11.三人目のデート相手?:騎士
数日後、エルミーヌはグレシアナの元を訪れていた。
ノクティアスとの今後のデートは断りたいと伝えに来たのだ。
すると、デートから数日しか経っていないのに、すでに向こうから断りの連絡があったという。
グレシアナは申し訳なさそうな顔をして言った。
「ノクティアス様によると、『彼女は話し過ぎです。僕は聞き上手の女性の方が合うと思うのです。
絵画についての知識をひけらかしすぎだし……。ぼくの自信がなくなってしまう。
きれいな人は気が強くて怖いです。まあ結婚は考えられないけど、楽しい時間ではありました。1年に1回会える友人としてだったらよかったかも。』とのことでした……。」
エルミーヌは笑ってしまった。
(あんなに無口なのに、聞き上手が希望?私が話さなければ、無言の空間が続いたに違いないのに。)
結局良い方には転ばなかった。
しかし、要は彼はエルミーヌの知性を見てくれたのだ。
「自分を脅かすほど知識のある生意気な女」として感じたのだろう。彼はあろうことか嫉妬までしてくれた。
(私という人間の知性を見て、本気でぶつかってきてくれたことが、こんなに誇らしいなんて。)
エルミーヌはデートを断られたものの、そう悪い気分をしていなかった。
「ねえグレシアナ、私ずっと、髪の色がコンプレックスだったの。
だけど二人と会って、いろんな考えかたがあるのだと知ったわ。
世の中の人は、意外と髪色ばかり気にして生きているわけではないのね。」
エルミーヌの気持ちは不思議と晴れやかだった。
怪しかったけれど、結婚相談所に来てみてよかったかもしれない。
髪の色、とグレシアナはつぶやいた。
何か思うところがあるようだ。
「髪色を気にされているならば、さらに面白い男がいます。庶民ではないのですが、一人貴族と会ってみませんか?」
***
後日。
グレシアナの薦めにより、予定していた庶民の紹介を変更して、その貴族に会うことになった。
まずは結婚相談所で顔合わせをしてみないかとのことなので、エルミーヌは相談所に向かう。
するといつもの店の入り口近くで、今日は素振りをしている男がいた。
エルミーヌはグレシアナに最初に会ったときに、体の大きさに驚いたが、この男もかなり大柄だ。グレシアナと同じくらいかもしれない。
「おそいじゃねえか、待ちくたびれた」
男がエルミーヌに気がつき声をかけてくる。この男が、グレシアナが紹介したいという貴族の男だろうか。
「ごめんなさいね、土砂崩れで道が通れなかったのよ。」
そう大して遅くなった覚えはないが、案外時間に細かいタイプなのかもしれない。
貴族の割に口のきき方を知らないことが気になる。
服装からして、騎士だろうか?
「貴族の女っていうのはろくに時間を守んねえんだよな」
男はため息をつきながら呟いた。
「お嬢様になんて口の聞き方を!」
エルミーヌの後ろにいた執事が声をあげた。
本当に口のきき方を知らない男だ。
エルミーヌは辺りをチラリと見る。周りに人は居ないようだ。
「男の癖に器が小さいわね。あなたごときが貴族の何を知っているのよ。」
この言動からしてこの男に敵は多そうだ。
言い返して怒りを買っても、今後不利益はないだろうと考えた。男の味方になるような従者も見当たらない。
意外なことに、男は言い返されたことに怒るでもなく、むしろ小さく笑ったような気がした。
男が口を開きかけた時、タイミングよく、グレシアナが声をかけてきた。
「エルミーヌ様ようこそいらっしゃいました!どうぞこちらへー!」
部屋に向かいながら、グレシアナは心配そうに声をかけた。
「もう喧嘩されてました?」
「この人、口のきき方がなってないわ!どこで見つけてきたのよ?」
エルミーヌが吠える。
「グレシアナ、こいつなかなか悪くない。」
男はなぜかまんざらでもない様子だ。
「そうでしょう!エルミーヌ様は素敵な方ですから。」
『なかなか悪くない』?偉そうに、とエルミーヌは思った。
部屋について、男はどかりとソファーに座りこんだ。
エルミーヌは男の真正面から少しずれた位置に腰掛ける。
「エルミーヌ様、こちらがご紹介したかったヴォルガラス・キャストロウ様です。男爵の爵位をお持ちです。」
ヴォルガラスという男はこちらをじっと見つめている。この態度で本当に男爵?
「ヴォルガラスだ。ヴォルガと呼んでくれ。あんたかエルミーヌ?」
「……はじめまして、エルミーヌ・ユールドースです。」
「あんた、婚約破棄にあったやつだろ?」
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