世界の終わりと、新しい世界へ①
サジタリウス商会に勤めてから、今日でちょうど半年が過ぎた。
あまりにも激しく濃い時間のせいで、あっという間だったような気がする。
試用期間が終わって正式採用となった私は、異動願いを出すことなくこのまま二号店で働くことに決めた。
まだ学び足りないと気づかされることが出てきたということもある。
ただそれだけでなく彼女が目の前で石に変えられたあの日から、私を取り巻く環境は緩やかに改善していたからだ。
まずあの胡散臭い支店長が退職した。
私と話をしたときを最後に、誰も彼の姿を見てはいない。
表向きはゾーイの暴走を止められず責任を感じてということになっているが、そんな繊細な人じゃないことは十分に思い知らされている。
おそらく今頃はほとぼりを冷ますために遠くへ行ったか、別の誰かになりすましているかだろう。
私のものになれとか痛いことを言っていたが、その場限りの遊びに付き合う趣味はない。
二度とお会いしないことを願うばかりだ。
そして彼は辞めることを事前に上層部へ申し出ていたようで、さほど間を空けずに新しい支店長が着任した。
それがなんと、マリッサ先輩だったのだ。
マリッサ先輩はジェシカさんと共に世間の目が厳しい中でも上手く連携してカヴァレとの業務提携を成功させた。
その功績により支店長という地位を手に入れたのだ。
今は美術品部門で言うところの掘り出し物の山の前でカヴァレのカトラリーと組み合わせる商品を検討しているところだろう。
女性初の支店長ということもあり着任祝いの飲み会は大盛り上がりで、マリッサ先輩は一生現場で働くと宣言していたから、これからも仕事に邁進していくに違いない。
そして提携先のカヴァレからはシュトラウスさんやダリルさんから私に電話が掛かってくる。
もちろん仕事の話だが、ダリルさんとはひっそりとお互いを取り巻く状況について情報交換をしていた。
ダリルさんは商会との業務提携の窓口となってからさらに仕事に打ち込み、周囲の目も少しずつ和らいだものとなってきたという。
以前のとおりに信頼を取り戻すにはまだ時間がかかるけれど、着実に歩みを進めているということだ。
そういえば約束を果たすため、一度だけ彼と食事会をしている。
けれど特に親しくなることもなく、なんとなく微妙な空気のままで終わっていた。
直前まで二人きりだと誤解していたようで、上等なスーツが萎れて見えるくらいに項垂れていたのだ。
以前に電話で話したときは打ち合わせも兼ねてということだったのでクラウスさんに『どんな内容を話したらいいですかね?』と話したら『……あの野郎』というクラウスさんらしからぬ暴言と共に、魔王を思わせるようなどす黒いオーラを纏って、『こちらで全部段取り組んでおくから任せて』といい笑顔でお店の選定から手土産まで何から何まで請け負っていただいた。
結果、蓋を開けてみればシュトラウスさんも同席する立派な商談になっていた。
同席したシュトラウスさんも空気から何かを察したようで、耳の垂れた大型犬のようなダリルさんを『相手が悪かっただけだよ』とか『君だって負けていないと思う』と優しく慰めているので、ここは戦友の出番だと思い、『頑張ってください、応援しています』と言ったら、全員が微妙な顔をしていた。
なんというのが正解なのだろう?
