表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
17/63

16.やってしまった


グレシアナの説得によって、エルミーヌは一度ヴォルガラスと会うことにした。



エルミーヌは待ち合わせ場所を結婚相談所から少し離れた場所の湖に指定した。



背の高い木々が湖の周りを囲み、自然のあふれる地域だ。



グレシアナによると訪れる人があまりいないので、聞かれたくない話をするのに良いそうだ。



湖につくと、すでにヴォルガラスが到着していた。馬車ではなく自分で馬に乗ってきたようだ。



この距離をよく乗馬などするものだ。

エルミーヌは執事に馬車で待つよう伝えると、ヴォルガラスに向かっていった。



エルミーヌに気がついたヴォルガラスが、視線だけこちらに向ける。



(自分から近づいてきなさいよ)



エルミーヌはヴォルガラスの不親切な態度にイライラしてしまう。



「少し歩きましょう。」



エルミーヌは声をかけると、二人は湖のふちをなぞるように歩き始めた。

大きな橋のかかった美しい湖だ。



「久しぶりね。お元気だった?」



「……まあまあ。」



「あなた、婚約の依頼をお父様に直接送ったでしょう。驚いたわ。」



「……」



(何よその態度は。)



ヴォルガラスはろくな返事をしない。婚約を希望している相手にする態度だろうか。



「ねえ、私のどこがそんなに気に入ったの?」



「……そんな恥ずかしいこと、」



『言えるか』という言葉をヴォルガラスは飲み込んだ。エルミーヌの真剣な顔を見て、何か答えを欲していると察したからだ。



「……なんかあったのかよ?」



エルミーヌは、何か自信を持てるような理由が返ってくることを期待していた。



これまでのことを思い出す。どう切り出したらいいか整理がつかなかった。



「もう裏切られたくないの。もし私が強くて、手が掛からないから結婚したいなら、それは間違いよ。見込み違いだから、婚約できないわ。」



話しながら、涙がこぼれてしまう。

エルミーヌはうつむく。やってしまった。



この男は泣き出す女がきらいなのだ。これでまた破談だ。



婚約できないと自分から言いながら、また婚約破棄になることを恐れてもいる。



(私自身も、どうしたらいいのかわからない。)



(弱い部分を見られたくない。ありのままを見てほしい。早く結婚してしまいたい。誰も信じたくない。)



もう誰かから否定されることに耐えられそうになかった。



男は何も話さない。

やっぱり拒絶の言葉を聞くことに耐えられそうにない。



「ごめんなさい、もういいわ」

エルミーヌはくるりと後ろを向いて、帰ろうと思った。



すると、何かが背中にぶつかってきた。

後ろから抱き締められているのだということに気がついたのは数秒後だった。



「行かなくていい」



頭のすぐ上から声がした。

ヴォルガの腕の力が強くなる。



「お前が捨てられたら、その度に何回でも拾ってやる。だから最後には俺のところに来い。」



それはエルミーヌが生まれてからずっと切望し続け、一度ももらえなかった、すべてを肯定する言葉だった。



「どうしてそんなに優しくしてくれるの?」



「……理由はそのうち教えてやるから」



エルミーヌは男に向き直る。



男の顔には面倒そうな様子はひとつもなく、ただ照れた姿だけが現れていた。



(私はもう大丈夫かもしれない。)

エルミーヌは思った。



(もし彼が、この先また誰かのように心変わりしたとしても。こんな言葉をかけてくれる人がいた、という思い出だけで、一生いきていけるかもしれない。)



対面する形で、エルミーヌはヴォルガの首に抱きつく。そしてまたさらに強く泣き出してしまった。

今度は安心の涙だった。



ヴォルガは困ってしまう。

エルミーヌを子供のように抱きかかえると、そのまま移動し、近くの岩に腰かけた。



エルミーヌは男の首に抱きついたまま、膝に乗るようにしてしばらくそのまま岩に座っていた。男はエルミーヌの背中をなでる。



「落ち着いたか?」

「……ごめんなさい。こんなところを見せてしまって。」

「いや、別にいい」



ようやくエルミーヌが泣き止んできた。



ヴォルガはしばらく抱き着かれたままエルミーヌの背中を撫でていたが、何かを少し考え、落ち着いたのを見計らって、エルミーヌの頬に手を添え顔を近づけた。


エルミーヌは一瞬で気がつく。

(キスをしようとしている!)



エルミーヌはとっさに男の口をふさいだ。

「何を……!」



男はエルミーヌの焦った顔を見て、小さく笑う。



「悪かったよ。」



「こんなっ……、まだ早いわ。」



エルミーヌは顔を真っ赤にする。



「キスなんてしたら、本当に好きになっちゃうもの。」



だから結婚まで待って、という言葉を言い終わる前に、男は崩れ落ち、エルミーヌの肩に顔を埋めた。



エルミーヌをまた強く抱きしめる。

「……早く結婚してぇ」



結局何が理由でヴォルガラスがこんなに執着してくれているのかわからなかったが、エルミーヌは初めて他人からの愛情を感じ、少し自分に自信が持てるようになったのだった。



お読みいただきありがとうございます!

面白かったら評価とブックマーク、コメントいただけると嬉しいです♪

誤字脱字はおしえてください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