9.セリュディとアリスミリア
「お礼をしてくださると言うのなら、もしも結婚が決まりましたら、その日々を手紙で報告してくださいませんか?」
「報告?」
「ええ、私は恋愛小説が大好きでして…。現実の恋愛の話も大好きなのです。平和で退屈な日々についてでも、結婚後に起きたトラブルについてでも、何でもいいのでいろいろな話を聞かせてくれませんか?」
「そんなことならお安いご用だわ。私文才がないから、それは知っておいてね」
「なおさら楽しみですね。絶対に結婚相手を見つけなくては。」
「ところで、一方的にお相手の顔を見ることは規則上できないので、一度は顔合わせをいただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
「ああ、それもそうね。一度ごあいさつだけさせていただくわ。」
***
「こちらがアリスミリア様、こちらがセリュデイ様です」
「はじめまして。アリスミリアです。よろしくお願いいたします」
アリスミリアはスカートのすそをつまみ恭しく礼をした。
紹介されたセリュデイという男は長髪を結い上げ、白い正服を身にまとった細身の男だった。子爵家の第4子息らしい。
上品そうで、いかにも貴族という感じだ。王宮護衛団は騎士の中でも選りすぐりのエリートがなるものだ。
騎士団は貴族の中でも血の気の多い者が希望するので、セリュデイのような気品のある男が所属しているのは珍しい。
アリスミリアからすれば、上品さよりも逞しさに惹かれるため、肩すかしといえる。
「はじめまして…ですね」
セリュデイは歯切れ悪く呟いた。
もしかすると、過去に会ったことがあるのだろうか?
アリスミリアが質問をする前に、セリュデイはぱっと笑顔になる。
「セリュデイと申します。お会いできて光栄です、アリスミリア様」
「説明はさせていただきましたが、本日はごあいさつのみで、今後のお付き合いは私に剣術の稽古をつけてそれ次第ということになります」
アリスミリアはなんて意味のわからない話だと思った。自分で提案した話ではあるが、よく受け入れたものだ。
「グレシアナの成長の良しあしで私の指導者としての昇進の見込みをつけたいとのことですよね。お眼鏡に叶うとよいのですが」
「期限は一ヶ月。その後に改めてグレシアナの能力を確認して、成長を確かめます」
グレシアナが剣術は未経験、剣の持ち方もおぼつかないことは確認済みだ。
「それでは私は退室しますね。また一ヶ月後に。ごきげんよう。」
***
アリスミリアはロディとともに木陰に隠れ、2人の剣術の様子を見ることにする。
2人が訪れたのは、王都から離れた場所の教会だ。
結婚相談所からはずいぶん遠い。なぜこんな場所を指定するのか、アリスミリアは不思議だった。
すると、どこからか子どもたちが歩いてくる。見る見るうちに子どもたちは増え、10数人ほどだろうか?草原に集まると、楽しげにはしゃぎ始めた。
その後を追うように、背の高い2人が歩いてきた。
グレシアナとセリュデイだ。
「なあなあ、その人誰?」
子供たちのうち一人が聞いた。
「結婚相談所の職員だ。今日から練習に一緒に混ざってもらう」
「結婚相談所!?セリュディ結婚すんの!?」
「やっとかよ!遅いぐらいだぜ。おれらの世話なんてしてないでデートとかしろよなー」
「お兄ちゃんはサルーと結婚するのかと思ってたあ。サルーが悲しむねえ」
子供たちは結婚という言葉に盛り上がりだす。
「静かにしろ、始めるぞ!」
セリュデイはグレシアナと子どもたちの前に立つと、一声かけた。
はしゃいでいた子どもたちは静かになり、姿勢を正す。
「それでは基礎練習から。構え」
子どもたちは慣れた様子で構えると、そのままピタリと止まった。
セリュデイはグレシアナに構え方を指導しているようだ。
(子どもたちはこの地域の子達かしら?)
手慣れた様子からして、いつも指導しに来ているようだ。
グレシアナに教えさせるまでもなく、日頃から指導は慣れているらしい。
騎士団の扱う剣は貴重な金属でできており、鋭さを得る代わりに非常に重い。
振り下ろすだけでも困難なため、まずは構えたまま姿勢を保つ練習から始めるのが基本だ。
しかし筋力に関してはグレシアナに心配はいらないだろう。
一度構えの姿勢を教えられてからは、ピタリとその体勢を保っている。
アリスミリアも過去に騎士を目指し鍛錬をつんだことがあるため、同じ練習をした覚えがある。
同じ姿勢のまま30分は放置されるはずだ。
グレシアナは意外にも10分ほどで姿勢を崩し始め、セリュデイに注意されているようだった。
「初心者で10分も持てば上出来だ。本気で上達する気があるのなら、毎日この練習をするように。
まあ君は上達を目的としているわけではないだろうが…。私の結婚のことを思うなら、練習をしてもらいたいところだ。」
「もちろんです。せっかくなので剣術もものにしたいと思います」
「左手には盾を持つ必要がある。これは構えの姿勢ができてから追加するものだが、やってみるか?」
「盾は使ったことがあるので、こちらのほうが得意だと思います。」
グレシアナは発言通り、堂に入った姿勢で盾を構えた。
揺れることなく、鉄壁を感じさせる防御だ。
「すばらしいな……本当にこんなところで終わらせるのは惜しい。騎士団に入る気は本当にないのか?」
「私には向いていません。今の仕事が天職ですので」