相変わらず、こういう場面は苦手だ。
さらにアレックスさんを含めたゾーイの取り巻きたちは、ほとんどが辞めるか異動していった。
ゾーイに依存していたことよりも、新人であった私に自分たちの失敗をなすりつけたというのが明らかになって居心地が悪くなったらしく、他国の支店や他部署への異動を希望したそうだ。
異動先が見つからない人の中には自ら商会を去ることを決めた人もいて、恨まれる謂れはないのだけれど謝罪もなかったことから自分達が悪いとは欠片も思っていないのだろう。
ゾーイの口車に乗せられて、過去に何人も同様の手口で辞めさせていたそうだから引き取り手に恵まれなくても自業自得だ。
決して寛容でもなく優しくもない私は、心折られて辞めさせられた人たちがどれだけ辛い思いをしたか思い知ればいいと思っている。
ちなみにアレックスさんを含めた何人かは私に失敗を負わせるという姑息なことはしていなかったけれど、冤罪なのに調べもせず私を何度も糾弾していたからそういう方向で風当たりが強くなっていた。
私が商品提案会の結果でもゾーイに圧勝したから余計に、だ。
強風に負けたアレックスさんは異動を希望し、第二ギルテ港にある倉庫へ……つまりジェイコブさんの部下になることが決まった。
繊細で優しいと評判の彼が畑違いの場所でどれだけ頑張ることができるのかは本人の心がけ次第。
ちなみに異動先が決まらないと聞いてクラウスさんがジェイコブさんに打診したら、世間話のついでに私との間にあったアレコレを聞いて『ほう、あのお嬢さんに……よし、俺が引き取ろう。煮ればいいか? それとも焼くか?』と聞かれたそうなので、どっちでもいいと答えておいたらしい。
二人は同期で一番の仲良しだったはずだよね?
アレクシス様のときも思ったけれど女にうつつを抜かして友人を失うというのは彼らにとって鉄板なのだろうか?
クラウスさんからは『第二ギルテ港からは定期的に商品を送ってくるよう指示したから、わざわざイライザが行かなくても大丈夫だからね』といい笑顔で言われている。
まあ自称目利きがいるのだ。
ある程度商品価値がつけられなければ、それこそ職務怠慢というものだろう。
上手く掘り出し物でも見つけたら挽回できるという意味では、いい職場に引き取られたのではないかと思う。
ちなみに商会長を筆頭とした上層部は、ゾーイのいない今、商会の舵取りに必死になっているという。
なんでも彼女に骨抜きにされて以降は、予算配分や運営方針を丸投げしていたそうだから方向性が掴めず議論がまとまらないらしい。
そこで唯一、ゾーイに取り込まれなかった営業本部長が見かねて口を出し手を出しているうちに、人事部長の後釜として経営陣の一席を手に入れたとのことだった。
かつては立場的に営業本部長が参加すべき会議も人事部長によって意図的に外されていたそうだから本来の姿に戻ったというべきか。
クラウスさんによると営業本部長は仕事と出世にしか興味がないらしく、出世につながると判断すれば見返りに快く力を貸してくれるらしい。
ちなみにクラウスさんがあと一歩のところでゾーイから逃げ切ってこられたのは彼の助力があったから。
そして表向き人事部長はゾーイの失敗に巻き込まれ失脚したことになっているが……実のところはどうなのだろう?
辞めたあとの人事部長の動向については、私が知らなくてもいい話だといつもと変わらない素敵な笑顔でクラウスさんは微笑んでいた。
最後にゾーイは……。
石になったあとの行方を私は知らない。
気になるけれど、それを聞いてしまえば二度と元の場所には戻れないような予感がしていたから聞かない。
触らぬ魔女に呪いなし、私もクラウスさんとの時間を守りたいから。
それに今、心を占めるのは別のこと。
握りしめた一枚の写真を鞄にしまって、カテリアにある六つの月の扉を開けた。
「こんにちは」
この時間はお客様もまばらで、店内はずいぶんと静かだ。
視線が合うとマルテさんがパッと笑顔を向けてくれる。
