321話「同じ場所へ」
披露宴の受付開始よりも早く、萌と陸は会場へ到着していた。
ロビーには、まだ式場スタッフの姿しかない。
二人は預かっていた名簿や席次表を受付台へ並べ、招待客へ渡す案内の順番を確認した。
「陸くん、そっちの名簿と席次表、向きが逆」
「本当だ」
「受付する側から見えるように置いて」
「分かった」
陸が名簿を置き直す。
萌は受付台の正面へ回り、招待客の位置から見え方を確認した。
「これなら大丈夫かな」
「うん。名前を確認したら、俺が席次表を渡す」
「ご祝儀を預かるのは私ね」
「間違えない?」
「陸くんよりは大丈夫」
「それ、どういう意味?」
「そのままの意味」
萌が笑う。
陸も言い返そうとして、萌の姿を改めて見た。
柔らかな色のドレス。
仕事中は下ろしていることの多い髪も、今日は綺麗にまとめられている。
視線に気づき、萌が首を傾げた。
「何?」
「いや」
「何か変?」
「変じゃない」
「じゃあ何?」
陸は少し迷ったあと、萌から目を逸らした。
「似合ってる」
「……何が?」
「ドレス。いつもと違うから」
「それ、褒めてる?」
「褒めてる」
「ちゃんと言ってよ」
「萌さん、今日すごく綺麗だよ」
萌の表情が止まる。
陸は言ってから、自分の言葉を理解したらしい。
耳が僅かに赤くなった。
「受付の服として、って意味だから」
「分かってる」
「ならいいけど」
「陸くんも似合ってるよ」
「何が?」
「スーツ」
「仕事でも着てる」
「今日の方がちゃんとしてる」
「普段はちゃんとしてないみたいに言わないで」
「ネクタイ以外はね」
萌が陸の前へ一歩近づく。
「少し曲がってる」
「嘘」
「動かないで」
萌は陸のネクタイへ手を伸ばした。
結び目へ指を添え、僅かに位置を直す。
二人の距離が近づいた。
陸は動かない。
言われたからではなく、どう動けばいいのか分からなくなっていた。
「これで大丈夫」
萌が一歩離れる。
「ありがとう、萌さん」
「うん」
「もしかして、これを直してもらうために曲げたと思ってる?」
「思ってないけど、今の質問で少し怪しくなった」
「違うから」
「分かってるって」
萌は受付台へ戻る。
頬が僅かに赤くなっていることに、陸は気づいていた。
だが、指摘すれば自分も同じことを言われる気がして、黙って名簿を開いた。
◇
挙式を終えた参列者たちが、ロビーへ移動してくる。
最初に姿を見せたのは、黒澤と神谷だった。
「おはようございます、黒澤部長。神谷部長」
陸と萌が頭を下げる。
「おう。早いな」
「おはようございます。受付を引き受けていただき、ありがとうございます」
「いえ。陽菜先輩から頼まれたので」
萌が答えたあと、神谷の顔を見る。
目元が、はっきりと赤くなっていた。
萌は一度視線を逸らした。
だが、陸は遠慮なく見つめる。
「神谷部長、目が赤くないですか?」
「光の加減です」
「ロビーの照明ですけど」
「少し乾燥しているだけです」
神谷が答えると、隣にいた黒澤が笑った。
「こいつ、挙式が始まってすぐに泣いてたぞ」
「泣いていません」
「ハンカチ使ってただろ」
「目元を押さえただけです」
「それを泣いたって言うんだよ」
「黒澤部長も、何度も瞬きをしていました」
「あれは眠かっただけだ」
「挙式中にですか?」
「朝が早かったからな」
黒澤と神谷が、互いに認めようとしない。
萌が笑いを堪え、陸も口元を緩めた。
「二人とも泣いたんじゃないですか?」
陸が言う。
「山本、受付の確認は終わったのか?」
「終わっています」
「なら、もう一度確認しろ」
「話を逸らしましたね」
「上司に向かって随分言うようになったな」
黒澤はそう言いながら、楽しそうに笑っていた。
◇
続いて、美園と樹里がロビーへ入ってきた。
