第20話_遅くなるなら、残りの時間を
「一日のテスト、二時から四時になった」
昨日と同じ席で、北見が言った。
土曜の一時。机へ置いたスマホには、確定した日程のメモが開いている。
「私、参加したい」
「……うん」
返事をした後、俺は手元の水を一度飲んだ。
北見は続きを急がず、画面を自分の方へ戻す。
「この時間じゃないと、駄目なんだよな」
「ほかの人の確認も一緒にするから。私たち二人がつながればいい、っていうテストじゃなくて」
「そうか」
「別の日にはできないか、聞いたんだけど。今回は、ここで揃える必要があるって」
俺はうなずいた。
リノが本番で楽しく喋っている時も、その前に声や画面を確かめる時間がある。彼女一人が夜に頑張れば済む話ではないのだろう。
「ごめん。先に約束したのに」
「残念では、ある」
北見の指が止まった。
俺は、自分の返事が思ったより硬く聞こえたので、もう一度言葉を探した。
「やるなって意味じゃない。ただ、二時から一緒に遊べるの、楽しみにしてたから」
「うん。私も」
北見は目をそらさなかった。
俺も、すぐに大丈夫とは言わず、机の上で画面の端を軽く押さえた。
「機械は、四時で終わる」
「分かってる。最後の方だけ抜けて、っていうのも、できない」
「そこは、ちゃんと終えてきてほしい」
彼女が小さく息を吐いた。
昼食の皿が運ばれてきて、二人とも、いったんスマホを脇へ寄せた。
「最終日より前なら、また二人で行くことはできると思うけど」
北見が言った。
「うん。この前も行けたし」
「木曜、楽しかったよ」
「俺も」
あの台は、二人で遊ぶなら何度でも面白い。
けれど、最後の時刻を二人で知って、その日に来ようと決めたことは、木曜日へ移し替えられなかった。
「一人で先に行けば、あの台はできるんだよな」
「……うん」
「でも、失敗した時に、北見に肩の真似されるのがさ」
彼女が俺を見た。
俺もフォークを皿の端へ置く。
「また、見せるつもりだった?」
「成功する方も見せたいけど」
北見が短く笑った。
「最後も隣で笑ってほしかった。だから、残念なんだと思う」
言うと、彼女は膝の上で手を重ねた。
「私も、そこにいたかった」
「うん」
「仕事はやりたい。でも、それで残念じゃなくなるわけじゃないよ」
俺はうなずき、自分の皿へ視線を戻した。
北見も自分の食事へ戻る。次に予定を開くまで、しばらく食器の音だけがしていた。
「明日は江崎と練習する。来週の土曜は、バイトなんだ」
「うん」
「それは、そのままにしとく。別の日に会えないってことじゃなくて、一日のことを先に決めたい」
北見は、自分の予定を開き直した。
仕事の時間を指で確かめてから、帰る経路を見せる。
「家でテストをして、三時五十分には終える予定。片づけて四時に出る。駅まで五分、電車が二十五分。店まで歩いて十分だから」
「四時四十分」
「うん。それなら行ける」
店が閉まる六時半までは、まだ時間がある。
俺は自分の予定も開き、彼女へうなずいた。
「じゃあ、そこから、一緒に遊ぼう」
「……いいの?」
「北見が来られる時間、空けておきたい」
「行く。私も、真壁くんと遊びたい」
北見は向けていた画面へ手を戻した。
二時の数字を消したところで、指が一度止まる。それから四時四十分と入れて、保存を押した。
俺も同じ時刻へ書き直した。
「服、約束した青いの、着てきてよ」
「仕事の後でも?」
「うん。見たいのは、その日だし」
北見が、ようやく少し笑った。
「着ていく。真壁くんも、あの上着だよね」
「うん。そのつもり」
「じゃあ、そこは変えないでね」
一日の夜の配信は休みにするという。決まった予定に合わせて早めに告知するつもりだと話し、俺も分かったと返した。
*
食事を終え、駅へ向かった。人の流れで北見が一度後ろになり、俺が足を緩めると、また隣へ並ぶ。
彼女が追いついたのを横目で確かめ、俺はいつもの速さへ戻した。
改札で別れる前に、俺は彼女を呼んだ。
「北見。遅くなっても、来てほしい」
「……行くよ。約束したから」
彼女がうなずくのを見て、俺もスマホを出した。
四時四十分の欄には、北見の名前が残っている。その上の午後二時は、空いていた。
そこに『反射ゲーム』と入れる。
北見の名前は、四時四十分の方にだけ残した。




