14.もう裏切られるのはごめんです
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数日後、エルミーヌは晴れやかな気分でハルミシアン家の屋敷に居た。
この気分の良さは、ようやく自分の身の上が落ち着きそうなので、安心からくるものだろう。
エルミーヌは社交パーティに出るのは久しぶりだった。
婚約破棄をしたことはもう知れ渡っているし、噂好きの貴族たちに、わざわざネタを提供してやることはない。
しかし今日は、懇意にしているハルミシアン家の末娘の社交会デビューだったので、断るわけにもいかなかった。
一瞬だけ顔を見せて、すぐに退場するつもりで参加したのだった。
エルミーヌに気がついた貴族たちが、こっそりとこちらを見ては、にやにやと口元を隠してささやき合っている。やはり居心地は良くない。
早くハルミシアン家の面々に挨拶を済ませたいと思って見渡すと、窓際にアルフレードがいるのが見えた。びくりと肩が小さく震えるのを感じる。
(このパーティに来ていないことは確認したのに!)
誰かが招待したのだろうか?
顔を合わせるのはまずい。平常心でいられる気がしない。
そう思っていると、アルフレードのすぐそばに、金髪の女性がいることに気がついた。
ルミエラだ。アルフレードはルミエラに何かささやくと、始まった曲に合わせて踊り出した。
きらびやかなシャンデリアの下、ホールの中央で誰よりも幸福そうに踊る二人。
アルフレードと、あの忌々しいほどに美しい黄金の髪を持つ浮気相手。
美しい金髪の二人は、まるで絵本から飛び出してきたようだった。
これ以上見ていたくない。なのに、その姿から目を離せない。
アルフレードとは舞踏会で何度も踊った。あの時自分は、あんなにもお似合いの二人だっただろうか?
大勢の人の中、二人だけが輝いているように目が離せない。じっと見つめていると、二人がおそろいの指輪を付けていることに気がついた。
(おそろいの指輪なんて、私はもらったことがない!)
エルミーヌは、逃げ出すように会場を後にした。
馬車に飛び込み、暗闇の中で小さく震える自分の手を見つめる。
(……何が『考えてあげてもいい』よ。滑稽だわ)
ヴォルガラスの顔が脳裏をよぎる。
彼はなぜ私を選んだ?
どうせ、伯爵家の後ろ盾が欲しいだけだ。あるいは、誰からも相手にされない落ちぶれた令嬢なら、簡単に手に入ると踏んだのか。
(また裏切られる。期待して、信じて、最後にはあのブロンドの女のような『本物』にすべてを奪われるのよ。)
屋敷に帰るとすぐに、エルミーヌは青白い顔のまま震えるペンを走らせた。
宛先はグレシアナだ。
『面会の件ですが、やはりなかったことにしてください。もう裏切られるのはごめんです。私には、結婚なんてする資格も、気力もありません。』
書き終えた手紙を封筒に入れる。
エルミーヌは鏡の中に映る、夕日色をした自分の髪を、呪うように強く睨みつけた。
***
エルミーヌからの手紙に対して、グレシアナの返事は『一度直接会って話したい』ということだった。
グレシアナはエルミーヌの屋敷を訪れることも提案してくれた。
しかし、父親に結婚相談所などというものを利用していることが知られれば、何を言われるかわからない。
多少遠くとも、自分が結婚相談所を訪れるほうがずっと安全だった。
エルミーヌは重い気持ちで結婚相談所へ向かった。
「エルミーヌ様、ようこそいらっしゃいました!」
植物に囲まれたカウンターの中、グレシアナはいつも通りの快活な笑顔でエルミーヌを迎えてくれた。
八つ当たりのような手紙を送ったことが悔やまれた。
「グレシアナ、せっかく紹介してもらったのにごめんなさい。だけど、私は誰かと結ばれるなんて無理よ」
明るいグレシアナの様子を見て、エルミーヌは安心と不安のぐちゃぐちゃな気持ちになってしまう。
「私、もう何もないもの。外見が美しいわけでもない。……家族も、誰も、私を愛さない。」