「あら、いらっしゃい!皆さん奥で待っているわよ?」
「えっ……連絡したのはエレナさんだけだったのに?」
「店長から今日は全員揃うって言われているけれど、聞いてなかった?」
あら、うっかり言っちゃったかも……そう呟いて、マルテさんは小さく舌を出す。
そういう仕草が彼女にはとても似合っていて、少しだけ緊張が解けた。
笑顔でありがとうと答えて奥に向かう。
そして立ち入り禁止の看板のかかる扉を開いた。
「いらっしゃーい、待ってたよー!」
賑やかな第一声はケイトさんだ。相変わらず手には食べ物を……今日はチョコレートのたっぷりかかったドーナツだった、を握っている。
「待ってたわ、さあ座って?」
エレナさんがポンポンと隣の席を叩く。
彼女の隣にはルーテさんが座り、さらに隣にはアリアさんとケイトさんが、そして少し離れたところでレイさんが椅子の背を跨いで腰掛け、隣にあるソファーにはレジーが行儀良く座っている。
私は思わず目を丸くした。
「……本当に全員揃ってますね」
エレナさんからは緊急事態でもなければ全員集合はないと聞いていたのに。
するとレジーが真剣な眼差しで答えた。
「今日の話し合いには、全員が集合すべきという未来が見えたの」
「つまりエレナが暴走するっていう未来が見えたっていうことだな、今日はそういう内容なんだろう?」
「そういえば……きっと、そういうことになりますね。配慮が足りなくてすみませんでした」
「いいんだ、暴走しがちなエレナが悪い」
「もうっ、ひどい言い方! それで内容は何なの? 早速聞きたいのだけれど?」
私は頷いて、先ほどまで握りしめていたものを含めて写真を鞄から取り出した。
とある商品の角度を変えて写したものを何枚か、それを見やすいようにテーブルの真ん中に置く。
「これは、指輪? しかも三種類ある」
さっそくおしゃれにこだわりのあるルーテさんが食いついた。
写真の中央に映るビロードで覆われた箱には、同じ大きさで装飾の異なる金の指輪が収められている。
拡大した指輪の写真を一枚一枚手に取り、薄くなった指輪の文字を指でなぞって周囲の装飾を確かめた。
「装飾は、王冠と、大樹、それから小さな花ね」
「はい、そのとおりです」
「この文字は……どこかで見たことがあるわ、ずいぶんと昔だけれど」
「聖代ヴィリデレオ語、しかも何箇所かに古語を混ぜている」
「ケイトさん、本当になんでもご存知みたいですね」
知識面での死角はなさそうだ。
追加したドーナツを頬張りながら、ケイトさんはドヤ顔で親指を立てる。
一応説明したほうがいいかと聞いたらそれは頷いたので、指輪の文字の一つ一つを読み解く。
隠された文を見つけ出すのは簡単だ、古語だけを省けばいい。
「神に仕えし者」
「死を超越せし者」
「王に選ばれし者」
そしてそれぞれの指輪の装飾が象徴とするは乳香、没薬、黄金。
そう答えたところで、ケイトさんは目を見開き、口からはみ出たドーナツをこぼした。
アリアさんが慌ててナプキンを差し出してドーナツを受け止める。
「ちょっとケイト、汚いわよ! いきなり放心してどうしたのよ?」
「三つの象徴、神、死そして王。しかも装飾は、捧げ物と同じ」
「ケイト、何が言いたいの?」
「三賢人だ」
「……は?」
「賢者は三つの資質によって分かれて存在していた。アルスの悩んでいた属性の違う能力を融合させたくても反発するという理由はこれだったんだ」
アルスさんから相談を受けていたらしいケイトさんは、正しく指輪の意味するところを見抜いた。
賢者の資質は根が一つではない。
三種類あって、それぞれが独立して存在する。
だから資質があろうとも、作り出せるものと作り出せないものがあった。
それを知らしめるために指輪は三種類存在するのだ。
ケイトさんは慎重に残りのドーナツを皿に戻すと、値踏みするような視線を私に向ける。
残る皆の怪訝そうな視線もまた、私に向いた。
「これだけの知識を持つ君は誰だい? いや、聞き方が違うな。かつての君は何だったんだい?」
