第59話 波音と沈黙の港、フェリッサ
一行がファルーダに入ってから数日後。
馬車は快調に草原地帯を貫く街道を進んでいた。
すれ違う荷馬車や隊商の数は減らないどころか増えつつあったが、峠を下ってからは道幅も十分で、緊張はまったくなかった。
芽を吹き始めた麦畑や、青々と草が波打つ大平原を横目に、馬車はなだらかな丘陵地帯を南下する。
太陽が天辺から傾いて、空を朱に染め始めた頃、吹き抜ける風の匂いがふっと変わる。
風の運んでくる若草の甘やかな青い香りに、じわりと湿り気を帯びた潮の気配が混じり始めたのだ。
「……ん? ……うぉ……風が磯臭え……」
御者台からうめき声が響いた。手綱を握るガルファンが片手で鼻を摘まみ、顔中の筋肉を激しく歪めていた。
「フェリッサに入ったら、港沿いの宿は避けるからな! 魚の目玉が見えるような場所だけは駄目だ!」
「………分かりましたから、ちゃんと前見てください……。チャコとチャイが怖がります……」
ガルファンが鼻を摘まんでいるせいで、モゴモゴとした声が聞こえた。翔馬は馬車の小窓から顔を覗かせ、苦笑いを浮かべながら宥める。
向かいの座席ではレオナが窓枠に手をかけ、翔馬とガルファンのやり取り肩を揺らしつつ、風を吸い込んでいた。
「ふふっ。ガルファン様には悪いけれど、海の幸が楽しみ」
「うん。僕もこの世界に来て初めての港町だから、すごく楽しみだよ」
前を曳くチャコとチャイも、潮の香りを運ぶ風に耳をピコピコと動かしながら、軽快に蹄を鳴らして最後のなだらかな丘を登り詰めていく。
丘の頂上には、白い石造りの門が茜色の空を背にして聳え立っていた。
それがファルーダ最大の海運の要衝、港湾都市フェリッサの外門。門をくぐり抜けた瞬間、視界の先が一気にすり鉢状に落ち込み、巨大な湾と、広大な紺碧の内海が一行の眼下へと広がった。
「うわぁ……っ!」
車窓から身を乗り出し、翔馬は思わず息を呑んだ。夕陽を浴びて橙に染まる石造りの街並みが、斜面に沿って幾重にも連なり、その中心に巨大な天然の良港を抱え込んでいる。
湾へ向かって長く突き出た何本もの突堤、巨大な石造りの倉庫群。まさに大港と呼ぶにふさわしい、圧倒的な規模だった。
だが――。
「……ん?」
広大な海を見下ろしていた翔馬の瞳から、ふっと微かな戸惑いが漏れ出た。
湾の奥、そして遥かな水平線へ向けて視線を走らせる。
夕陽を反射しキラキラと波打つ水面に、雲ひとつない茜色の空。帆走にはこれ以上ないほどの心地よい風が吹いている。
それなのに――。
(……動いてる船が、一隻もいない……?)
