第51話 水鏡の光は、誰がために
白い艶のある石が敷き詰められた大会議室は、重苦しい沈黙と陰湿な熱気に満ちていた。
長卓の上座では、ハルト王エドアルドが両手で頭を抱え、苦悶の表情で机を見つめている。
右を固めるのは、六名にまで膨れ上がった現王派の貴族たち。その急先鋒であるカストール公爵は、前王派の貴族たちへねめつけるような視線を送り、嘲笑を浮かべていた。前王派の貴族二人は、青ざめた顔で小さく頷き、視線を落として沈黙を守っている。
そして、王の対面に置かれた椅子に、リーデルは今日もたった一人で座っていた。
「……ハルト国王エドアルド陛下の名のもとに、最終査問会を始める。……ラグロ辺境伯閣下。最終査問のため、まずは私からいくつか確認をさせていただきたく存じます」
法務官ヘナスバスの声が、静かに会議室へ落ちる。
カストールは少しだけ面白くなさそうな表情を浮かべたが、すぐさま余裕を戻し、続きを促した。
「……何かな? 少しは楽しめる話をしてくれると、私としても助かるのだけど」
リーデルは細く息を吐き、椅子の背にもたれた。十日間に及ぶ軟禁と連日の査問。
その美しい顔には隠しきれない疲労が滲んでいたが、氷雪の双眸だけは冷ややかに相手を見据えていた。
「では……。これまでの査問において、各貴族の皆様から問われた件について。王国法務局としての見解は、違法性が確認できないというものです。したがって、これ以上、査問会を継続する必要がないと考えております」
ヘナスバスは、それまでの査問会と異なり、ペンを一切走らせることなく、リーデルへ正対していた。
濃紅の瞳が、ただ純粋な興味の光を以ってリーデルを見つめる。
しかし、それに対して、現王派の貴族からの野次にも似た不満があふれる。
「何を言うか、小役人が! ラグロ領の不正は明らかであろう!」
「そうだ! それを先導しているのが領主とあらば、断罪するのが貴殿の役割! 職務怠慢ではないか!」
「ご静粛に。王の御前であり、査問会は王の名のもとに行われていることを、ゆめゆめお忘れなきよう」
ヘナスバスは、それらを一切意に介すことなく、一声で諫めた。
感情の読み取れない法務官の視線を受けたカストールは、呆れたように肩を竦めると、目を閉じて右手を上げる。
現王派の貴族はそれを見て、しぶしぶと乗り出していた身体を椅子へと戻した。
「……継続する必要がない、か。……ならば、私はもうラグロニーネへ戻ってもよいかな? 決裁が溜まって、私の“右腕”が書類に埋もれてしまっているだろうからね」
「お帰りいただく前に、ひとつだけお聞かせください」
「まだ何か?」
リーデルが、不満そうな表情を浮かべる。
冬の青空のような淡い青が、ヘナスバスの濃紅の視線と重なる。
「はい。……辺境伯閣下、なぜ貴方はこれほどまで完璧で、強硬な統治を続けておられるのか。これは私見ですが、王城に来られてからは、その強硬さがより顕著に見える。……貴方の心の内には、何があるのですか?」
現王派も、前王派も、貴族たちは一切の声を上げない。
ヘナスバスの声と、リーデルの表情を交互に見やるだけだった。
(……最後の最後で難儀なことを言うもんだ)
リーデルは乾いた唇を噛み締めて、声の主であるヘナスバスを見る。
無表情。まるで仮面をかぶっているかのように、何を考えているか読めない。
「……私は……。……護りたいものがある。それだけだ」
ヘナスバスは瞬きすらせず、リーデルを見つめ続ける。
「貴方をここまで駆り立てる、“護りたいもの”とは何なのですか?」
リーデルはとうとうヘナスバスから視線を外した。
それを見逃さず、そこに声を被せたのは、カストールだった。
「……法務官殿、口を挟む無礼はご容赦いただきたい。辺境伯領において、かの水鏡の勇者を匿っているという風聞がある。それと同時期に、レオナ王女殿下のテノラーダ外遊……偶然なのかもしれないが、ラグロ辺境伯閣下? そなたが“護りたい”のは、勇者なのではないかね?」
リーデルは言葉に詰まった。
そうだと言えば、ここまでの策がすべて水泡に帰し、レオナとエスティに危害が及ぶ。
噂は噂としらを切れば、仮にも勇者に関する噂なのだからと、出どころを再び追及されるだろう。
違うと言えば、別の理由を立てなければならない。
ヘナスバスに通じるか、リーデルは確証を持てなかった。
(やれやれ。こうなるくらいなら、早々に“存在しない不始末”を認めて、すべて一人で被ってしまえばよかったね……失敗したよ)
完全に後手に回ってしまったと、リーデルが諦めのようなため息をつく。
自嘲の笑みを浮かべ、すべての泥を被るべく口を開きかけた、その時だった。
「それについては――」
――ゴォォンッ……!
