↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
18/26

第18話_最後の日は、北見と遊びたい

「この台だけ、四時?」


 北見の指が、反射ゲームの横に貼られた紙の前で止まった。

 木曜の四時過ぎ。講義の後に少しだけ寄った店で、俺もその文字を初めて読んだ。


 最終営業日、十一月一日。一部旧式機の稼働は十六時まで。

 入口に出ている全店の閉店時刻は、六時半のままだった。


「最後まで全部動くんじゃないんだ」

「……知らなかった。こっち、新しく貼ったみたいだな」


 俺は、六つの丸いボタンを見た。

 今はいつもどおり、押していない間も画面の端で短い光が動いている。


「先に、やっていい?」

「うん」


 北見が百円を入れた。

 左右の手をそれぞれ三つのボタンへ置き、点滅する光を一つ待つ。次の光まで手を浮かせず、少しだけ指を曲げて構えていた。


「前より速い」

「やり方、考えたから」


 返事をした後も、彼女の目は画面から離れなかった。

 七つの光を拾う短いモードで、最後まで押し終える。結果が出るより先にこちらを見たので、俺はうなずいた。


「見た。上手くなってる」

「でしょ」


 北見が一歩退き、俺へ場所を空ける。

 代わって同じモードを始めると、彼女は隣で、両手を同じ幅に開いた。


「教えた通りにできてるね」

「その言い方だと、俺が先に来てた店に見えないな」

「発見したのは私なので」


 俺は笑いかけ、目を画面へ戻した。

 最後の一つで待つ。北見がさっき少し時間を使った方の光を、今度は見落とさずに拾えた。


 わずかに俺の方が速かった。

 隣の両肩が、ほんの少し下がる。


「褒めるのと、勝つの、両立しない?」

「褒めた上で勝ったけど」

「その後、もう一回褒めてもいいんだけど」


 俺は結果の画面を見比べた。


「さっき最後の光、待てたの、よかった」

「……どこで負けたかも、そこで分かるね」

「次は俺が負けるかもしれないぞ」

「じゃあ、もう一回」


 彼女はすぐに百円を出した。

 そういう返事だけは、説明を待たずに続けられる。


     *


 別の台へ移っても、さっきの新しい紙が目に入った。

 北見は対戦ゲームのボタンを試し、前よりも迷わずにキャラクターを動かしていた。俺も一度負けてから、使う技を変える。


 勝っても負けても、どちらかが次の百円を入れるまで、相手の言い分を聞く時間があった。

 一人で来た時より、同じ台の前にいる時間は長くなっている。


 五時半過ぎ。飲み物を買って入口の近くへ戻ると、北見がもう一度閉店の掲示を見た。


「一日、日曜だよね」

「うん。北見、昼は空いてる?」


 聞くと、彼女はスマホを出した。

 予定を開き、指を止めてからうなずく。


「今のところは、空いてる」

「二時から、ここで遊びたい」

「二時」

「あの台、最後の日に。北見と」


 俺は言ってから、さっきまでいた方を見た。

 四時までなら、二時間。一度ずつの勝負だけでなく、間に別の台も見られる。


 北見はスマホを持ったまま、俺を見ていた。


「最後だから、来る?」

「最後じゃなくても、来たいけど」

「……うん」

「でも、最後も一緒がいい」


 北見の手が、予定の画面へ戻った。

 十一月一日の午後に何かを打ち込み、すぐ閉じずに見直している。


「じゃあ、その日に着てくる」

「何を?」

「青いの。日曜に選んだやつ」


 俺は手元の飲み物へ視線を落とした。

 帰りに少し遊ぼうと寄った今日とは違う。彼女も、あの日のために袋をまだ開けずにいるのかもしれなかった。


「俺も、あの上着で行く」

「うん。覚えてる」

「二人とも、ゲームする服に見えないかもな」

「ボタン押すのに、制服はないでしょ」


 確かにそうだった。

 北見は自分の袖を軽くつまんで、今の格好と新しい服を比べるように見下ろした。


「ちゃんと、待つやつも勝つから」

「服の効果?」

「今のうちに宣言してるだけ」

「じゃあ、最後でも手加減なしな」

「当たり前」


 彼女は笑い、俺も十一月一日の予定へ二時と入れた。

 ただ『ゲームセンター』と書いた後、北見の名前も足した。


     *


 六時に店を出て、駅まで歩いた。

 北見は、一日にはどのモードをやるか、まだ考えていた。俺が七つの短い方と言うと、遅いモードも一回入れてと返される。


「そっちなら、私が最初に最後までできたから」

「覚えてる」

「真壁くん、すぐ同じ置き方にしたよね」

「よかったからな。あれ」

「うん。知ってる」


 駅の明かりの下で、彼女が満足そうに笑った。

 俺は隣を歩くその顔を見て、最終日も、これを見たいと思った。


 ただの店の常連同士なら、同じ時刻に来て、空いた台で遊べばよかった。

 二時と決めて服まで選んだ約束を、今はそれだけで終わらせたくなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。