『みんなで走る日』
休日の朝。
郊外にある道の駅の駐車場に、何台ものバイクが集まっていた。
今日は会社のツーリングクラブのツーリングの日だった。
愛子は赤いSRV250を停め、ヘルメットを脱いだ。
周りには、普段の職場では見かけない、別の地区にある施設で働いている人たちがいる。
「おはようございます」
「おはようございます」
挨拶を交わしながら、少しずつ人が集まってくる。
愛子は並んだバイクを眺めた。
大型バイクもあれば、愛子のSRV250のようなバイクもある。
少し離れたところには、明雄の白いセローが停まっていた。
明雄も何人かの参加者と挨拶を交わしている。
愛子がその姿を眺めていると、明雄と目が合った。
二人は小さく笑った。
やがて全員が集まり、今日のルートについて簡単な説明が始まった。
「それじゃあ、出発しましょう」
エンジンが次々にかかる。
駐車場に響いていた話し声が、バイクの音に変わっていった。
***
何台ものバイクが連なって走る。
前にもバイク。
後ろにもバイク。
一人で走っているときとは、少し違う。
ミラーを見ると、後ろから何台ものバイクがついてくる。
愛子は何となく楽しくなった。
信号で止まる。
先頭のバイクが動き出す。
少し遅れて自分も続く。
その後ろから、またバイクが続いていく。
一台ずつではなく、みんなでひとつの流れになって走っている。
そんな感じがした。
***
最初の休憩場所は、山の中の小さな駐車場だった。
エンジンを切ると、さっきまでの音が静かになる。
ヘルメットを脱いだ人たちが、それぞれ飲み物を買ったり、バイクを眺めたりしている。
愛子のところにも、別の地区の職員が話しかけてきた。
「SRV250ですよね?」
「はい」
「懐かしいなあ。昔、同じのに乗ってました」
「本当ですか?」
そこから自然にバイクの話が始まった。
どこを走るのが好きか。
今まで乗ってきたバイク。
ツーリングで行った場所。
愛子は知らない話を聞くたびに、楽しそうに相槌を打った。
少し離れたところでは、明雄も別の参加者と話をしている。
バイクのそばに立って、何か話していた。
愛子は一度そちらを見たが、すぐに目の前の会話に戻った。
「今度、そこ行ってみたいです」
「じゃあ、いい道を教えますよ」
「お願いします」
愛子は笑った。
***
昼。
山あいの食堂に、参加者全員で入った。
いくつかのテーブルに分かれて座る。
料理が運ばれてくる。
「いただきます」
あちこちから声が上がった。
愛子は隣の人と話しながら昼食を食べた。
バイクの話だけではない。
仕事の話。
休日の過ごし方。
最近行った場所。
普段は別々の施設で働いている人たちだから、知らない話も多かった。
「同じ会社でも、全然違うんですね」
愛子が言うと、
「そうなんですよ」
と笑い声が返ってきた。
食事が終わる頃には、最初よりずっと自然に話せるようになっていた。
店の外へ出る。
並んだバイクを見ながら、愛子は少しだけ立ち止まった。
「こんなにバイクが並ぶと、すごいですね」
「そうですね」
明雄が隣に立っていた。
愛子は一台ずつ眺める。
同じ会社の人たち。
でも、普段働いている場所も違う。
乗っているバイクも違う。
それでも今日は、同じ道を走って、同じ店で昼食を食べている。
「面白いですね」
「何がですか?」
「普段は会わない人たちなのに、バイクに乗ると一緒に走れるんだなって」
明雄は並んだバイクを眺めた。
「そうですね」
***
午後。
再びバイクにまたがる。
山道を抜け、広い道路へ出る。
朝よりも少し慣れてきた。
前を走るバイクとの距離を保つ。
カーブでは速度を落とす。
ミラーを見る。
後ろにもちゃんとバイクがいる。
一人で走るときとは違う。
自分だけのペースでは走れない。
けれど、それが不自由だとは思わなかった。
みんなで走るためのペースがある。
みんなで走るための走り方がある。
その中にいることが、今日は楽しかった。
***
夕方。
集合場所へ戻ってきた。
一台ずつバイクが停まり、エンジンが切られていく。
「今日はありがとうございました」
「お疲れさまでした」
「また次回お願いします」
あちこちでそんな声が聞こえる。
愛子もヘルメットを脱いだ。
朝よりも、少しだけ周りの人たちと話しやすくなっている気がした。
白いセローのそばで、明雄がほかの参加者と話している。
愛子はその姿を一枚、スマートフォンに収めた。
それから明雄に声をかけた。
「高瀬さん」
「はい?」
「今日は楽しかったですね」
「そうですね」
「一人で走るのも楽しいですけど、みんなで走るのもいいですね」
「そうですね。違った楽しさがありますから」
愛子は今日一日のことを思い出した。
「また参加したいです」
「うん」
「次もまた一緒に参加しましょう」
「いいですね」
やがて二人は、それぞれのバイクにまたがった。
赤いSRV250と白いセローが、別々の道へ走り出す。
夕方の道に、二台のエンジン音が少しずつ遠ざかっていった。