湾だけではない。沖合を見渡しても、風を受けて白く膨らむ帆の姿が、ただのひとつも見当たらない。
湾内を行き交う小型船も、入港してくる大型船も、出航していく船の影すら。
海面は、まるで時が止まったかのように、不気味なほど静まり返っている。
――いや、船がいないのではない。視線を眼下の突堤や岸壁へと落とした瞬間、翔馬は違和感を覚えた。
「なんだ……?」
港は、船という船で埋め尽くされていた。
突堤から湾の隅の船溜まりに至るまで、大型の商船や中型帆船、沿岸の漁船までもが、びっしりと詰め込まれている。
岸壁に直接横付けできない船は、互いの舷側をぴったりと寄せて係留され、その隙間には、艀と思われる平底の小型船が幾重にも挟み込まれており、まるで即席の桟橋のようになっていた。
湾内の泊地に目を向ければ、錨を下ろしたまま動かない船が無数に浮かび、密集している。
林立する無数の帆柱。それらは天を突く針の山のようでありながら、張られている帆は一枚もない。すべてが固く畳まれ、太い係留索が蜘蛛の巣のように何重にも岸壁へ張り巡らされていた。
聞こえてくるのは、船腹をチャプチャプと鈍く打つ波音と、甲高い海鳥の鳴き声だけ。数百……ともすれば、数千の人間が蠢いても不思議ではない巨大な港が、異様な重圧を帯びて沈黙していた。
「船、あんなにたくさんあるのに。沖には一隻もいない。……ガルファンさん、これって普通ですか?」
翔馬が御者台側の窓を開き、そう尋ねる。ガルファンもまた不思議そうな顔をしていた。
「……俺も港町に詳しいわけじゃねえが……海が荒れたとか、そんなんじゃねえと止まらねえだろ。にしても……」
「ですよね……。でも、ここしばらく天気は良かったですし……うーん」
考え込む翔馬の脳裏に、ふとケーニヒシアとの国境の峠道ですれ違った、多くの馬車の姿が蘇った。
岩壁と急斜面に挟まれ、すれ違うのもやっとだったあの険しい山道。過積載気味に荷を積み、車輪を軋らせていた、異様な数の荷馬車や隊商の列――。
「まさかとは思うんですが、ここへ来るまでに、やけに荷馬車や隊商とすれ違いましたけど……何か影響してそうですかね」
「どうだろうな。元々テノラーダに向かう隊商はそれなりにあるはずだが……」
御者台から、低く鋭い舌打ちが返ってきた。先ほどまで魚の匂いに喚き散らしていた男の気配は、完全に消え失せている。
ガルファンは手綱を握り直すと、元輸送隊長の眼光で、冷静に眼下に広がる異様な港の光景を射抜くように見据えていた。
「しゃーねえ、どのみちフェリッサで補給の予定だ。ついでに街の中がどうなってんのか確かめるぞ。……厄介事じゃなきゃいいが」
ガルファンの低い声とともに、馬車はゆっくりとフェリッサの港へ向けて、斜面を下っていった。
◇
坂道を下り、港湾沿いの通りへと足を踏み入れた途端、一行を取り囲んだのは人々の喧騒だった。
通りは溢れんばかりの荷役人や船乗り、商人たちでごった返していたが、テノラーダの活気とはまるで違う。
そこにあるのは前へ進む熱気ではなく、行き場を失って空回りする苛立ちと焦燥だった。
「おい! そこの荷車どかせ! こっちは三日前から順番待ってんだぞ!」
「知るか! 倉庫番が荷を受け取らねえんだから、動かせるわけねえだろが!」
「いい加減にしろ! 動かねえもんは動かねえんだ!」
「港長はどこにいんだ!? 出てきて説明しやがれ!!」
通りの各所で、怒号と罵声が飛び交っていた。
巨大な石造り倉庫の正面には、引き取り手のない木箱や布製の袋がうず高く野積みされ、雨除けの筵が破れて放置されている。
倉庫の頑丈な鉄扉の前では、顔を真っ赤にした初老の商人が、帳簿を抱えた倉庫番の胸倉を掴みかけていた。