萌は二人を見て、一瞬言葉を失った。
美園は、身体の線を上品に見せる落ち着いた色のドレスを着ている。
肩から背中までは不透明な布で覆われ、露出は抑えられていた。
それでも、普段Roseのカウンターに立つときとは違う華やかさがある。
その隣を歩く樹里は、深い紺色のドレスを身につけていた。
背中を完全に覆う生地。
まとめられた髪。
控えめな装飾。
派手なものは何一つない。
それでも樹里が歩くだけで、周囲の視線が自然に集まった。
「日高さん」
萌が受付台から出てくる。
『何ですか?』
「すごく綺麗です」
樹里が足を止める。
『ありがとうございます、川原さん』
「会社にいるときと、全然違います」
『それは褒めていますか?』
「もちろんです」
『なら、受け取っておきます』
樹里は平静に答えている。
だが、少しだけ居心地が悪そうだった。
陸も樹里を見る。
「日高さん、よく似合っています」
『ありがとうございます、山本さん』
「日高さんだけ、いつもより言葉が短いですね」
『これ以上、何と答えればいいんですか?』
「照れてます?」
『受付の準備へ戻ってください』
「はい」
陸が笑いながら受付台へ戻る。
神谷は少し離れた場所から、樹里を見ていた。
朝に一度会っている。
それでも、目を離せない。
黒澤が神谷の視線に気づく。
「神谷」
「はい」
「今度は何を見てるんだ」
「会場の様子です」
「日高さんしか見てなかっただろ」
神谷の表情が僅かに固まる。
『黒澤部長』
樹里が低い声で呼ぶ。
「何だ?」
『披露宴の前に余計なことを言わないでください』
「褒めてるだけだろ」
『誰をですか』
「二人ともだよ」
黒澤は何も知らないふりをして笑う。
神谷と樹里の交際を知っている美園は、二人の顔を交互に見た。
周囲には会社の人間がいる。
『日高さん』
『何だ』
『神谷さん、朝からずっと同じ顔してますよ』
「美園さん」
神谷が止める。
『違いました?』
「……否定はしません」
樹里は何も言わず、神谷から目を逸らした。
その横顔を見て、美園が小さく笑った。
◇
披露宴から参加する招待客が、次々と会場へ到着し始めた。
入口の扉が開く。
最初に入ってきたのは、彩花と高村だった。
「おはようございます」
高村が頭を下げる。
「受付はこちらですか?」
「はい。お名前をお願いします」
萌が応じる。
彩花は受付台へ向かう途中で、樹里の姿に気づいた。
足を止め、上から下まで見る。
「日高」
『何だ』
「そういう服も着るんだ」
樹里の眉が僅かに動く。
『彩花、どういう意味だ』
「いつもスーツしか着ないから、ドレスを持ってないと思ってた」
『失礼な人間だな』
「褒めてる」
『今のどこがだ』
「似合ってる。綺麗だよ」
彩花が笑う。
樹里は言い返そうとして、言葉を止めた。
『……ありがとう』
「そこは素直なんだ」
『褒めたのは彩花だろう』
「日高が素直に受け取ると思わなかった」
『なら、返す』
「いらない」
二人のやり取りを聞き、高村が穏やかに笑った。
「同期だから言えることですね」
『高村さんまで笑わないでください』
「すみません。でも、本当によくお似合いです」
『ありがとうございます』
高村は次に美園を見る。
「美園さんも、とても綺麗です」
『ありがとうございます』
「お二人とも背中まで覆われたデザインなんですね」
美園と樹里の視線が、一瞬だけ重なった。
『そうなんです』
美園が自然に答える。
『私は、あまり肌を出すものが好きじゃないので』
『私もです』
樹里が続ける。
「落ち着いていて素敵です」
高村は、それ以上尋ねなかった。
二人の衣装の下に同じ文字と薔薇が隠されていることを、会社の人間は知らない。
明るいロビーの中でも、それが見えることはなかった。
◇
