第4話_仲直りの動画には出ない
『ちゃんと謝るところも撮れば、変な感じにならなくない?』
木曜の夜、夏帆から届いた誘いを、俺は二度読んだ。
謝る時まで、俺は撮られるのか。
翌日、相手に会う前に大学の相談室へ寄った。動画と、これ以上送られたくないことを伝える。
担当の人は、無理にその場で話を終わらせなくてもいいと言ってくれた。
中庭のベンチでは、夏帆と土井が端を空けて待っていた。
俺は座らなかった。
「真壁くん。この前は、ごめん」
「俺も。悪かった」
二人の謝罪を聞いて、送信先と削除の連絡を確かめた。
返信が来ていない相手もいる。その分まで消えたことにはせず、分かった範囲をメモする。
「他に送らないでって、受け取った人にも伝えて。あと、俺もふざけてやったみたいには言わないで」
夏帆が一度唇を閉じ、それからうなずいた。
「私が罰ゲームって知っててやったって、ちゃんと言う」
俺も、うなずいた。
続けて土井がスマホへ手を伸ばしかける。
「それでさ。普通に喋ってるとこだけ撮れない? もう大丈夫って、グループのやつにも分かるし」
「撮らない」
「顔映さなくても」
「普通に戻りたいって、俺は言ってない」
空いているベンチを見た。
そこへ座って笑えば、二人は安心するんだろう。俺も昨日までみたいに講義へ行けるのかもしれない。
でも、また告白した時の返事を思い出して、二人の前で笑える気はしなかった。
「謝ったのは聞いた。でも、また一緒に遊ぶのは、今は無理」
「……分かった」
夏帆が頭を下げた。俺は鞄を持ち直す。
「訂正と共有を止める連絡は頼む。それ以外は、もういい」
最後の言葉を、言い直さずにベンチを離れた。
*
駅へ向かう途中、北見から連絡が来た。
『明日、十三時にモールの入口でいい?』
『先に軽く何か食べてから行こう』
俺は案内板の横へ寄った。
昨日、行きたいとは言った。北見となら、とまで言った。
そこを思い出すと、返事を打つ親指が慎重になる。
『何か、持っていく物とかある?』
遠足か。
送信した後で、スマホを持つ手を替えた。
『お財布』
『それは持ってく』
『じゃあ、大丈夫』
どう返せばいいか迷って、結局、気になっていたことを聞いた。
『仕事の用事とかじゃなくて?』
『仕事?』
『撮影とか、そういう』
返事が来るまで、少し間があった。
昨日の誘い方を思い返す。撮影の話なんて、出ていなかった。
『私が真壁くんと遊びたい用事です』
『ほかの人は誘ってないよ』
俺は一つ目を読み、二つ目を読み、もう一度一つ目へ戻った。
通知を開いた時点で全部見えていたのに。
『十三時、行く』
『うん。楽しみにしてる』
俺も、と打つ。
短すぎるかと思って『ミニゴルフ』と続け、やめた。昨日やったことがないと言ったばかりだ。
『俺も楽しみにしてる』
今度はすぐに返ってきた。
『今さら? 私は昨日からなんだけど』
人がやっと送った返事に、一日分の差をつけてくる。
俺は文字を打ちかけて消した。
『負ける準備はできてる?』
『勝つ準備しかしてない』
『じゃあ明日、確認する』
北見から腕組みのスタンプが来た。
あの顔が、昨日は俺の隣でパンを食べていた。星路リノの声で。
思い出して落ち着かなくなる前に、俺はもう一つ送った。
『テラスで見せた盤面、穴あったぞ』
『どこ』
『明日教える』
『今教えて』
危うく言われた通りに教えるところだった。
画面越しなら、いつもの調子で食い下がってくる。
『明日』
『対策する時間が減るんだけど』
『それが狙い』
少しして、また返信が来た。
『じゃあ早く明日になって』
俺も、と思った。
そこまでは送れず、代わりに待ち合わせ場所の確認へうなずくスタンプを付ける。
『動きやすい服で来てね』
『勝負に勝てる服って何だ』
『知らないよ。そこは自分で考えて』
スマホをしまって改札へ向かった。
帰ったらシャツを選ぼう。しわがあればアイロンもかける。
いつもの同好会へ着ていく服なら、まだ家を出る前に決めればよかったのに。




