第8話:進撃の会計
「――おい、聞いたか? また『暁の天剣』がやったらしいぞ」
朝のギルドは、一つのパーティの名前で持ちきりだった。
掲示板の最上段、かつては誰もが見上げるだけで素通りしていた「特級危険指定」の依頼書。その上から、赤々と『討伐完了』のスタンプが叩きつけられている。
俺が所属するパーティ「暁の天剣」の快進撃が始まってから、今から一年ほどが経っていた。
あの頃はまだ『一般人並み』の体力と筋力を手に入れたばかりのスタートラインに過ぎなかった俺らだったが、俺の戦術論を叩き込み、地道に、だが確実にレベリングを重ねてきた結果、今や取り憑かれたような速度で高難度の任務をこなすようになっていた。
仲間たちは一人一人、あの頃負けていた10体のゴブリンは単独で撃破できるくらい強くなった。
すべては、一気に上へと昇り詰めるために———。
この一年間、俺たちが示し続けた戦いぶりは、まさに一蓮托生の見事な連携だった。
職業レベルはみんなもう少しでレベル80になりそうだった。
約30メートルはあるだろう巨大なドラゴンを前にしても、「暁の天剣」のメンバーたちに動揺はない。激戦を潜り抜け、1年かけて培ってきた互いへの絶対的な信頼と、それぞれの明確な役割があった。
激しい乱戦の最中、中心に立つ俺の鋭い声が響く。
「 3秒、俺に隙をくれ!右脚と目の自由を奪え !」
その言葉が終わるや否や、仲間たちが一斉に動いた。
前衛のカインが文字通り体を張り、大盾で魔獣の猛攻を受け止める。ハルが正確な援護魔法エクストラ・ファイアをドラゴンの目に向かって放ち、トアが絶え間ない回復術で前線を支えながら、強靭な右脚へと攻撃を集中させていく。
すべては、俺が確実に仕留められる「心臓までの距離、残り5メートル」を稼ぎ出すためだ。
心臓までの距離を稼ぐには直接触れられるくらいの距離に近づかないと、半径5mという制約を持つ俺の攻撃は届かない。
仲間たちが命がけで作り出した、わずか3秒の空白。
その瞬間、レベル40で新たに手に入れた暗殺者スキル「空中歩行」を使い空中を移動して踏み込んだ俺が、魔獣の懐へと滑り込む。5メートルの間合いが一瞬でゼロになり、俺の掌が敵の胸元に触れた。
「決済」
直後、魔獣は絶叫すら上げられずに、その巨体を内側から崩壊させて崩れ落ちた。
外傷はほとんどない。強靭な毛皮も、鋼鉄の鱗も無傷のまま。しかし、その巨体を支えていた心臓をはじめとする内臓諸器官は、骨ごと内側からボロボロに破壊されているのだ。
触れられただけで内側から崩壊を招く、俺の底知れない内部破壊の能力。
足場が極端に悪い危険地帯や、隠密性が求められる特殊な討伐任務では、この間合いの強さを活かして俺が単独で潜り込むこともあったが、俺が最高のパフォーマンスを発揮するのは、いつも前線で5メートルを勝ち取ってくれる「暁の百合」の仲間といる時だった。
「集団としての完璧な絆」と、「個として天災をも屠る圧倒的な一撃」。
この二つの絶大な力を示し続け、この一年で信じられない数の大討伐を成し遂げた俺たちの名は、名実ともにこの界隈のトップへと押し上げられた。
街の誰もが「暁の天剣」を、そして中心人物である俺を称賛し、次の『英雄』は彼らだと言ってはばからなかった。名声は最高潮に達していた。
だが、同時にその快進撃に疑惑を唱える人達もいた。
そして、眩すぎる光の中にいる俺たちを、冷酷に見つめる影があった。
「――上がってきたね、レン」
ギルドの喧騒から遠く離れた薄暗い部屋で、マルタは不敵に微笑んだ。
俺の『内部破壊』の恐怖が、魔物の素材を傷一つつけないという前代未聞の討伐方法が一年という歳月をかけて周囲に深く刻み込まれれば刻み込まれるほど、マルタの計画は完璧なものへと近づいていく。
マルタの仕込みはすべて終わった。
英雄たちが一年かけて命がけで上り詰めたその場所こそが、最も美しく墜とされる処刑台だった。
(第8話 完)




