1.婚約破棄の多発
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3ヶ月後、婚約破棄の手続きはつつがなく完了していた。
アルフレードの親からエルミーヌへ、丁重に謝罪もあった。
「アルフレードが失態を犯してしまい本当にすまない。何度も考え直すよう伝えたのだが、意志は変わらないようで......」
「いえ、うちのエルミーヌこそ、何かしでかしたのでしょう。」
エルミーヌの両親は混乱していたが、長く付き合いのあるアルフレードの両親から直接謝罪があれば、これ以上騒ぎ立てるわけにもいかないようだった。
両親からは、むしろエルミーヌが何か粗相をしたのではないかと責めるような事さえ言われた。
言われなくとも、エルミーヌ自身こんな不幸な目に合うような罰当たりなことをしたのか、ここ数か月の行動を反芻し続けていた。
幸いにも父母を除けば、エルミーヌの心配したほど、婚約破棄の話を周囲に哀れまれたり、謗られたりはしなかった。
というのも、最近は貴族の間で婚約破棄が頻発している。
もともとは婚約破棄なんて、両家の面汚しであり、家名を落とし信頼を失う許されざる行為だった。
しかし、一度侯爵家で婚約破棄があってから、続々と各地の貴族間で婚約破棄が起き、今ではそう珍しくない事態となっている。
みんな理由は様々で、結婚前に不貞を疑われたり、一族が落ち目になったり、中にはまったくの言いがかりなこともある。
令嬢各位からすれば迷惑この上ない話だが、男性側から断られてしまえば、もうできることはないのだ。
婚約破棄のあと、屋敷の者たちはエルミーヌにやさしかった。
「エルミーヌ様、お力になれることがあれば何でもおっしゃってくださいね」
「今はゆっくりとお休みになってくださいまし」
メイドも執事たちも、だれもエルミーヌのことをあざ笑うような様子はなく、エルミーヌを心配してくれていた。
口々に声をかけてくれるメイドたちの気遣いが、今はとても身に染みた。
また、婚約破棄の噂をきいた友人たちが、心配して屋敷を訪れるようになった。
彼女たちはそれぞれ豪華な衣装をまとい、手土産を抱えて、次々とエルミーヌのもとへやってきた。
「エルミーヌ、本当にひどいことになったわね。でも、あなたはもっといい人を見つけられるわ」
「ええ、アルフレードなんて、あなたに釣り合っていないもの。前から、なよなよしていて気に食わなかったの!」
友人たちは励ましの言葉をかけてくれる。
以前は「気品にあふれたお似合いの二人」なんて言ってくれていたのだから、本心ではないことは明らかだ。
それでも、過激な言葉でまくしたてる友人を見ていると、少し気がまぎれるようだった。
「大丈夫よ、もう気にしていないもの。夜会で着飾る楽しみが増えたというものよ!」
エルミーヌはふん、と息を吐き、気丈を装った。しかしもちろん心の奥底にはまだ深い喪失感が残っていた。
まだ婚約破棄から3ヶ月しか経っていないのだ。笑みを作って応じるものの、心の中ではずっと婚約破棄のショックから抜け出せずにいた。
「まさか新しい婚約者がルミエラなんてね。宝石商あがりの男爵家令嬢を選ぶなんて、見る目がないわ!」
「しかもあの娘、態度がとても悪いらしいじゃない?夜会でダンスに誘ってもいつも無視してくるとか。」
「そうよ!ご家族とも口をきいていないとか。良い噂を聞かないわ。」
友人たちは口々にまくし立てた。
アルフレードの新しい婚約相手であるルミエラというのは、アルフレードの屋敷によく出入りしていた宝石商の娘だ。
その宝石商は業績向上により貴族として爵位を得た。その後も宝石の売買は続けているようで、アルフレードと話しているところもよく見かけた。
しかしまさか宝石商の娘に婚約者を奪われることになるとは。
エルミーヌはいまだに信じられない気持ちでいっぱいだった。
確かにルミエラは美しいが、もっと社交界で目立つような令嬢はいくらでもいる。
アルフレードはそんな彼女たちの誰にも興味を示していなかったのに。
彼は全く浮気などする様子もなかった。
どれほど美しい令嬢が近くを通っても見向きもせず、ただエルミーヌに向かって微笑んでいた。
そこもアルフレードを信頼し、愛していた理由だったのだ。
それなのになぜルミエラを選んだのか。エルミーヌは納得できずにいた。
エルミーヌは婚約破棄以来、自分の何が悪かったのか思い返しては、心当たりに気がついて青くなったり、アルフレードの自分勝手さに怒りが湧いて赤くなったりしている。
ある日、いつもの通り訪れた友人たちがエルミーヌを元気付けようといろいろな話をする中、エルミーヌは珍しい噂話を耳にする。
「ところで、聞いたかしら?以前婚約破棄にあったユルハーシュ夫人が、結婚相談所を利用していたという噂。」
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