『ランチ』
休日の昼前。
神谷愛子は、赤いSRV250のエンジンをかけた。
今日はひとりだった。
ヘルメットを被り、静かな街を抜けていく。
しばらく走ると、潮の香りがしてきた。
海沿いの道に出る。
左手に広がる海を眺めながら、愛子はゆっくりとバイクを走らせた。
やがて、海の近くにある小さなカフェを見つけた。
SRV250を駐車場に停め、店に入る。
窓際の席に案内される。
そこから海が見えた。
愛子はランチを注文した。
しばらくすると、料理が運ばれてきた。
彩りのいい料理を見て、愛子はスマートフォンを取り出す。
料理と海が一緒に入るように、少し角度を変える。
一枚撮る。
画面を確認して、もう一枚。
愛子は満足そうにスマートフォンをテーブルへ置いた。
それから、ゆっくりとランチを味わった。
食事を終え、会計を済ませる。
店を出る。
海辺へ向かって歩いていく。
風が心地よかった。
波が寄せては返している。
愛子は足を止め、スマートフォンを取り出した。
海と空がきれいに入る場所を探す。
一枚。
少し場所を変えて、もう一枚。
今度は、波打ち際と遠くの船を入れて撮る。
愛子は撮った写真を画面に並べて眺めた。
ランチの写真と海の写真。
その中から何枚かを選ぶ。
短い言葉を添えて、SNSに投稿した。
スマートフォンをしまう。
けれど、愛子はすぐには戻らなかった。
近くのベンチに腰を下ろす。
目の前には、先ほど写真に撮った海が広がっている。
風が髪を揺らす。
波の音が静かに聞こえている。
愛子は何もせず、しばらく海を眺めていた。
やがて立ち上がる。
もう一度だけ海を見る。
そして、SRV250を停めた場所へ向かって歩いていった。
ヘルメットを被り、エンジンをかける。
海沿いの道を、ゆっくりと走り出した。
午後の光の中へ、赤いSRV250が遠ざかっていった。