どこか遠くで何かを揺らすような鈍い衝撃が、大会議室の床を伝った。
卓上にある銀色のインク壺が揺れ、インクに小さく波紋を立てる。
「……ん? 何の音だ?」
「おい、外が騒がしいぞ」
貴族たちが顔を見合わせ、眉をひそめる。
微かだった地鳴りは、瞬く間に怒号と金属の衝突音へと変わり、急速にこの部屋へと近づいてきていた。
エドアルド王がのっそりと顔を上げ、法務官へ視線を向けた。
「……外が騒がしいようだが……。ヘナスバス、何が起きておる?」
「確認に参ります。警備兵、扉を開け――」
法務官ヘナスバスが立ち上がりかけた瞬間。
ドガァァァンッ!!
大扉の向こうで、何かが激突する破砕音が炸裂した。次の刹那――。
バゴォォォォォンッ!!
鼓膜を劈く爆音とともに、黒鉄の装飾が施された巨大な両開き扉が、蝶番を引きちぎられて宙を舞った。
部屋にいた誰もが、目を見開きながら飛び行く扉を見上げる。
すぐさま豪快な音を立てて砕け散った木と鉄の破片が、会議室の絨毯を抉りながら滑り込んでいく。
もうもうと立ち込める白い粉塵と熱波。
「ひぃっ!?」
「な、何事だッ!? 襲撃か!?」
現王派も前王派もなりふり構わず、悲鳴を上げて壁際へと逃げ惑った。
エドアルド王が息を呑んで立ち尽くす中、リーデルは弾かれたように椅子から立ち上がり、白煙渦巻く扉の残骸を凝視した。
煙と粉塵、そしてそこに混じる火花を連れて、三つの足音が響いてくる。
肩で激しく息を乱して苦痛に額を濡らしながらも、白煙の向こうを真っ直ぐに見据える黒髪の少年と、華奢な身体でその少年の右肩をしっかりと抱え支える、プラチナシルバーの髪の少女――。
「……レオナ……? エスティ……?」
リーデルの青い瞳が、信じられないものを見るように見開かれた。
「おっしゃあ! 突破したぜ!!」
そして、赤熱する手甲をカチリと鳴らし、獰猛な気迫を撒き散らす男。
決してここにいてはならない、護るべき二人と、その護衛を任せたはずの男が、瓦礫を踏み越えて部屋の中央へと歩み出てくる。
「兄様……!」
「リーデル様……!」
レオナと翔馬の視線がリーデルの無事を捉え、強張っていた表情が微かに緩む。
だが、安堵の時間は一瞬すら許されなかった。
「曲者を逃すな! 囲め!!」
「……あー、まだ終わってねえか……」
ガルファンが心底面倒そうに顔を向ける先。吹き飛んだ扉の向こうから、抜剣した近衛騎士団が雪崩のように部屋へと突入してきた。
先頭に立つフォスは鎧を煤で汚し、苦渋に満ちた表情で大剣を構えている。
その後ろから、ところどころが焦げ、穴の開いた衣服を乱し、額に血を滲ませたバウアーが私兵十数名を引き連れてなだれ込んできた。瞬く間に、数十の刃が中央の三人を取り囲む。
さらに遅れて、刃の欠けた剣を手にしたコットまでもが、荒い息を吐きながら大会議室へ姿を現す。
「フォス団長! これは一体何の真似だ!」
我に返ったカストールが、唾を飛ばしながら卓を叩いた。
フォスは大剣を構えたまま、重々しく声を絞り出す。
「城内を騒乱に陥れた賊を追撃して参りました。……しかし、その賊とは……」
私兵の間から進み出たバウアーが、血走った目で翔馬を指差した。