「頼む、この果物だけでも中に入れてくれ! このままじゃあ全部腐っちまうんだ! また雨が来る前に頼むよ!」
「無理なもんは無理だ! 奥の通路まで麦袋で埋まってんだよ! 一粒だって入る隙間なんざねえ!」
倉庫番が叫び、商人の手を荒々しく振り払う。
荷車が通路を塞ぎ、立ち往生した馬車の御者たちが苛立たしげに鞭を鳴らし、馬が嘶いた。
そのすぐ脇では、陸路への切り替えを目論む商人の一団が、運送業者を取り囲んで怒鳴り散らしていた。
「ヘサバ金貨三枚だって!? 馬車一台だろ!? 普段の倍以上じゃねえか! ちくしょう、足元見やがって!」
「嫌なら他を当たりな! 御者も馬車も足りねえんだ! 往復だけで、人と馬がどんだけ取られちまうんだって話だろが!」
港の事務所と思わしき建物。その壁には、出港予定の掲示板を確認しに来た船乗りたちが幾重もの人垣を作っていた。
だが、掲示板に大きく墨で殴り書きされていたのは、ただ無情な一言だけだった。
――全船舶、当面の間出港停止。
張り紙を見上げた船乗りたちが、頭を抱えて石畳にしゃがみ込む。
そのすぐ向かいの路地の酒場先では、出港を諦めた若い船員たちが、昼間から血走った目で安酒の瓶を煽りながら、些細なことで殴り合いを始めていた。
「どうしてこんなことに……?」
馬車の小窓からその光景を見つめていたレオナが、痛ましそうに両手を胸元で握りしめた。
「……」
翔馬は固く奥歯を噛み締めた。
ふと、テノラーダでカルロや三人の頭元締めたちから学んだことが、痛烈な重みを持って思い出される。
絶えず荷が動き、人が動き、その流れによって街全体が呼吸しているような光景が脳裏に蘇った。しかし、ここフェリッサでは、その流れが完全に淀んでいた。
「……おいエスティ。ここはダメだ。裏道から高台へ回るぞ」
「……そう、ですね……」
荷と人が溢れかえった通りでは、馬車を進ませられる隙もない。
ガルファンが忌々しそうに喧騒を一瞥すると、巧みに手綱を捌き、混雑する大通りを避けて、斜面を這うように伸びる細い石畳の路地へと馬車を滑り込ませた。
騒ぎ声は徐々に遠くなり、人気のない住宅街へと差し掛かる。
「街の奴らから詳しい話を聞かねえと、何が起きてるのか分からねえが……ただ事じゃあねえ。港から離れた高台で宿を取る」
「そうしましょう。お願いします」
チャコとチャイの蹄の音が、殺気立った街の喧騒から逃れるように、細い坂道を駆け上がっていった。
◇
見つけたのは、港を見下ろす高台の商人街から、さらに一本外れた静かな路地に佇む宿だった。
白壁に青い瓦を乗せた質素な二階建ての宿屋。幸い宿の厩舎には空きがあり、チャコとチャイを預けて念入りに身体を拭い、たっぷりと水を飲ませることができた。
二頭も街の殺伐とした空気に当てられていたのか、翔馬が首筋を撫でると、心細そうに鼻を寄せてきた。
「……大丈夫だよ」
客間に荷を下ろした頃は、すでに街には夜の帳が下りていた。翔馬は二頭の鼻先をさすり、そう声を掛けて宿へと戻った。
ちょうど、ガルファンとレオナが部屋のある二階から降りてきたところだったため、一行は夕食を兼ねて一階の食堂兼酒場へと向かった。
港沿いの荒れた通りとは違い、静かで落ち着いた酒場では、数名の初老の商人たちが重苦しい沈黙の中でエールを啜っていた。
「あぁ、いらっしゃい。見ない顔だね。旅の人かい?」
カウンターの奥から、前掛けで手を拭きながら恰幅のいい主人が顔を出した。
翔馬たちは軽く挨拶をし、カウンターの端に腰を下ろすと、夕食を注文した。
ガルファンが「魚の頭が見えたら暴れるからな」と小声で念を押した甲斐あって、運ばれてきたのは干し肉を塩で炒めたものと、素朴な薄焼きパン、そして蒸した豆のスープだった。
「……あの、ご主人。少しお話を聞いてもいいですか?」