佐藤が会場へ到着する。
受付へ向かう前に、美園の姿を見つけた。
足が止まる。
美園も佐藤に気づく。
『佐藤くん』
「美園さん」
佐藤はすぐに近づかなかった。
少し離れた位置から、美園の全身を見る。
『何?』
「いえ」
『変?』
「違います」
佐藤は美園の前まで歩いてくる。
「とても綺麗です」
『ありがとう』
「昨日、会うのを楽しみにしていると言ってくれましたよね」
『うん』
「俺も楽しみにしていました」
『そう』
「待った甲斐がありました」
『大げさだよ』
「大げさではありません」
佐藤は一度受付を済ませる。
席次表を受け取ると、再び美園のもとへ戻った。
「約束したので、迎えに来ました」
『会場の中だけど』
「場所は関係ありません」
佐藤が美園へ腕を差し出す。
近くには、会社の人間が何人もいる。
美園は少しだけ迷った。
以前なら、恥ずかしさを理由に断っていたかもしれない。
だが、美園は差し出された腕へ自分の手を添えた。
『披露宴会場までだよ』
「その先も、必要なら何度でも」
『今日は歩きにくい靴だから』
「では、帰りも呼んでください」
『呼ぶ』
美園は佐藤の腕を取り、並んで歩き始めた。
彩花がその姿を見送りながら、樹里へ近づく。
「日高、あの二人って」
『私へ聞くな』
「聞く前に答えないで」
『顔を見れば分かるだろう』
「それもそうだね」
二人の前を、美園と佐藤がゆっくりと歩いていく。
美園は誰かに支えられることを、もう隠そうとはしていなかった。
◇
青柳は、約束どおり凛より先に会場へ到着していた。
受付を済ませたあとも、披露宴会場へは入らず、ロビーの入口が見える場所で待っている。
扉が開くたびに顔を上げた。
何度目かの扉が開く。
凛が一人で入ってくる。
落ち着いた色のドレス。
髪は普段よりも柔らかくまとめられ、耳元の小さな飾りが歩くたびに揺れている。
青柳は凛を見たまま、動かなかった。
凛が近づいてくる。
「お待たせしました、青柳さん」
「いえ」
「本当に先に来ていたんですね」
「約束しましたから」
「先ほどから、どうしましたか?」
青柳はすぐに答えなかった。
凛が自分の衣装を見る。
「何か変でしょうか」
「いいえ」
「では、なぜ黙っているんですか?」
「昨日、写真で見せてもらわなくてよかったと思っていました」
「どういう意味ですか?」
「今、凛さんを見たときの気持ちを、先に使わずに済みました」
凛の頬が、僅かに赤くなる。
「昨日、最初に伝えたいことがあると言っていましたね」
「はい」
「何でしょうか」
青柳は凛の目を見つめる。
「とても綺麗です」
「……ありがとうございます」
「想像していた以上でした」
「それは褒めすぎです」
「思ったことを伝えているだけです」
「青柳さんは、そういうことを普通に言いますね」
「凛さんにだけです」
凛は返す言葉を失い、青柳から目を逸らした。
青柳が僅かに笑う。
「受付へ行きましょうか」
「はい」
「よろしければ、お手を」
青柳が手を差し出す。
凛は周囲を一度見たあと、その手へ自分の手を重ねた。
「会場の中までです」
「分かりました」
「あと、ネクタイは曲がっていませんね」
「凛さんに直していただく理由がなくなりました」
「最初から真っ直ぐにしてきたんですか?」
「曲がっている姿を最初に見せたくありませんでしたので」
「では、昨日の話は何だったんですか?」
「少し期待していました」
凛が青柳を見る。
青柳は何事もなかったように受付へ向かっている。
「青柳さん」
「はい」
「やっぱり、聞き出すのが上手ですね」
「今日は何も聞き出していません」
「私に手を取らせました」
「それはお願いしました」
「同じです」
「嫌でしたか?」
「……嫌ではありません」
青柳は、凛の手を離さなかった。
