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第25話_待つ前に、俺は遊ぶ

 最後の日も、入口の音楽は同じだった。


 午後二時。

 江崎が先にドアを押し、俺はその後ろからゲームセンターへ入った。上着の袖口が、コインを入れたポケットに引っかかる。先月、北見と選んだ方を着てきた。


「どれ? 四時までのやつ」

「奥。丸いボタンが六つある」

「お前の説明だと、全部楽しそうなんだよな」

「楽しいから誘ったんだよ」


 江崎を呼んだのは、水曜の練習の後だった。

 最後に遊べる旧式の台があると話したら、四時までなら行く、と返ってきた。


 反射ゲームの前には、二人待っている客がいた。

 俺たちも後ろへ並ぶ。見慣れた画面の上に、『本日十六時まで』の紙がある。


「記録、狙う?」

「そのつもり」

「目標、何点」

「今までで一番」

「そこは数字を言えよ」


 言った数字を江崎が覚えていそうだったので、俺は百円玉を指で返した。


 順番が来る。

 両手を置き、始まる音を待った。


 最初の点滅を、俺は押した。


「あ」


 まだ、速くなる前だった。

 短い失敗の音が、ずいぶんはっきり聞こえた。


「今、俺のためにやり方見せた?」

「違う」

「なるほど。点滅は押さない」

「その説明は、さっきした」


 江崎が俺の代わりに台へ立つ。

 俺は肩の力を抜き、横からボタンの置き方だけ見た。


     *


 江崎は七つの光を押す短いモードを選んだ。

 一つずつ声に出し、五つ目で次を見失う。


「同じところ、二回光るのか」

「そこは画面見るしかない」

「ずっと見てたんだけどなあ」


 俺は、見ているのと押せるのは別だと返した。

 さっき俺が押した一つ目を指され、説明を短く切り上げた。


 一回ずつ代わる。

 後ろに並ぶ人が来れば、俺たちも列の最後へ戻った。壁際には、普段は人のいない対戦台まで客が座っていた。


 何度目かで、俺は自分の前の記録に近いところまで行った。

 右端を拾い、左へ戻る。ここを抜ければ、というところで一瞬だけ画面の数字を見た。


 次の光が消えた。


「今、点見ただろ」

「……見た」

「点欲しい時ほど、見ちゃ駄目なんだな」


 江崎は自分の順番の前に、結果の欄を手で隠してみせた。

 操作が始まる前に、もちろん手はどかす。


 七つ目まで、今度は止まらなかった。

 最後のボタンを押して、両手が少し浮く。間に合った時の短い音がした。


「できた」

「うん」

「お前の記録には、足りてない?」

「今日は、そっちの方が成功してる」


 江崎は満足そうに結果を見た。

 俺も、その一回はちゃんと見ていた。


     *


 三時半を過ぎて、飲み物を買った。

 台の前へ戻る途中、対戦ゲームから立った人に、一戦どうですか、と声をかけられた。江崎が俺を見る。


「一回だけなら」

「反射の方、大丈夫?」

「まだ、できる」


 俺は対戦台へ座った。

 昔よく選んだキャラクターを出し、最初の攻撃を空振りする。相手はその隙を見逃さなかった。


 隣で江崎が、あっちでも欲張るんだな、と言った。

 俺は後ろを見ないで、今度は短い技を出した。


 席を離れたのは三時四十五分頃だった。

 反射ゲームへ戻ると、店員が並んでいる人へ最後の受付を案内していた。一人一回。俺たちも、それに合わせてコインを用意する。


 江崎が先に遊び、また七つを通した。

 今度はさっきより少し遅い。けれど本人は、全部押せたところを見届けてから退いた。


 俺の番になった。

 記録を狙うなら、慣れた方で失敗せずに進めるのがよかった。

 画面の端には、いつも途中で落ちる速いモードもある。


 そちらへ、選択を動かした。


「最後、そっち?」

「一回、あの続きやりたい」

「じゃあ、見とく」


 始まった。

 両端へ光が飛び、途中で点滅が挟まる。

 北見が教えた三つずつの置き方から、指を浮かせすぎないようにした。


 一つ待つ。

 次を拾う。

 いつも間に合わなかった左端に、今度は届いた。


 その先にも、まだ光が来た。

 右、中央、左。最後は、戻す手の方を間違えた。


 失敗の音がした時、俺は息を止めていた。

 肩が上がる。


 江崎が横で笑った。


「そこまで一緒に動くんだな」

「反省してる」

「だいぶ全身で」


 俺も笑って、台から両手を離した。

 最高点ではなかった。けれど、さっきまで見られなかった順番は、まだ指に残っていた。


     *


 四時。

 最後の客が離れると、店員が紙を裏返した。


 画面が暗くなる。

 後ろの音楽は続いていた。別の台では、誰かがレースの続きを走っている。


 俺は丸いボタンを見た。

 もう一回、と思っても、コインは入れなかった。


 北見と並んで、この画面を見たかった。

 そう思いながら、隣の江崎へ顔を向けた。


「俺、来てよかった」


 江崎が言った。


「うん。誘ってよかった」


 江崎は空いた缶を回収箱へ入れた。


「来週は、光る方じゃなくて注文の札見ようぜ」

「そっちも、点だけ見るなよ」

「見る前に負けるよりましだろ」


 返しながら出口へ向かう。

 店の外で江崎と別れる前に、スマホが震えた。北見からだった。


『終わった。片づけて、今から出るね』


 四時の表示を確かめ、俺は返した。


『こっちも遊んだ。気をつけて』


 江崎は、また大学で、と手を上げた。

 俺も振り返し、店へ戻る。


 まだ動いている台の間を、ゆっくり歩いた。

 二人で同時に遊べるものの前で止まり、説明を読んだ。三つのボタンが二人分。相手と同じ印が出た時だけ、一緒に押すらしい。


 俺だけ先に練習するのはやめた。

 隣の席を見てから、もう一度店内を回る。


 入口へ戻った時、時計は四時三十五分だった。

 外は少し暗くなっていた。通りへ出ず、彼女が入ってきた時に見える方で待つ。


 ポケットに残っていた百円玉を、取りやすい方へ移した。

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