8.アリスミリアと名案
「ご無理はなさらないでくださいね」
「あなたは普段こういったものを食べているのね。」
栄養はわからないが、噛み続けることで顔の筋肉はつきそうだ。
「イノシシはたまにですけどね。肉を食べなくなるととたんに元気がでなくなるので、害獣の駆除もかねて狩りに行くようにしています」
「今度は狩りにもついていきたいわ!」
「いいですよ。危険ですから、ご家族様の許可ももらってきてくださいね」
「……聞いてみるわ。」
両親が許してくれるとは思えない。
いつかロディの目を盗んで来ることを計画するアリスミリアだった。
一通り食事や残骸の処理をした後、グレシアナ達は相談所に戻っていった。
「以前デートをした相手はお断りしたいわ。こちらから好きになれるような相手はいない?」
「自分から好きになれる相手、ですか。これまで好きになった人はどんな人でしたか?」
「…………いないかも…………」
アリスミリアは思い返してみたが、心当たりがなかった。
周囲も自分も決められた婚約者と結婚することばかりだったので、恋愛について考えたことがなかったのだった。
「それは難題ですねえ」
グレシアナは考え込む。
「これまでのデート相手はどこが合わなかったのですか?」
「将来の話や考え方が見えないのよ。猫なで声で口説いてくるばっかり。性格がわからないわ」
「そうですねえ……。庶民はどうしてもその日の生活で手一杯ですから。なかなか未来のことまで考えている人はいないんですよね」
「……それもそうよね」
アリスミリアは少し反省してしまう。貴族のように子孫や先々のことまで考える生活は当たり前ではないのだ。
「一人紹介したい方はいますが、貴族家のお方なのです。今は庶民しか興味がないのですよね?」
「……どんな人?」
「王家の護衛隊をされています。
相談所に登録の際、とても詳しくお相手の希望や将来の話をされていたので、先々まで考えてはいらっしゃると思いますよ。」
「……うーん。」
「その方の好みがアリスミリア様にぴったりなのです。」
「どんな好みを挙げていたの?」
「それは私からはお伝え出来ません。本人から聞いていただかないと。」
「けち。」
アリスミリアは思い悩む。
護衛隊なら、舞踏会で顔を合わせているかもしれない。自分で出会えるような相手であれば相談所で紹介してもらう必要がないのだ。
(……護衛隊か。)
アリスミリアは考えた末、名案を思い付いた。
「……グレシアナがその人から剣術を習ってくれるなら、会ってもいいわ」
「ええ!私がですか?」
アリスミリアはグレシアナに会うたび、この強靭な肉体を武闘に活かさないのはもったいないと思っていた。
先ほどのナイフさばきといい、剣術についても才能が感じられる。
王家の護衛であれば、一流の指導を受けてきた人物だろう。他人に教えるのも上手いはずだ。
アリスミリアはこの機会に、グレシアナを騎士として育てたいと考えたのだった。
「人に何かを教えるのって大変でしょう?指導している様子をこっそり見れば、その人の性格がよくわかると思うの。」
「そうかもしれませんけど……。向こうが受け入れるかはわかりませんよ?」
「断られたら会わないわ。性格を知るための指導だとばれたら優しくするに決まってるから、そうね……。グレシアナの習熟度次第で会うかどうかを決める、と言っておいてくれる?」
「仕方ないですねえ、わかりましたよ。」
ふと、相手がもしグレシアナをしごきにかかり、罵倒し、失敗するたびに体罰を加えるような男だったらどうしようかという考えが頭をよぎった。
もしひどい目にあうようだったらすぐに止めにかかるが、グレシアナのトラウマになる可能性もゼロではないのだ。
この鍛え抜かれた筋肉の持ち主が、多少のことでへこたれるとは思いにくいが、自分のわがままにつき合わせていることは間違いない。
「……わがまま言って、ごめんね。」
「急になんですか?まあ大丈夫ですよ。これも結婚相談所の仕事のうちです。」
もちろんそんなことはないが、グレシアナは器の大きさを見せた。
「お礼に今度宝石をプレゼントするわ。何がすき?」
「宝石なんて、やりすぎです!恐れ多い!」
功績よりも大きな見返りに、グレシアナは恐縮する。