◇
凛が受付を終えた直後、入口から聞き慣れた声がした。
「凛ちゃん」
振り返る。
柚希と零が、並んで歩いてくる。
二人のドレスは、色も形も違っていた。
柚希は柔らかな色。
零は落ち着いた濃い色。
だが、腰元に使われた細い飾りと、耳元の小物には、同じ色が選ばれている。
二人で並ぶと、意識してそろえたことがすぐに分かった。
「柚希ちゃん、零ちゃんと合わせたの?」
「分かる?」
「分かるよ。色が同じ」
「零ちゃんと一緒に選んだの」
「ほとんど柚希ちゃんが選んでくれたんすけど」
零は少し照れたように、自分のドレスへ視線を落とす。
「自分には、こういうのは似合わないと思ったんすけど」
「似合ってるよ、零ちゃん」
凛が言う。
「二人で並ぶと、もっといい」
「ありがとうございます」
「凛ちゃんも綺麗だね」
「ありがとう」
「青柳さん、さっきから凛ちゃんしか見てないよ」
柚希が凛の隣にいる青柳を見る。
青柳は視線を逸らさなかった。
「はい。見ています」
「認めるんですね」
「否定する理由がありませんので」
「青柳さん」
凛が恥ずかしそうに呼ぶ。
「何でしょうか」
「少しだけ、違うところも見てください」
「努力します」
「努力なんですね」
柚希が笑う。
零も口元を緩めた。
そのとき、零がロビーの奥にいる三人へ気づく。
樹里。
美園。
少し離れた場所にいる佳菜。
そのうち二人は、背中までを覆うドレスを着ている。
陽菜も今、同じように背中を覆うウェディングドレスを身につけている。
零は、その理由を知っていた。
だが、何も口にしない。
今日は、過去を見せるための日ではない。
その過去の先に、それぞれが選んだ人と並んでいる姿を祝う日だった。
「零ちゃん、受付行こ」
柚希が零の手を取る。
「はい」
二人は手をつないだまま、萌と陸が待つ受付へ向かった。
◇
「早川さん、東雲さん。お名前を確認します」
萌が名簿へ視線を落とす。
「早川柚希です」
「東雲零っす」
「確認しました。こちらが席次表です」
陸が二人へ手渡す。
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
零は席次表を開き、自分の名前を探した。
柚希、凛、美園、樹里、彩花、高村、萌。
女性たちは、同じテーブルに並んでいる。
「柚希ちゃん、隣っす」
「本当だ」
「凛ちゃんも近いっすね」
「みんな同じテーブルだね」
「川原さんも一緒なんすね」
「受付が終わったら来ると思うよ」
零が顔を上げる。
受付台の向こうでは、萌と陸が並んでいる。
先ほど直した陸のネクタイは、今も真っ直ぐだった。
「何か、二人とも雰囲気が違わない?」
柚希が小さな声で尋ねる。
「服のせいじゃないっすか」
「そうかな」
「多分」
零はそう答えたが、陸が萌を見る回数が多いことには気づいていた。
◇
招待客が増えるにつれ、ロビーは賑やかになっていった。
島川不動産の社員たちが、普段とは違う服装で顔を合わせる。
仕事中には聞けない笑い声が、あちこちから響く。
「神谷部長、目が赤くありませんか?」
佐藤が尋ねる。
「赤くありません」
「やっぱり泣いたんですね」
「どうしてそうなるんですか?」
「美園さんが、挙式前から泣きそうだと言っていました」
『私のせいにしないで』
美園が佐藤の腕を取ったまま答える。
「実際に泣いていましたよ」
黒澤が言う。
「黒澤部長まで広めないでください」
「事実だろ」
「少し目元を押さえただけです」
「神谷さん、それを泣いたって言うんすよ」
零まで加わる。
「東雲さんまで言うんですか?」
「皆さん、同じ意見みたいっす」
「日高さんは、どう思いますか?」
神谷が樹里へ助けを求める。
樹里は一度、神谷の赤い目を確認した。