「この知識は王女時代のものです。私は、ソフィア・グレース・シュワルツェ。歴史上最悪の王女と名高く、血塗れソフィアとも呼ばれています」
「それはもう知っているよ、その先にあった真実が知りたい」
私は口元を綻ばせる。
さすが、常に一歩引いたところで全てを把握しているケイトさんだ。
本質を見抜いて突くことがうまい。
「私は王族の一員にして、当代唯一、賢者としての資質を持つ者でした」
「はっ? だが君は女性で……」
そう言いかけたケイトさんがハッとした表情を浮かべ、直後に黙り込んだ。
彼女は探るような皆の視線を受けても動じることはない。
ようやく顔を上げた彼女は先ほどまでのものとは違い、どこか憐憫を含んだ顔で微笑んだ。
「我々とは違って賢者となる資質に性別は含まれていなかったということか。でもあの当時の情勢や風潮では、さぞかし苦労しただろうなー」
私は肯定も否定もせず、無言のまま微笑みを浮かべた。
当時は女系を認めない風潮があり、暗黙の了解で王となれるのは男性だけだった。
王がはめていた指輪は「王に選ばれし者」の意味を持ち、象徴は黄金。
そして歴代の賢者は生まれ順に関係なく王に選ばれていて……皆、男性であった。
賢者は男性にしか能力が芽生えないのではなく、王になれる男性が賢者でなくてはならなかったのだ。
もし私のように女性が賢者の資質を示したとしても、意図的に除外されてきたのだろう。
それなりに歴史ある王家で賢者と呼ばれる存在が稀であったのは、これも理由の一つ。
ケイトさんが賢者の資質を受け継ぐには性別も条件として含まれていると思ってしまうほどに徹底していた。
……ただし、私が秘密裏にでも賢者の資質を持つ者と認められなかった理由はもう一つあるけれどね。
私を娘と認められない父と母が、そして王位継承に差し障るとして兄が拒んだからだ。
そして私への当てつけのように、はなから賢者の資質を持たない妹を溺愛した。
自分達を凌駕する力を有した私よりも劣る存在である妹のために私から奪うことをよしとしたのだ。
そしてそのいわれなき差別こそが稀代の悪女が生まれたきっかけでもある。
まあ、もう終わったことではあるけれどね。
歴史の狭間で翻弄されたのは遠い過去のこと。
今はただ、淡々と私だけが知る事実だけを語る。
「私の知識では賢者となる資質の一つは、瞳に王の色を持つことでした」
「王の色?」
「アルスさんのような、金とも琥珀とも思えるような微妙な色合いの黄金色です。ブライトン公が金の瞳にこだわったのは、この黄金色が賢者となる資質の一つであったからでしょう」
私は王冠の装飾が施された指輪を指さした。
王の色とは、すなわち黄金。
この指輪は王が受け継ぎ、賢者の資質を持つ者が生まれればその者に指輪を引き渡すとされていた。
それなのに父は、ずっとこの指輪をはめていたのよね。
本来であれば私が受け継ぐべきこの指輪を、まるで見せつけるかのように。
「そしてもう一つは守護石のような魔法石を作り出すことでした」
私はエレナさんの首元に下がる守護石を指さした。
彼女は驚いた表情を浮かべて石を握りしめる。
この試練で皆がつまずくのだ。
王となった父も、公爵家の令嬢でありながら王の色を受け継いだと自慢していた母も、賢者になることを夢見ていた兄も戯れに受けただけの姉も。
必要とされる材料を過不足なく揃えて挑んだが、そもそもの作り方がわからなくて挫折したのだ。
「試練は一度きりです。なぜなら一回で賢者の資質を持つ者かの判別がつくから。それに材料が希少で手に入れにくいものが多いこともあるでしょう。つまり次は許されません」
体調が悪い、材料の質がよくなかった、精神的に不安定だったから、そして自分は女性だから。
さまざまな理由をつけて彼らはできない自分を自分なりに納得させただろう。
それが、伝承のとおりに一回にしてできてしまう人間がそばにいた。
しかも娘で、妹で、女性だ。
それを知った彼らがどう思うか?