「そこの黒髪の小僧と傭兵が、レオナ王女殿下を拐かし、城へ乱入した凶賊よ! 王城を血で汚した大罪人め! 直ちにその首を刎ねよ!」
老貴族の絶叫に、貴族たちがざわめき立つ。バウアーはそのままエドアルド王へ向き直り、両手を広げてみせた。
「陛下! ご覧の通り、リーデル王子殿下の妹である王女殿下までもが賊に誑かされております! ハルト王国の安定のため、レオナ様の御身は我がドルバトス家にてお預かりしたく! きっと王国のお役に立てるかと!」
「なっ……!?」
エドアルドが目を見張る。
だが、その捲し立てを切り裂いたのは、荒い息を吐きながら一歩前へ出た翔馬の声だった。
「……嘘を……吐くな……!!」
張り詰めた空気に、少年の怒気を含んだ声が木霊した。
翔馬は、なおも激痛で軋む頭蓋を押さえつけるように奥歯を噛み締め、バウアーを黒い瞳で射抜いた。
「お前は、エドアルド王を引きずり下ろそうとしているじゃないか! ……そのために、レオナを他国へ売り飛ばすための道具にして! リーデル様を都合のいい王に据えようとして! 反抗する貴族を皆殺しにして! 王国のためなら、人の人生も、命も、犠牲にして構わないとまで言ったじゃないか!」
静寂。大会議室の空気が、一瞬で凍りついた。
エドアルドが目を丸くし、カストールが眉を跳ね上げ、リーデルの双眸が険しく細まる。
「な、何を根拠のない世迷言を……ッ! 生意気な口を利くな! 賊が!」
レオナは、冷たい視線をバウアーに向ける。
その声色にはもはや僅かな感情すら籠っていなかった。
「大伯父様? エドアルド叔父様では国を救えない。だから、兄様を王へ据え、私はメトゥルーイスプとの同盟のための捨て石にされると、そう仰ったではないですか? あれは嘘だったのですね?」
レオナに事実を突きつけられ、バウアーの顔から血の気が引く。
動揺を隠すように、老貴族は私兵へ怒号を飛ばした。
「く……。レオナを誑かす賊めが! おい! 早くその小僧を斬れッ!」
「おおっと、動くんじゃねえ!」
ガルファンが足元の瓦礫を足で蹴散らし、手甲から紅蓮の火花を爆発させてニヤリと睨む。その凶悪な闘気に、詰め寄ろうとした兵たちが思わず足を止めた。
そして、その一部始終を眺めるようにしていたリーデルが、ハッと我に返る。
「お前たち……! ここで……ここで、何をやってるんだ!!」
氷雪の仮面は完全に崩れ去り、その瞳には激しい焦燥と恐怖が渦巻く。冷静で、皮肉屋な男が、感情を剥き出しに怒号を響かせた。
「なぜここに来た! ギルバートの伝言は!? エスティ! ガルファン! レオナを連れて今すぐここから逃げろ!! 去れ! 今すぐだ!」
「……すみません。お断りします」
翔馬が、毅然と断る。
「すまねえな、領主サマ。こいつらがそうしたいってーんだ。俺は止めねえよ」
こともなげにそういい、ガルファンがニカっと笑いながら白い歯を見せる。
「……嫌です。兄様」
レオナが、凛とした声で遮る。
その瑠璃色の瞳は、兄の気迫に怯むことなく、真っ直ぐに注がれていた。
すーっと大きく深呼吸をして、兄リーデルへと正対する。
