剣がぶつかり合う。


そして二撃目、ライオネルからの打突で、セリュディが吹き飛んだ。


「セリュディ!!!!」


「まだまだだのう!これでは娘はやれん!!」


「げほっ......さすがでございます、ライオネル様......」


「まだ結婚は認めん。一撃入るまでまた挑みに来い。」


こうして婚約はすぐに決まった二人だったが、結婚までの道のりは長いのだった。


***

「ねえ聞いた?ブライドネン様、例の『真実の愛』のお相手から逃げられたらしいわよ?」

エルミーヌが言う。


「え、そうなの?」

思いもよらぬ情報に、アリスミリアは驚いた。


「結婚式の最中に、別の男が新婦をさらいに来たんですって。演劇みたいだわ!」


「知らなかった......。最近自分のことで手一杯だったの。」


「ところで、アリスミリアのお父様が婚約破棄に怒って、ブライドネン様の指を切り落としに行った噂は本当なの?」


「え!?なにそれ!?それも初耳よ!!」


「代わりにブライドネン様のお父様が、自分の指を切ることで責任を取ったって聞いたわ。それはさすがに嘘よね?」


「知らない、知らない......!帰ったらお父様に聞かなくちゃ。」


(お父様なら本当にやりかねない!)


「そこまでいくと、さすがにブライドネン様が気の毒になるわね。」


「お父様は過激すぎるわ。そこまでするとは思ってなかった......。」


「そんな噂が立ったら、誰もアリスミリアに近寄れないわ。婚約が決まった後でよかったわね。」


「そう、そのことについて!グレシアナに伝えたいことがあったの!」


「何ですか?」


現在二人は、結婚相談所を訪れている。

グレシアナに協力してもらったお礼として、アリスミリアは恋愛の話をすることになっていた。しかし手紙を書くのは面倒だったので、直接相談所を訪れたのだ。


「報告するようなことでもないけど。婚約してから、彼に時々剣の稽古をつけてもらってるの。久しぶりだから腕が鈍っているのを痛感するわ。少し優しすぎるところは気になるけど、いつも楽しいわ。」


「良いですね!!まだお互いのことをよく知らない二人が、剣の練習を通して仲良くなっていく。素敵な流れです。」

グレシアナはキラキラした目でアリスミリアの話を聞いている。


「せっかく紹介してもらったのに、結婚はまだ先になりそう。ごめんね、お父様が結婚に変な条件をつけたからなの。」


よく似た親子だ、とグレシアナは思ったが、言わないでおいた。


「結婚はお好きなタイミングで大丈夫ですよ。よく吟味してお考えください。」


「ねぇ、あなただって年頃でしょう?自分の結婚はいいの?」

エルミーヌが問いかける。


「私はいいのです。人の恋愛の話のほうが楽しいので!」


「そんなのずるいわ!私の遠縁にいいのがいるわよ?身分は低いけど、気にしないでしょう?」

アリスミリアが話に乗ってくる。


「やめてください!本当にいいんです!私は紹介する側ですから!」


「助けてもらってばかりじゃ悪いわ!協力させてよー!!」


「好みのタイプくらいいるでしょう!?」


楽しそうに話すアリスミリアとエルミーヌからは、婚約破棄にあったような暗い空気は全くなかった。


アリスミリアの結婚はまだ先になるが、未来は明るいようだ。



お読みいただきありがとうございました!

評価やブックマークをいただけると嬉しいです!


ちなみにブライドネンの父親は指は切られてません。でも流血沙汰にはなっています。

父親はいい人でライオネルの戦友ですが、けじめをつけました。

そのうちもし暇があれば短編で書きます!


次回はアリスミリアのいとこ、イケメン令嬢の話です。

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