そこまで話したところで、ケイトさんが不思議そうに首を傾げた。
「それならイライザちゃんは、どうやって作り方を知ったの? 本で見たとか。」
「いいえ。その答えは、たぶんエレナさんが知っています」
好奇心旺盛なエレナさんなら、たぶん聞いているはず。
微笑む私に、彼女は慌てて首を振った。
「えっ、でも私、理論はからっきしダメなのよ!」
「そうではありません。たぶんアルスさんに聞いたのではありませんか? 守護石をどうやって作ったのか、と」
「アルスに? ……ああ、ええと聞いたか。なんとなくできそうで、やったらできたっていう全く参考にならない答えが返ってきたような」
「同じです。調べたのではありません。なんとなくできそうだと思って、やってみたらできたのです」
皆が困惑したような表情を浮かべる。
ただ、ケイトさんだけが目を輝かせて何度も頷いていた。
「うんうん、私もそういうところがあるから、わかるよー。なるほどね、生まれつき才能があったわけか。だから、それがもう一つの資質だと……」
「そういうことです。たとえもう一度、彼らが同じ材料を揃え、私自らが教えたとしても作れないでしょう」
なぜなら勘を教えることはできないから。
必死の形相をした父と兄に詰め寄られ、母や姉に泣きつかれても、無理なものは無理。
つたないながら一生懸命説明しても全く理解できなかったのだ。
そういった諸々の事情を含めて、与えられるのは一度きりの機会。
そして女性であろうと平等に試す機会が与えられるのも、そのためなのだろう。
素質があるかは、性別だけでは判断できないからね。
賢者となれる資質は内面に由来するもので、その血を濃く残すために女性であろうと国外に出すことは憚られた。
おそらくあのまま生きていたら、無理矢理国内にいる貴族の子弟に嫁がされていただろう。
……自身の散々な評価のせいで、愛されたとは到底思えないが。
湧き上がる怒りを逃すように、深く息を吐いた。
「家族からは元々疎まれていましたが、これが決定打だったのでしょうね。完全にいないものとして扱われるようになりました。ああでも、それ以外にもっと決定的な要因もありましたか……」
「決定的な要因?」
「主君であった王家の血が絶え、当時王家の血に近く、最も力のあったシュワルツェ家の当主が推されて国王となり、聖代ヴィリデレオ国が誕生しました。そんな経緯があり、歴代の当主は王に選ばれし者であるという誇りを何よりも大切にしたのです。それを裏付けるように、シュワルツェ王家で認められた賢者の作った魔法石は全て王の色である金色、王や王となる者の身を守る守護石でした。推測ですが……アルスさんも血筋を遡ればどこかで王族と繋がっているはずですよ?」
エレナさんは無言のまま眉をひそめた。
知っているのか、未だ知らずにいるのか。
そこはわからないけれど、アルスさんはとても大事なことを伝えていないらしい。
この話が終わったら、彼をとことん追求して確かめる気だろう。
「とはいえ作られた魔法石は試しです。どのような賢者となる資質を持つかを見極めるための試金石に過ぎません。賢者となった者が作る魔法石とは完成度に雲泥の差があると言われています。それでもシュワルツェ王家としては価値を示すために王の色を求めました。理由はシュワルツェが王に相応しいと認めさせ続けるためにです。そして私が守護石を生み出せれば、また家族の態度も変わったかもしれません」
「……違ったのね」
「枯れた大地を思わせるような赤褐色でした」
写真に視線を落とし王冠の隣に並ぶ別の指輪をさす。
装飾は没薬、三賢者では受難と衰退を象徴する。
「鑑定の結果、死を超越せし者であると言われました」
さまざまな種類の視線が突き刺さる。
鑑定結果を聞いた私は、前世の記憶を持ちながら別の人間として新たな生を歩む自身に相応しいと思った。
だが、父たちは違ったのだ。