『泣いていたと思います』
「日高さん」
『実際に見ましたので』
「そうですか」
神谷が諦めたように息を吐く。
全員の笑い声がロビーへ広がった。
「でも、日高さんも泣いてたんじゃないですか?」
佐藤が尋ねる。
『泣いていません』
『総長も目が赤かったよ』
陽菜のいない場所で、美園がそう言いかける。
だが、周囲には過去を知らない会社の人間がいる。
美園は途中で言葉を止めた。
『日高さんも、少し目が赤かったですよ』
『美園』
『事実でしょ』
「では、二人とも同じですね」
神谷が言う。
『私は違います』
「何が違うんですか?」
『泣いていません』
「俺も同じことを言っています」
『神谷さんはハンカチを使っていました』
「日高さんは美園さんの手を握っていたそうですね」
『なぜ知っているんですか?』
「美園さんから聞きました」
樹里が美園を見る。
『余計なことを話すな』
『別に隠すことじゃないでしょ』
美園が笑う。
樹里はそれ以上言い返さず、顔を背けた。
その先にいた彩花と目が合う。
「日高、今日ずっと負けてるね」
『彩花まで加わるな』
「会社では勝てないから、今日くらいいいでしょ」
『何の話だ』
「日高を困らせる話」
『帰れ』
「披露宴はこれから」
再び笑いが起こる。
その少し離れた場所で、佳菜はその様子を見ていた。
樹里が会社の人間たちに囲まれ、言い返しながらも、その場から離れようとしない。
中学時代の樹里からは想像できなかった姿だった。
陽菜がこの会社で何を得たのか。
すべてを知っているわけではない。
それでも、ここにいる人たちが陽菜と中井を心から祝っていることは分かった。
◇
受付終了の時刻が近づく。
萌が最後の招待客を確認し、名簿を閉じた。
「これで全員かな」
「うん。ご祝儀も数が合ってる」
陸が確認する。
「お疲れさま、萌さん」
「陸くんも」
陸が受付の荷物を持ち上げる。
「これ、預けてくる」
「半分持つよ」
「大丈夫」
「さっき、二人で持った方が早いって言ってたでしょ」
「それは仕事の話」
「これも受付の仕事」
萌が箱の片側を持つ。
二人は顔を見合わせたあと、同時に持ち上げた。
「せーので言ってよ」
「萌さんが急に持つから」
「陸くんが一人で行こうとするからでしょ」
「じゃあ、せーの」
「もう持ってる」
二人は言い合いながら、並んで荷物を運んでいく。
その後ろ姿を見ていた彩花が、高村へ小さく尋ねた。
「あの二人、いつからあんな感じなんですか?」
「私にも分かりません」
「本人たちも分かってなさそうですね」
「そうかもしれません」
高村が穏やかに笑う。
◇
披露宴会場の扉が開いた。
式場スタッフの案内に従い、招待客たちが順番に中へ入っていく。
美園は佐藤の腕を取ったまま歩く。
凛は青柳と並ぶ。
柚希と零は、色を合わせた小物を揺らしながら、手をつないで進む。
萌と陸も受付の仕事を終え、それぞれの席へ向かった。
女性たちのテーブルには、樹里、美園、彩花、高村、凛、柚希、零、萌の名前が並んでいる。
佐藤、青柳、陸は近くのテーブルに着いた。
神谷と黒澤は、島川不動産の関係者が座る席へ向かう。
中井の家族と佳菜も、それぞれ用意された席に着いた。
これまで、別々の場所で陽菜と中井に出会った人たち。
会社で出会った者。
過去を知る者。
恋人として隣にいる者。
家族として見守る者。
全員が、同じ会場へ集まっていた。
照明がゆっくりと落とされる。
ロビーまで届いていた話し声も、少しずつ静かになった。
会場の正面にある扉へ、視線が集まる。
司会を務める式場スタッフが、マイクを手に取った。
「皆様、大変お待たせいたしました」
会場に、柔らかな音楽が流れ始める。
「新郎新婦のご入場です」
閉じていた扉へ、光が差し込んだ。