スープに口をつけながら、翔馬が努めて穏やかに声をかけると、主人は「なんだい」と愛想よく翔馬へと笑顔を向けてきた。
「街に入る前、高台から見えた港は船が動いていませんでした。港に行ってみたら『出航停止』と書かれていて……。何かあったんですか?」
その問いに、主人は深く、底の抜けたような溜息を吐き出した。
ジョッキを拭く手を止め、視線を窓の外――すっかり暗くなった港の方角へと向ける。
「……あぁ、半月以上前から海に出られねえ状態が続いていてね」
「半月も……? 嵐……というわけではないですよね?」
レオナが小首をかしげると、隣のテーブルで一人酒を飲んでいた初老の商人が、自嘲気味に鼻を鳴らして口を挟んできた。
「確かに、今年は雨が長く続いてはいたが、嵐ならまだマシなんだ、お嬢さん。待てば過ぎ去るからな。……だが、出たんだよ。とんでもねえ化け物がな。ありゃどうしようもない」
「化け物……?」
翔馬が眉をひそめる。
ラグロニーネの書庫で見た古い書物、その挿絵が脳裏に浮かぶ。
「ああ、巨大な海魔さ」
主人が声を潜め、眉間に深い皺を刻んだ。
「数週間前になるか。内海を航行していた大型商船が、一瞬で真っ二つにへし折られたんだ。少し離れて航行していた別の船の見張りが目撃しててな。本当か嘘か分からないが、突然、海中から現れた巨大な黒い腕みたいなものに巻き付かれた……って話だ」
「……はぁ? 海の魔物なんて珍しくねえ。ファルーダには軍船だってあるだろ。連中に任せられねえのか?」
ガルファンが肉の塩炒めをフォークで刺しながら、主人へと訝し気に尋ねる。
ファルーダは草原の広がる国ではあるが、国土が東西に長く伸びていることもあり、国内の物資移動は内海を用いた海運に依存している。
また、海を挟んで南にはヴァルメイ王国を臨み、フェリッサを始めとした貿易港が海岸沿いに点在している。
この国を守るのは、草原を颯爽と駆ける騎馬兵隊だけではない。
「……それが、不意を食らって何隻かやられたみたいでね。追い払ったって話もあるんだが、何日かするとまた同じ海域に現れるらしい。そんなもんで、航路に巣でも作ったんじゃって噂もあるんだ」
翔馬の背筋が冷やりとすると同時に、某邪神神話のイラストが脳裏をかすめた。
緑色でぬめぬめしたタコ頭の巨人が、コウモリみたいな翼を広げて街を破壊している、あの悪趣味な絵だ。
「……えぇと、ただの海の魔物じゃないかもしれない、ってことですか?」
「どこまで本当か分からないけれどね。で……」
主人は周囲を窺うように視線を巡らせると、三人に近づいていっそう声を落とす。
「これは噂なんだけど、内海を挟んだ南の――ヴァルメイの戦況が、このところ悪くなってるみたいなんだ。一部の防衛線じゃあ、押し込まれてるって話まである」
ヴァルメイは、魔族との戦乱の最前線。
それはラグロ領で荷役を手伝った翔馬も、それを取り仕切る兄を見ていたレオナもよく理解していた。
「……チッ」
何よりも、最前線まで荷を届けていたガルファンも。その表情が一層険しくなり、思わず舌打ちをした。
そして、翔馬の脳裏に、王都ハルトイニアの動乱でバウアーが放った言葉の記憶がよぎる。
――ヴァルメイでは魔族の跳梁跋扈が激しさを増し、いつ大侵攻が始まってもおかしくない。
翔馬の不安そうな表情を見た主人は、首を横に振った。
「もちろん、魔族がからんでいる証拠があるわけじゃない。襲われた船から生きて戻った奴はいないし、確かめようもない。内海にふらりと訪れた海魔の可能性もあるからね」
「船が沈みまくってるから、フェリッサとしても出港停止を出した! 結果が、あのザマだ! いつ解除されるかも分からねえ! ヴァルメイまでどうやって荷を出せというんだ!」
