第18話_最後の日は、北見と遊びたい
「この台だけ、四時?」
北見の指が、反射ゲームの横に貼られた紙の前で止まった。
木曜の四時過ぎ。講義の後に少しだけ寄った店で、俺もその文字を初めて読んだ。
最終営業日、十一月一日。一部旧式機の稼働は十六時まで。
入口に出ている全店の閉店時刻は、六時半のままだった。
「最後まで全部動くんじゃないんだ」
「……知らなかった。こっち、新しく貼ったみたいだな」
俺は、六つの丸いボタンを見た。
今はいつもどおり、押していない間も画面の端で短い光が動いている。
「先に、やっていい?」
「うん」
北見が百円を入れた。
左右の手をそれぞれ三つのボタンへ置き、点滅する光を一つ待つ。次の光まで手を浮かせず、少しだけ指を曲げて構えていた。
「前より速い」
「やり方、考えたから」
返事をした後も、彼女の目は画面から離れなかった。
七つの光を拾う短いモードで、最後まで押し終える。結果が出るより先にこちらを見たので、俺はうなずいた。
「見た。上手くなってる」
「でしょ」
北見が一歩退き、俺へ場所を空ける。
代わって同じモードを始めると、彼女は隣で、両手を同じ幅に開いた。
「教えた通りにできてるね」
「その言い方だと、俺が先に来てた店に見えないな」
「発見したのは私なので」
俺は笑いかけ、目を画面へ戻した。
最後の一つで待つ。北見がさっき少し時間を使った方の光を、今度は見落とさずに拾えた。
わずかに俺の方が速かった。
隣の両肩が、ほんの少し下がる。
「褒めるのと、勝つの、両立しない?」
「褒めた上で勝ったけど」
「その後、もう一回褒めてもいいんだけど」
俺は結果の画面を見比べた。
「さっき最後の光、待てたの、よかった」
「……どこで負けたかも、そこで分かるね」
「次は俺が負けるかもしれないぞ」
「じゃあ、もう一回」
彼女はすぐに百円を出した。
そういう返事だけは、説明を待たずに続けられる。
*
別の台へ移っても、さっきの新しい紙が目に入った。
北見は対戦ゲームのボタンを試し、前よりも迷わずにキャラクターを動かしていた。俺も一度負けてから、使う技を変える。
勝っても負けても、どちらかが次の百円を入れるまで、相手の言い分を聞く時間があった。
一人で来た時より、同じ台の前にいる時間は長くなっている。
五時半過ぎ。飲み物を買って入口の近くへ戻ると、北見がもう一度閉店の掲示を見た。
「一日、日曜だよね」
「うん。北見、昼は空いてる?」
聞くと、彼女はスマホを出した。
予定を開き、指を止めてからうなずく。
「今のところは、空いてる」
「二時から、ここで遊びたい」
「二時」
「あの台、最後の日に。北見と」
俺は言ってから、さっきまでいた方を見た。
四時までなら、二時間。一度ずつの勝負だけでなく、間に別の台も見られる。
北見はスマホを持ったまま、俺を見ていた。
「最後だから、来る?」
「最後じゃなくても、来たいけど」
「……うん」
「でも、最後も一緒がいい」
北見の手が、予定の画面へ戻った。
十一月一日の午後に何かを打ち込み、すぐ閉じずに見直している。
「じゃあ、その日に着てくる」
「何を?」
「青いの。日曜に選んだやつ」
俺は手元の飲み物へ視線を落とした。
帰りに少し遊ぼうと寄った今日とは違う。彼女も、あの日のために袋をまだ開けずにいるのかもしれなかった。
「俺も、あの上着で行く」
「うん。覚えてる」
「二人とも、ゲームする服に見えないかもな」
「ボタン押すのに、制服はないでしょ」
確かにそうだった。
北見は自分の袖を軽くつまんで、今の格好と新しい服を比べるように見下ろした。
「ちゃんと、待つやつも勝つから」
「服の効果?」
「今のうちに宣言してるだけ」
「じゃあ、最後でも手加減なしな」
「当たり前」
彼女は笑い、俺も十一月一日の予定へ二時と入れた。
ただ『ゲームセンター』と書いた後、北見の名前も足した。
*
六時に店を出て、駅まで歩いた。
北見は、一日にはどのモードをやるか、まだ考えていた。俺が七つの短い方と言うと、遅いモードも一回入れてと返される。
「そっちなら、私が最初に最後までできたから」
「覚えてる」
「真壁くん、すぐ同じ置き方にしたよね」
「よかったからな。あれ」
「うん。知ってる」
駅の明かりの下で、彼女が満足そうに笑った。
俺は隣を歩くその顔を見て、最終日も、これを見たいと思った。
ただの店の常連同士なら、同じ時刻に来て、空いた台で遊べばよかった。
二時と決めて服まで選んだ約束を、今はそれだけで終わらせたくなかった。