できあがった魔法石を一目見て激怒した。
王の色を持つ守護石ではないばかりか、受難と衰退を象徴する石など不吉なだけだ、と。
そして石を私に投げつけ、怒りに任せてこう言ったのだ。
『他人の命をもてあそぶような資質を持つおまえは最悪の王女だ』と。
おそらく偶然この台詞を聞いた者から噂が流れ、血塗れという不名誉な名がつけられたのかもしれない。
噂にあるような他人の血を捧げさせたり、命をこの手にかけたことなど一度もなかったというのに。
「ちなみに魔法石の効果はどんなもの?」
「私の魔法石が持つ効果は蘇生。余談ですが私の作ったものは賢者の資質を持つ者が作ったにしては出来も良かったそうですよ? 瀕死の重症者だけでなく、死んで間もなくの肉体が維持している状態であれば完全に息を吹き返すことができるそうです」
「マジか……」
「えっ、ケイトでもできないの?」
「できるけどアンデットになるよ?」
「それはちょっと困るわね」
死者の蘇生。
蘇生石の使い方は石を削って粉薬のように経口摂取させるのだという。
どれほどの量を使用するかは生前の症状や体質により違いが出るため、はっきりとは断言できない。
ただし、一度息を吹き返せば、あとは治療薬などの補助程度で生まれつきのものですら完全に治すことが可能だ。
そう答えると、ケイトさんは目を見開き、顔色を悪くした。
おそらく魔女の力では手の出せない領域のことだからなのだろう。
「賢者の扱う術式の構造は魔女のものとは全く異なる。根本的な考え方からして違うというのかな。材料も工程も違うから、同じ効果を発揮するものであっても似て非なるものになる。ただ魔女の力に置き換えれば、なんとなくでもイライザちゃんのすごさは理解はできるよ。たとえるならアルスの守護石は反転と結界の術式、イライザちゃんの蘇生石は治癒と回復の術式といったところか。単体でも上位術式だし、重ね掛けできる時点で最上位に位置付けられる高等技術だね」
「ブライトン公の言葉を借りるなら、神から分け与えられた光の力なのでしょう」
「それならブライトン公が作り出そうとしたものは、もしかして……」
「蘇生石の効果を知って、再現しようとしたのかもしれませんね」
「それだけでも十分すごいものなのに、王は何が気に入らなかったのだろう?」
父は誰よりも王に選ばれた家であるという栄誉を重んじていた。
だから私に裏切られたと思ったのだろう。
その感情に同調した他の家族は異物となった私をいない者として扱うことにしたのだ。
妹の存在があっても、この件までは王族の一員としては真っ当に扱われていたような気がするもの。
家族の生死よりも家の名誉を優先した結果、王家は私の死をきっかけに絶対的な権力を失った。
……皮肉なものね。
思い出した胸の痛みを飲み込んで、口を開いた。
「この指輪は聖代ヴィリデレオ国の国宝でした。王冠の指輪は歴代の王が指にはめ、権力の象徴に。そして残りの二つは宝物庫へ納められ厳重に保管されていました。その指輪が何の因果なのか、サジタリウス商会によって買い取られたそうです。装飾の一部が私のノートに書いた聖代ヴィリデレオ語と同じ文字だということに気がついた装飾品部門の先輩が教えてくれました」
「それで、この商品を我々に売りつけようというのかい?」
レイさんがよくわからないという顔で首を捻った。
ケイトさんはそれもいいかもという顔で頷いているけれど、他の人は何となく納得がいかないような顔だ。
ただ、レジーだけはほんのり笑みを浮かべている。
わかっていて黙っているのね。
それもそうだろう、本題はこれからだもの。
「ここから先は私の言葉を信じていただけるかによって、未来が変わると思ってください」
「未来が?」
皆の視線がレジーに向く。
彼女は真剣な表情で頷いた。
「この指輪のことは、私でも知らない。私にも見えない未来があった、だから姉さん達に集まってもらったの」




