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20/23

第20話_遅くなるなら、残りの時間を

「一日のテスト、二時から四時になった」


 昨日と同じ席で、北見が言った。

 土曜の一時。机へ置いたスマホには、確定した日程のメモが開いている。


「私、参加したい」

「……うん」


 返事をした後、俺は手元の水を一度飲んだ。

 北見は続きを急がず、画面を自分の方へ戻す。


「この時間じゃないと、駄目なんだよな」

「ほかの人の確認も一緒にするから。私たち二人がつながればいい、っていうテストじゃなくて」

「そうか」

「別の日にはできないか、聞いたんだけど。今回は、ここで揃える必要があるって」


 俺はうなずいた。

 リノが本番で楽しく喋っている時も、その前に声や画面を確かめる時間がある。彼女一人が夜に頑張れば済む話ではないのだろう。


「ごめん。先に約束したのに」

「残念では、ある」


 北見の指が止まった。

 俺は、自分の返事が思ったより硬く聞こえたので、もう一度言葉を探した。


「やるなって意味じゃない。ただ、二時から一緒に遊べるの、楽しみにしてたから」

「うん。私も」


 北見は目をそらさなかった。

 俺も、すぐに大丈夫とは言わず、机の上で画面の端を軽く押さえた。


「機械は、四時で終わる」

「分かってる。最後の方だけ抜けて、っていうのも、できない」

「そこは、ちゃんと終えてきてほしい」


 彼女が小さく息を吐いた。

 昼食の皿が運ばれてきて、二人とも、いったんスマホを脇へ寄せた。


「最終日より前なら、また二人で行くことはできると思うけど」


 北見が言った。


「うん。この前も行けたし」

「木曜、楽しかったよ」

「俺も」


 あの台は、二人で遊ぶなら何度でも面白い。

 けれど、最後の時刻を二人で知って、その日に来ようと決めたことは、木曜日へ移し替えられなかった。


「一人で先に行けば、あの台はできるんだよな」

「……うん」

「でも、失敗した時に、北見に肩の真似されるのがさ」


 彼女が俺を見た。

 俺もフォークを皿の端へ置く。


「また、見せるつもりだった?」

「成功する方も見せたいけど」


 北見が短く笑った。


「最後も隣で笑ってほしかった。だから、残念なんだと思う」


 言うと、彼女は膝の上で手を重ねた。


「私も、そこにいたかった」

「うん」

「仕事はやりたい。でも、それで残念じゃなくなるわけじゃないよ」


 俺はうなずき、自分の皿へ視線を戻した。

 北見も自分の食事へ戻る。次に予定を開くまで、しばらく食器の音だけがしていた。


「明日は江崎と練習する。来週の土曜は、バイトなんだ」

「うん」

「それは、そのままにしとく。別の日に会えないってことじゃなくて、一日のことを先に決めたい」


 北見は、自分の予定を開き直した。

 仕事の時間を指で確かめてから、帰る経路を見せる。


「家でテストをして、三時五十分には終える予定。片づけて四時に出る。駅まで五分、電車が二十五分。店まで歩いて十分だから」

「四時四十分」

「うん。それなら行ける」


 店が閉まる六時半までは、まだ時間がある。

 俺は自分の予定も開き、彼女へうなずいた。


「じゃあ、そこから、一緒に遊ぼう」

「……いいの?」

「北見が来られる時間、空けておきたい」

「行く。私も、真壁くんと遊びたい」


 北見は向けていた画面へ手を戻した。

 二時の数字を消したところで、指が一度止まる。それから四時四十分と入れて、保存を押した。


 俺も同じ時刻へ書き直した。


「服、約束した青いの、着てきてよ」

「仕事の後でも?」

「うん。見たいのは、その日だし」


 北見が、ようやく少し笑った。


「着ていく。真壁くんも、あの上着だよね」

「うん。そのつもり」

「じゃあ、そこは変えないでね」


 一日の夜の配信は休みにするという。決まった予定に合わせて早めに告知するつもりだと話し、俺も分かったと返した。


     *


 食事を終え、駅へ向かった。人の流れで北見が一度後ろになり、俺が足を緩めると、また隣へ並ぶ。

 彼女が追いついたのを横目で確かめ、俺はいつもの速さへ戻した。


 改札で別れる前に、俺は彼女を呼んだ。


「北見。遅くなっても、来てほしい」

「……行くよ。約束したから」


 彼女がうなずくのを見て、俺もスマホを出した。

 四時四十分の欄には、北見の名前が残っている。その上の午後二時は、空いていた。


 そこに『反射ゲーム』と入れる。

 北見の名前は、四時四十分の方にだけ残した。

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