第11話:呪具の会計
「だから言ってるだろ! レンがこれまで魔物を倒してきた時、例外なくレンのすぐ近くまで魔物を引きつけないと殺せていなかった! ギルドの遠くの席で、しかもカインまでもが毒殺されたあの状況を、レンが犯せるわけがない!」
衛兵所の冷たい取調室。ハルが必死に叫ぶが、衛兵は冷たく鼻を鳴らす。
「数多の冒険者を殺したのも、あの魔道具による呪殺だ。……だが、レンの鞄からこの呪殺魔道具が出てきた以上、この『死因不明の大量死』の犯人はレンだ」
そのとき、ハルが覚悟を決めたように一歩前に出た。
「だったら、実験をさせてくれ」
ハルの論理はシンプルだった。魔道具を地下へ隠し、俺がその力を使わずに目の前の実験用ゴブリンを倒せれば、魔道具は無関係な贋物であると証明できる。
衛兵は不気味に頷く。
「いいだろう。だが失敗すれば、お前も処刑だ」
地下の最深部に魔道具が運び込まれる。
俺は牢から引き出され、目の前にゴブリンが放たれた。トアやハルが、祈るように俺を見つめる。
俺はただ、ゴブリンを冷徹に見据えた。
(カイン……見てろよ。お前をハメた連中を、俺が必ず清算してやる)
ゴブリンが距離を詰める。俺の【5メートル】の射程内に入った瞬間。
「――チェックアウトだ」
グシャッ……!! と、凄まじい音を立ててゴブリンが崩れ落ちた。喉と心臓が内側から潰れ、即死。
衛兵たちが戦慄する。ハルがすかさず、隊長の前にノートを突きつけた。
「隊長、見た通りだ! レンはあの魔道具なんて使っていない! 彼はいつも魔物を引きつけてから倒している。……これまで一度だって、遠くの敵を呪い殺すなんて芸当は見せていないんだ! 魔道具なしで呪殺できるなら、あの鞄の魔道具は『レンを犯人にするための偽物』に過ぎない!」
衛兵は言葉を失い、顔面を蒼白にした。
「あの魔道具がなくても、この男自身の力で呪殺ができる……。だとすれば、証拠の魔道具が偽物……。マルタたちが我々を騙し、虚偽の告発をしたというのか!?」
冤罪は晴れた。だが、俺の心は晴れなかった。
この場にいないマルタたちは、俺が常にギリギリまで敵を引きつけないと殺せないという制約を理解し、その上でカインたちを「毒殺」という俺の手の届かない手段で排除したのだ。
「レン、お前、そんな凄い能力を……。カインの無念を、一緒に……」
ハルが俺の肩に手を置こうとする。
俺はその手を、冷酷に振り払った。
「触るな」
「え……?」
「これで、貸し借りは帳消しだ。俺は今日限りで『暁の天剣』を脱退する。二度と俺に関わるな」
「なんでだよ! カインの仇を討つんだろ!?」
ハルの叫びを、俺は背中で聞いた。
「お前たちが俺に関われば、次はお前たちが殺されるんだ」
マルタたちの目的は俺という『異端者』の削除だ。俺が誰かと一緒にいれば、奴らは平気でその仲間を平気で殺して、俺を再び地獄の渦に巻き込む。
俺は衛兵所の重い扉を押し開け、雨の街へと飛び出した。
(カイン……すまない)
濡れた路地裏で、私は懐の現代通貨を握りしめた。
フードの奥で燃える俺の瞳には、カインの声を奪った奴らへの、容赦なき復讐の炎だけが灯っていた。
――絶対に、精算してやる。
俺一人で。誰も、もう傷つけさせない。
(第11話 完)




