10.二人目のデート相手:画家
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そして数日後、今日は結婚相談所で紹介された二人目の相手と会う予定の日だ。
二人目は画家をしているという。
エルミーヌは今回は青いリボンを頭に巻いてきた。今回はそれを目印として会う予定だ。
先ほどから気になっているのだが、なにやらずっとエルミーヌの近くをうろうろしている男がいる。
その男は、手には青いスカーフを持っている。
明らかにこちらをちらちらと見ながらも、話しかけてこない。
おそらく待ち合わせの相手だろうと気がついたエルミーヌは、こちらから話しかけてみた。
「ノクティアスさんですか?」
男はわざとらしく肩をびくっと震わせ、控えめに返事をした。
「そ、そうです……。」
目まで覆うぼさぼさの前髪、猫背、小さな声。以前デートをした、堂々としたマルケセインとは対照的な男だった。
向こうから声をかけて来なかったことに少し苛立ちながら、エルミーヌは挨拶をした。
「エルミーヌです。今日はよろしくお願いいたします。」
「は、はい……。」
ノクティアスは歯切れの悪い返事を返した。
今日は楽しめないかもしれない。
エルミーヌは考えながら、画廊へと向かった。
画廊に入ると、ひんやりとした空気と、絵具と古い木材の匂いが混ざった独特の香りが鼻をくすぐった。
高い天井から柔らかな光が差し込み、壁一面に絵画が並んでいる。
ここまでの道中、彼はほとんど全く話さなかった。見かねたエルミーヌが何とか質問をしても、「はい」とか「えあ」とか曖昧な返事を返すばかりで、まともに会話にならなかった。
今日は本当に無駄な時間かもしれない。
エルミーヌが一枚の風景画の前で足を止めると、隣にいた青年が、急に息を吸い込んだ。
「……あ、これ……いいですよね」
先ほどまでの小さな声とは違い、はっきりしている。
「この空の雲、少し灰色がかっているでしょう?白い絵の具は高いので、だいたいみんなネズミの骨を粉にして使ってるんです。骨以外のごみが混ざるとこんな色になります。」
エルミーヌは目を丸くした。こんなに饒舌に話せるのね。
ネズミの骨を使うというのも興味深い話だ。この流れを止めないよう細心の注意を払いながら、エルミーヌは答えた。
「まあ……!そんな工夫が。ネズミたちもまさか自分が空の一部になるなんて考えもしなかったでしょうね。」
それから彼は、別の絵の前でも止まり、
「この人物の影、わざと歪ませて感情を表してるんです」
「この人、最近貴族の肖像画を任されて調子に乗ってて……。他の仕事を全部弟子に任せたのがばれて、仕事を失いそうなんです。」
と、次々と話し始めた。
先ほどの内気な姿はどこへ行ったのかと思うほどだ。
エルミーヌは思わず笑みをこぼす。
「いろいろな噂があるのですね。まるで社交界のようですわ」
「ありますあります。あの人は色をごまかすとか、この人は弟子に描かせてるとか……」
気づけば、二人の距離は自然と近くなっていた。
エルミーヌも絵画が好きなので、口数が多くなっていった。
「この絵は、古い王都の礼拝堂を参考にしているのかしら。柱の配置がとても似ているの」
青年はぱっと顔を上げた。
「えっ、わかります?この作者は王都出身なんです。」
「幼いころ、よく連れて行ってもらったのです。光の入り方がそっくりで」
「すごい……それ知ってる人、画家でも少ないですよ」
彼の目が、喜びで輝いた。
そこからは、まるで堰を切ったようだった。
「この画家は陰影を重視してて」
「色の保存には卵黄を混ぜる技法が――」
「アダミスが使っていた方法ですわね」
「これは下絵に炭を使っているのかしら?」
言葉が弾むたび、青年はどんどん生き生きしていく。
「……こんなに絵の話ができる人に初めて会いました」
「まあ、わたくしもですわ。こんなに楽しく話せるなんて」
出会った当初の心配とはうらはらに、思わず話が弾んだことをうれしく思った。
満足感を感じていた帰り道、ノクティアスが急に足を留め、草むらに走っていった。
エルミーヌは小さく悲鳴を上げる。
「突然どうしたのですか!?」
「ミツバチがいたんです!捕まえると買い取ってくれる人がいるんですよお。」
ノクティアスは言いながら、ずっと持ち歩いていたのか、瓶を取り出しそこにミツバチをいれた。
瓶のなかでぶんぶんと蜂が飛び回る音が響いている。
……やはり彼とは生きている環境が違いすぎるかもしれない。




