↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/20

『手入れ』

休日の朝。


高瀬明雄は、いつもより少し遅く起きた。


窓を開けると、静かな風が部屋に入ってきた。


明雄はコーヒーを淹れ、テーブルにカップを置いた。


その隣には、黒いオリンパスペンEFとスーパーワイドビノ36が並んでいた。


明雄はペンEFを手に取った。


柔らかな布で、ゆっくりと表面を拭いていく。


レンズを拭き、本体についた小さな埃を取り除く。


明雄はカメラをテーブルに置いた。


そして、机の脇に置いてあった写真を手に取った。


ビーナスラインで撮った写真だった。


高原の道。


遠くまで続く空。


明雄は、しばらく写真を眺めていた。


白いセローで走った道。


カーブを曲がるたびに変わっていった景色。


高原を渡っていた風。


緑の高原を、赤いSRV250が軽やかに走り抜けていく。


その姿を追うように、明雄の記憶の中にあの日の風景が広がっていった。


***


コーヒーを一口飲む。


それから、スーパーワイドビノ36を手に取った。


黒い本体を布で拭き、レンズを丁寧に磨いていく。


あの日、ワイドビノの向こうに見えた富士山。


肉眼では小さく見えていた山が、双眼鏡を覗くと少し近く感じられた。


山の形がはっきりと見えた。


その横で、愛子が富士山を眺めていた。


風に髪を揺らしながら、静かに遠くを見つめていた横顔。


明雄は手を止めた。


しばらく何もせず、ワイドビノを眺める。


そして、またゆっくりと布を動かした。


手入れを終えたワイドビノを、ペンEFの隣に置く。


二つの道具が、静かに並んでいる。


窓から入ってきた風が、カーテンをわずかに揺らしていた。


その風には、ほんの少しだけ、秋の気配が混じっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。