主人の言葉を継ぐように、初老の商人がジョッキをダンと叩きつけて叫ぶ。
商人は虚ろな目で天井を仰ぎ、エールを煽っては『もう一杯くれ!』と主人へジョッキを突き出し、主人はそれを窘めながら続けた。
「この国はとにかく広い。そのうえ集落も、街も、草原のあちこちに散らばってる。主要な街道は限られてるから、大量の物資や人を運ぶ役目は、昔から内海の船が担ってきたんだ」
三人の間に沈黙が落ちる。ガルファンが肉を口へ運びながら、窓の外を見やった。
「ま、テノラーダとラグロニーネを経由しねえと駄目だろな」
「……海も動脈なんだ。それが止まったんだ……」
翔馬が小さく呟いた言葉に、御者台での疲れを顔に滲ませていたガルファンが、深く頷いた。
「そういうこった。船の荷を陸へ無理やり流したから、峠が馬車で溢れてやがったんだろ。……馬車で運べる量なんざ、船に積める量に比べりゃあ雀の涙だ。馬車も船も、街の倉庫も……全部が破綻してやがる」
元輸送隊長の言葉には、現場を知る者ならではの重い実感が籠もっていた。
主人は痛ましげに目を伏せ、力なく頷いた。
「そこのニイさんの言う通りさ。倉庫は溢れて、食物は腐った。船乗りは仕事を失って荒れる。……このままじゃ、この街どころか国が潰れちまう」
「……神殿はどうしているのですか?」
静かに耳を傾けていたレオナが、祈るように両手を重ねて尋ねた。
「この国にも、神殿があるはずです。海を鎮めるための祈りや、防備の手立ては……」
「ああ、嵐神の神殿だね」
主人は顎を撫でながら答えた。
「神殿も海魔からの防備や、沿岸の監視に人を送り出しているそうだよ。港や船を護衛するための結界を張ろうと、夜を徹して儀式を続けてるって話だが……ファルーダには港町が十じゃ利かないくらいあって……」
「神殿も人手が足りねえらしくて、若い見習いまで駆り出されてるそうだ。で、結局ぶっ倒れる奴まで出てるって話だ。まったく、痛々しくて見てられねえ」
隣にいた初老の商人が苦々しく吐き捨てる。
翔馬はその言葉を胸の奥に留めた。
街の人々も、神殿の僧侶たちも、誰も諦めているわけではない。それぞれが自らの持ち場で、必死にこの動かない現実をこじ開けようと抗っている。
けれど、その努力を嘲笑うかのように、海路の沈黙はあまりにも深く、重く感じられた。
◇
夕食を終え、二階の客間に戻った翔馬は、部屋の灯りを消し、窓辺に歩み寄った。
窓枠に手をかけ、外を見下ろす。高台に吹き込む潮風が、翔馬の黒髪を揺らす。
高台から見下ろすフェリッサの港には、相変わらず無数の船が岸壁に隙間なく押し込められていた。帆を畳んだ船々の帆柱が、暗闇の中で墓標のように林立している。
夜風が吹き抜けるたび、船体同士がきしみ合い、太い係留索がギリ……ギリ……と鈍い悲鳴を上げる音だけが、海鳴りのように窓辺まで届いていた。
(……海が止まったら、陸が詰まる)
胸の奥で、その言葉が冷たい鉛のように沈み込んでいく。
数日前まで、あの大平原の広大さに心を奪われていた。世界はなんて広いんだろうと、旅の歓びに胸を震わせていた。
けれど――。
(世界は広くても……僕の目に見えないところで、全部繋がっている)
海の向こう側には、ヴァルメイで起きている魔族との争いがある。
主人の言うことが正しいとしたら、内海で起きている異変はその影響かもしれない。
「…………」
翔馬は無言のまま、暗闇の中で軋み続ける帆柱の群れを見つめ続けた。
自分たちに何ができるのかは、まだ分からない。だが、この街で、国で何が起きているのかを知らないままにすることは、できそうになかった。
明日は、嵐神の総本山がある内陸の王都――ゼルガードへ向けて出立する。
冷たい夜風の向こう、沈黙する港の波音だけが、夜の闇に重く響き渡っていた。




