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10.気に入ったわ


こうして二人は、この後も稽古を続け、この日は基礎練習で終わった。


二人が会う約束をしているのは週に二日。

そのたびにアリスミリアはこっそりと練習を見に来ていた。


アリスミリアが感心したことに、セリュディは子供たちからとてもなつかれているらしい。

グレシアナに稽古をつけるのと並行して、いつも子供たちが混ざって剣術を習っている。


休憩時間には子供たちから服を引っ張られたり小突かれたりしながら、じゃれている様子が見て取れた。

アリスミリアが観察していた限り、指導は丁寧。そして何より、ここまで子供たちになつかれる男は、そう悪い者ではないだろう。

約束していた1か月が過ぎる前、最後の練習のタイミングで、アリスミリアは稽古に混ざることにした。


「私にも指導してくださる?」


「アリスミリア様!!」

セリュディは、突然現れたアリスミリアに、想像以上に驚いていた。


「もう隠れていなくていいのですか?」

グレシアナが聞いた。

「ええ、大丈夫よ。協力してくれてありがとう」

「隠れていた、というのは……?」


「実は、これまでの稽古を見せていただいていたの。あなたの性格を知りたくて。良い指導者だと思ったわ」

「恐れ多いことでございます。お褒めいただき光栄です」


アリスミリアに対して、セリュディはずいぶんと仰々しい。

確かに身分の差はあるが、直接の関係性はないはずなのに。

騎士団で礼儀を叩き込まれているのかもしれない。


「剣の持ち方はこうでいいの?」

「ええ、美しい姿勢です。恐れ多くはございますが、もし指摘をさせていただくのであれば、もう少し手首を上げていただくと、さらに良いです。」

アリスミリアは手首の角度を調整する。

「そちらで完璧です。さすが、今でも素振りをされているのですか?」


「あら、あなた、私が騎士を目指していたのを知っているの?」


「はい、何度か練習でごいっしょしたことがあります。」

はじめまして、と言った時の微妙な顔はそのためのようだ。


「覚えていなくてごめんなさい。そうだったのね」

「昔のことですので。」

「私がはねっかえりだと知っていて、よく婚約を申し込んだわね?」

「はねっかえりだなんて、そんな。あの頃から練習熱心で、人一倍芯の強い方だと存じています。そういった方とこそ、ぜひ結婚させていただきたいのです」

内面を誉められ、アリスミリアは悪い気はしなかった。


「私は婿養子に入ってくれる方を探しているのだけど、あなたはそれでいいの?」

「はい、うちは兄が継ぎますので。それに、じつはアリスミリア様のご威光を借りたいことがあるのです。」

「威光を借りたい?」

「はい、ここにいる子供たちは皆、うちの領地にある孤児院の子供です。しかし父も兄も、金の無駄だと言って、取り壊そうとしているのです。

そうなればこの子たちは路頭に迷ってしまいます。


アリスミリア様と結婚し、伯爵家として、さらにはライオネル様の後ろ盾があれば、おそらく父たちも私の意見を聞いてくれると思うのです。」

なるほど、アリスミリアの家の力を借りたいというのだ。

アリスミリアからすれば、「守りたい」だとか、「一目ぼれした」とかありふれた口説き文句を聞くより、利益の目的で近づかれるほうが、よっぽどましだった。


「なるほどね……。ねえ、もし結婚したら、毎日私にも剣の稽古をつけてくれる?」

「ええ!?希望されるのであれば、もちろんです。いくらでも。身が粉になるまで。」

結婚したら、という前向きな言葉に、セリュディは動揺する。


「気に入ったわ。もし私でよければ、婚約してください。」

剣を構えたまま、アリスミリアははっきりとセリュディに婚約を申し込んだ。


「はい、はい…。なんてありがたき幸せでしょうか。すぐに、ライオネル様にご挨拶をさせていただきます。」


グレシアナはできるだけ邪魔をしないよう、二人の話が進んでいくのを見守っていた。

(目の前でプロポーズを聞けるなんて、こんな奇跡があるなんて!)

グレシアナの目はきらきらと輝き、今にも黄色い悲鳴が上がりそうになるのをこらえるので精いっぱいだった。


(稽古をつけてもらう、という依頼をうけて本当によかった……!!)

人知れず感動するグレシアナだった。




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