「私はもう、あの頃とは違います。兄様が一人ですべてを抱えることも、大伯父様の道具になることも、絶対に嫌です。……私は私の足で、兄様を助けに来たのです」
「レオナ……!?」
妹のあまりの変貌に、リーデルは息を呑んだ。
その隣で、翔馬が静かに息を吸い込む。
「リーデル様。……僕たちは、誰かに言われたからここに来たんじゃない。自分の意志で、あなたを助けに来ました」
「馬鹿を言うな! ここがどんな場所か――」
「分かっています!」
遮る翔馬の声に、その表情に、静かな怒りが見える。周囲を取り囲む貴族たちと、抜剣して機会を窺う騎士や兵士をぐるりと見渡した。
「……僕は、僕自身の意志で、目の前の大切な人を守るために、ここに立っている!」
リーデルには、それが翔馬の我儘のようにすら聞こえた。
一歩、二歩と踏み出し、護衛の近衛を押しのけて、翔馬に向かって叫んだ。
「お前に……お前たちに何ができる!」
「何ができるかなんて分かりませんよ! でも、貴方を助けると決めた! だから、ここまで来たんだ!」
黒い瞳が、リーデルの淡い青の瞳をまっすぐに見据え、喉を擦れさせながらも、一歩も引かずに声を張り返した。
「……なんなんだ……。なんなんだよ……お前たち……」
リーデルがふらふらとよろめきながら、声を振り絞る。だが、それ以上は声が出なかった。
静まり返る大会議室に居並ぶ貴族たちも、近衛兵たちも、誰一人口を挟もうとしない。その少年を、玉座の前に立つエドアルド王が、ただ呆然と見つめていた。
髪も、瞳も、夜の闇を溶かしたように黒い。
身に纏うのは、テノラーダ特有の幾何学文様が施された上等な外套。
そして――少年の腰に佩かれた、鈍銀の光を放つ一振りの剣。
(……なぜ、この少年がリーデルの……あの剣を持っている?)
兄エンデルスが、かつて甥リーデルへと託した王家の至宝――“蒼穹の剣”。
「そなたは……一体、何者なのだ……?」
王の震える問いが、静まり返った大会議室へ落ちる。
翔馬は、すぐには答えなかった。
ゆっくりと息を吸い、そして瞳を閉じる。
暗闇の中に浮かんできたのは、決して格好のいい自分ではなかった。
進路調査票を白紙で出し、傷つくのを恐れ、流されるまま生きていた元の世界。
突如この世界へ放り込まれ、勇者という重圧から逃げようと、食客という立場に甘えた日。
クロイツで、自分の正しさを疑わずに踏み込み、他の選択を奪い取った。
テノラーダでも、独りよがりの考えと、現実のギャップに打ちひしがれ、泥にまみれて泣いた。
思い返せば、情けないことばかりだった。
けれど――不思議と、もう目を背けたいとは思わなかった。
どれかひとつでもなかったことにしてしまえば、今ここに立っている自分も、きっといなくなってしまう。
失敗したことも。
逃げたことも。
泣いたことも。
そのすべてを抱えたままの自分を信じ、隣を歩いてくれた人たちがいた。
剣を託して、送り出してくれた人がいた。
閉じた瞳の奥に、顔が浮かんだ。翔馬の口元に、ほんの僅かな笑みが浮かぶ。
過去を変えることはできない。それはそれでいい。
(……もう、逃げない)
ここから先を、どうするのか?
