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12.お断りします

エルミーヌはむっとする。

だから貴族は嫌だったのだ。婚約破棄の話が広まっている。



さらにエルミーヌが心配なのは、結婚相談所に通っていることを言いふらされることだ。口止めを依頼したところで、この男にそんな気遣いができるとは思えない。



「グレシアナ、なぜこんな人を紹介したの?

それに、私はここに通っていることを貴族に広められたくないのよ。この口の軽そうな男が言いふらしたらどうするの?」



「礼儀はなっていないかもしれませんが、相性がいいと思ったのです。一応ここであったことを口外しないように、事前に契約はしてあります。



それに彼自身も結婚相談所を利用していることは知られたくないので、大丈夫だとは思いますよ。彼は上司からの紹介相手を断るために、隠れてここに来ているのです。」



「上司からの紹介?なにが嫌なのよ?」

エルミーヌはヴォルガラスに聞いた。



「……俺が何か言うたびに、冷たいって泣き出す女なんだよ。」

話を聞くと、どうやらこんな感じらしい。



「ヴォルガ様、新しい盾をご用意しました!ぜひ使ってください!」

「いんねーよ」

「ひどいわ...!私の心配なんて貴方には重荷なのね...!!そんな冷たい言葉言われたことがないわ...!!」そう言ってわっと泣き出す。



「さすがに疲れる。こんな相手が毎日家にいたら帰れん。」


なるほど、それは確かに大変そうではある。

だから入り口で言い返したとき、嬉しそうだったのか。

少なくともすぐに泣きださないと思われたのだろう。



「お前は放っておいても気にしなさそうでいい。」

褒めているつもりなのだろうが、エルミーヌは嬉しくない。それに、どう考えてもヴォルガラスの言い方が悪いのも事実だった。



「そんなことないわ。私だって優しくて、大切にしてくれる人がいいもの。

紹介されている相手で困ってるって言っていたけれど、あなただって問題はあるわ。



泣き出すのは極端にしても、冷たい態度をとられるのは誰だって嫌よ。さっきだって失礼だった。言い方を考えなさい。」


エルミーヌはグレシアナに向き直った。

「確かにこれまで会ったことのないタイプだったけれど、お断りします。こちらだって、毎日喧嘩をしたいわけじゃないわ。こんな態度の人と結婚はできません。」



「そんな、エルミーヌ様。せめて一度デートしませんか?彼は機密情報を漏らさないよう、拷問に耐える訓練もしているのです!拷問にかけられたとしても、エルミーヌ様と会ったことは口に出しませんよ。」



「そういう問題じゃないわよ!性格が嫌なの!また改めて、庶民の紹介をしてちょうだい。日時は手紙で連絡するわ。」



そういって、エルミーヌは結婚相談所を後にした。


***



数日後、エルミーヌは王立図書館に来ていた。

婚約破棄をされてから、家に居づらいためだ。



父と顔を合わせてしまうと、婚約のことで謗られる。



できるだけ友人と舞台を見たり、お茶をしたり家にいないようにしているが、予定のない日は王立図書館に足を運ぶことにしている。



とはいえ、恋愛小説は読む気になれないし、音楽の本も今は気分ではない。



見るともなしに本棚を眺めていると、知っている顔が現れた。



「なんだ、この前の。」



「……」



なぜこんなところにいるんだ。



本とは無縁そうな、無神経男ヴォルガラスが立っている。



「……本なんか読むのね。」



このまま無視するのはさすがに不自然だろう。仕方なくエルミーヌは話しかけた。



「戦術について学べと言われてな。あんた、文字得意?」



文字に得意も何もないだろうと思ったが、思い直す。この男は文字が読めないのかもしれない。



「普通くらいだけど……。何?」



「この単語の意味わかるか?」



男が持っているのは辞書だった。「円錐」についての項目だ。



「『円錐型武器』があったんだが、円錐ってなんだ?」



口で説明するのは難しい。普段目にするもので円錐形のものは何かあるだろうか?



「こう…………。その戦術書に絵はかいてないの?見せなさい。」



手で形を説明しようとして諦め、エルミーヌは机まで向かう。ヴォルガラスの隣に座り、戦術書を開いた。



「この形が円錐よ。底が円になっていて、頂点がとがっている形。」



「この絵は三角形だろう。円錐と何が違うんだ?」



「横から見たら三角だけど、底面が円になってるのよ。先が鋭くて、深く刺すほどに傷を広げられるんじゃない?」



「ふうん。女なのに頭いいじゃん。」



エルミーヌはイラっとする。教えてもらっておいてなんて態度だ。



「そういう偉そうな言い方がよくないって言ってるの。こういうときは『ありがとうございます』と言うべきよ。」



「……。『ありがとうございます。』」



ヴォルガラスがあまりにもあっさりとお礼を言うから、エルミーヌは驚いた。お礼を言える程度の常識はあるらしい。



「あなたこれまで、どんな教育を受けてきたのよ。」



「俺は孤児だったから、教育も何もねえよ」



エルミーヌは納得する。騎士になる人の中には、騎士見習いから始めるものがいる。見習いは大抵が庶民なのだ。



そして活躍次第で騎士になり貴族階級を得る。

ヴォルガラスはおそらくそのタイプなのだろう。



だとすれば、所属している騎士団の影響は大きいはずだ。

騎士団の日ごろの言動が悪いのか。



考えたくないが、男ばかりの環境で、偉そうな態度の団員も多いのかもしれない。



「騎士団の影響かしらね。あなたの上司の例の紹介相手はよく我慢しているわ。」



「あれからも、相手から嫌われるようにどんどん冷たくしていってるんだが、全く引かないんだ。」



エルミーヌはうんざりする。その女性はよくそこまで耐えられるものだ。



「むしろ相性がいいんじゃない?結婚するべきよ。」



男の外見を見る。

大きな身長に、鍛えられた腕。

美青年とはいえないためエルミーヌの好みではないが、その女性は男らしさに惹かれているのだろうか。



「その子はなんでそんなにあなたが好きなのかしら?」



「……盗賊に襲われてたところを助けたんだ。俺を王子様とか呼びやがる。」



エルミーヌは、王子のイメージとはかけはなれたヴォルガラスの姿を見て笑ってしまった。



けれど、それは確かに好きになるかもしれない。運命を感じたのではないだろうか?



「その子の外見は好みじゃないの?」



少しかわいそうだと思ってしまった。その女性にチャンスはないのだろうか。



「好みも何も、女なんてみんなかわいいだろ」



男は、「女はどれも小綺麗だからなんでもいいと思ってた、性格が大事とはなあ」なんて呟いている。



エルミーヌは顔が火照るのを感じた。自分に対して言われた訳ではないのに、喜んでしまっているのを認めたくなかった。



グレシアナはこれを知っていて、彼を紹介したのかもしれない。

髪色にコンプレックスを感じているエルミーヌにとって、外見の区別をつけない男は貴重だ。



「ヴォルガのお知り合いですか?」

ハッとすると、そばに男が立っていた。



「ヴォルガ、紹介して」男が口を開いた。



「あー、エルミーヌ、こいつはセリュディ。騎士の同僚だ。セリュディ、こっちはエルミーヌ。」



「エルミーヌ様、はじめまして。セリュディと申します。」



「はじめまして。エルミーヌです。」



エルミーヌは急いで立ち上がり、頭を下げた。



お読みいただきありがとうございます。

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