(……自分で決めるしかないんだから)
翔馬はゆっくりと右手を腰へ伸ばし、蒼穹の剣の柄を握りしめた。
刃が鞘を滑る、涼やかな金属音が響く。
すらりと抜き放たれた白銀の刀身が、辺りに残る白煙を裂いて、眩い光を放った。
かつてのリーデルが、絶望と恐怖のあまり抜くことのできなかった、悔恨の剣。
翔馬はその切先を、堂々と天へと掲げ――。
「僕は――」
少年の凛とした声が、大会議室の隅々まで轟き渡った。
「水鏡の光に導かれて、この世界にやってきた――水鏡の勇者、エスティだ!!」
――息を呑む音すら、凍りついた。
「な……ッ!?」
「勇者……だと?」
「賊が……勇者……?」
フォスが目を見張り、カストールが顎を落とし、バウアーが戦慄に顔を歪める。
誰も、それ以上の言葉を発することができなかった。
「……エスティ……お前……」
そして――リーデルの青い瞳から、堰を切ったように大粒の涙が溢れ出した。
かつてのリーデルの呪縛であり悔恨の象徴。それを、目の前の少年が、自らの意志で抜き、天へと掲げている。
隣では、レオナが胸元のブローチを握りしめ、ぼろぼろと涙をこぼしながら翔馬を見つめていた。
だが、その沈黙を破ったのは、貴族たちの我欲だった。
「勇者殿は、王家の保護下に置くべきだろう!」
「辺境伯が秘匿していたことこそ問題ではないか!」
「いや、最初に勇者殿を保護した辺境伯こそ――」
「国家に属する勇者を、一領主が私物化するなど許されん!」
現王派と前王派の貴族たちが、突然狂ったように喚き立てる。
先ほどまでの恐怖などどこ吹く風。我先にと声を張り上げた。
レオナの瞳から溢れた大粒の涙が、頬を伝って足元へ落ちた。
やがて、ふらふらと翔馬の隣まで歩み出る。
翔馬に支えられながら、彼の外套を掴んで声いっぱいに叫んだ。
「もう……もうやめてください……! 兄様も、エスティも、私も! あなたたちの道具なんかじゃない!」
王女の悲痛な絶叫。だが、欲望に狂った貴族たちの耳には届かない。
その光景を――壇上のエドアルド王は、呆然と見下ろしていた。
(……ああ……)
猛烈な羞恥が全身を震わせた。
兄エンデルスの急逝によって突如力を増した派閥の言いなりになり、押し上げられた玉座。その椅子の上で、波風を立てぬよう過ごし続けた結果がこれだった。
エドアルドの口から、自嘲の笑いが漏れた。
「……勇者……水鏡の勇者か……。フフ……ハハハ……!」
異世界から来た少年が、自らの意思で、命を賭して剣を抜き、大切な者を守るために身を投げているというのに。
王冠を戴く己は、何ひとつ選ばず、何ひとつ背負おうとしてこなかった。
ふと、数日前、自分へ真っ直ぐ向けられていた甥の視線が脳裏に蘇った。
あの時、自分はその瞳を見つめ続けることができず、思わず目を伏せた。
(王たる己が守るべきものを、子供たちに守らせて、一体何が国王か……)
視界が、怒りと悔恨で赤く染まっていく。
エドアルドは顔を上げ、自らの意思で眼下の群臣を見据えた。そこに映るのは、勇者を、姪を、甥を、ただ自分たちの都合のよいコマとして、手のひらに乗せたいと大声を張っている醜い姿。
その瞬間――胸の奥へ押し込んで、見ないふりを続けてきた想いが、堰を切ったように弾けた。
「――全員控えよ!!!!」
一喝に呼応するかのように、エドアルドのマナが爆発的に膨れ上がり、大会議室を一陣の風が薙ぎ払った。
その王の威圧に、机の上に整えられていた羊皮紙が宙を舞い、豪奢なガラス窓がカタカタを揺れ、喚き散らしていた貴族たちは一瞬にして言葉を失った。
抜剣して構えていた騎士たちは吹き抜ける風と膨れ上がるマナに圧され、後ろへたたらを踏み、歴戦のガルファンすら咄嗟に身構えて息を呑んだ。
一瞬の後。再び静寂が部屋を支配した。
ハルト王エドアルドは、初めてその双眸に真の王の光を宿し、冷徹に眼下の群臣を見下ろしていた。そして、リーデルとレオナへ視線を向けた。
「すまなかった……。すまなかったな……リーデル、レオナ」




