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救世戦葬 - 救いの少年少女の物語 -  作者: 珠日乃 らいす゛
第一章 :選ばれた者、選ばれなかった者

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第8話 :トランセンダー

銀色の髪に深紅の瞳。そして黒を基調とした服。

ラディアは両手を拘束され、二人の兵士に見張られている状態でも、正面に座るフローリアに不敵な笑みを浮かべている。

「…ラディアさん、ここがどういう場面なのか、理解していますか?」

「えぇ、もちろん。これから私は処刑される。そして今は最期の懺悔の時間。」

「……でしたら、なにか後悔……やり残したことはありますか?」

「やり残したこと、ね。それより、フローリア・フロストブルーム、私は君に一つ聞きに来た。」

「私に…ですか?」

「君はこの国を変えたがってる。そうだろう?」

「!!」

フローリアは、当然まだアイ以外にそんな話をしてはいない。

もし誰かがあの話を聞いていたのだとしたら、今もラディアの後ろに控えている衛兵の彼ぐらいしかありえないだろう。

しかし例え彼が聞いていたとしても、罪人にそんな情報を流す人でないことは知っているし、そもそもそんな暇はなかったはずだ。

「その反応だと、肯定してるのと同じだ。隠し事が下手だね。」

もう一人の兵士は少し焦った様子だったが、アイと付き合いの長いあの兵士は、表情を変えず、真面目にラディアを見張っていた。

「私は、この国をもっとよくしたいんです。」

「なら、いい国とはなんだ?」

「それは……皆が笑って暮らせる、平和な国……。」

そういいながらフローリアは、アイから聞いたネージュのことを思い出していた。

「あぁ、今考えている人物は例外。」

「えっ?」

「彼がこの国に居たのは10年前だろう?今のこの国の話をするなら、気にしなくていい。」

まだネージュについて知っているのは、実際にその場にいた人を除けばフローリアと大主教、そして一部のLALLメンバーだけのはずだ。まさかこの人は、LALLの人なのか?

「…どうして、分かったんですか?」

「それは言えないな。とにかく、今のこの国を君の言うように誰もが笑って暮らせる平和な国にするなら、苦しみや悲しみを背負った人を助けてやればいい。」

「苦しみや悲しみを背負った人……。」

「あぁ、そうだった。君こそ、この国で最も重いものを背負わされた人物だった。」

「え…?」

「お前、それぐらいに……。」

ラディアの勝手な発言に、兵士の1人が口をはさむ。

「そいつを抑えておけ。」

「あぁ。」

「なっ…!?」

ラディアに手を伸ばした兵士を、もう一人の兵士がオリジンを使って眠らせた。

「ナイラ!?何を…!?……どうして…か、身体が………。」

フローリアが慌てて兵士の名前を呼び、立ち上がろうとするも、身体は言うことを聞かず立ち上がることが出来なかった。おそらく、ラディアのオリジンだろう。

「安心していい、この兵士は眠っただけ。これからする話には関係ないからね。君の身体の自由を奪ったのも、一度落ち着いてもらうためだ。ほら、もう動けるだろう?」

ラディアの言う通り、フローリアはもう自由に身体を動かせるようになっていた。

「どうして、ナイラがあなたの言うことを聞くのですか…?」

「なるほど、本当に私が何者か知らなかったのか。」

「………あなたは……一体何者なんですか…?」

「私の名前はラディア・アルデウス。発現者の願いを叶えるための組織、リベリオンデザイアのリーダーをしている。」

「…つまり、ナイラもその組織に……?」

「そうです、フローリア様。」

否定して欲しい、と思いつつ、兵士……ナイラがそうしないであろうことは分かっていた。

ナイラがこのラディアという人の仲間なのであれば、状況は人数不利。

ラディアはフローリアが強いオリジンを持ちながら、戦いを好まないことなどもう知っているだろう。

そして逆に、フローリアはラディアの能力のことはほとんど知らない。

ただ、先ほど動きを止められたことを考えると、少なくとも簡単に勝てるとは思えない。

今は大人しく従うべきなのだろう。

「さて、本題に入ろう。」

そう言って机の上にあげられたラディアの腕には、かかっているはずの手枷がなかった。

「君は多くのものを背負いながら、それでもこの国の民のために動こうとしている。だから、私から提案がある。」

「提案……ですか。」

「この国を変えるのは簡単だ。君が今の大主教に取って代わればいい。」

「私が……?」

「あぁ。もし今大主教が突然死するようなことがあれば、君はこの国の新たなリーダーの候補として名前が挙がる。君が本気でこの国を変えたければ、無理にでもその地位を奪い取り、人々に道を示してやればいい。」

「…それは……例えその通りだとしても、私では大主教様には敵いません……。」

「それこそ心配する必要はない。選ばれているのはあの男ではなく、君なのだから。」

「…それは、どういう……?」

「トランセンダーに選ばれている人のことだ。その時になれば分かる。」

ラディアは、それ以上説明するつもりはないらしい。

フローリアが困惑していると、大聖堂の鐘が鳴り響いた。

「おっと、もうこんな時間か。今から私を処刑するわけにはいかないなぁ。明日でいいだろう?」

ラディアがわざとらしくそういいながら振り返ると、ナイラは軽くため息をついた。

「地下牢につれていく。ふりでもいいから手枷をかけなおせ。」

「あぁ、分かってる。それじゃあ、フローリア・フロストブルーム?また明日。」

「………。」

「フローリア様、ククルが目を覚ましたら全部話しても構いません。あと10分ほどで目を覚ますはずですから。」

「…わ、分かった……。」

ナイラがラディアを連れて部屋を出るのを見送ってから、もう一人の兵士……ククルが目を覚ますのを待ちながら、フローリアは考えた。

「………。」

結局、あのラディアという存在は、フローリアにこの国を変えさせたかった、ということなのだろう。

だが、このままだと明日にはラディアは処刑される。もちろん、今夜のうちにナイラの手引きで脱獄する可能性はあるが、10分で目覚めるククルに全部話してもいい、といったのはどういうことなのだろう。

真面目なククルのことだ、すぐに大主教様や衛兵長に報告するだろう。そうなれば少なくともナイラが簡単に脱獄を手伝える状況ではなくなるはずだ。

後は………。

「…トランセンダー………。」

改めて考えるも、やはり知らない言葉だ。

人の名前か、あるいは組織の名前なのか。

フローリアが選ばれたと言っていたが、それなら何がどうなるのだろうか。

しかしもちろん、いくら思考を巡らせても答えにはたどり着かなかった。

だいたい10分が経過し、目を覚ましたククルに何があったのかを伝えると、彼は予想通り衛兵長に報告に向かった。

念のためフローリアは地下牢に向かい、この10分でもうラディアが脱獄していないか確かめたが、ラディアは相変わらずの余裕の笑みを浮かべ牢屋の中に座っていた。ただやはりこれ以上何かを話すつもりはないようだった。






空が暗くなった頃、フローリアはどこか嫌な空気を感じていた。

これから何かが起こる、そんな気配を。

「………このにおいは……まさか、火事…?」

どこからか焦げたようなにおいがする。フローリアが慌てて部屋を出ると、少し遠くに煙が上がっている場所が見えた。

「!!」

フローリアなら水を出すオリジンも持っている。いち早く気づいたのが自分で良かった。

急いでその部屋の扉を開けると、思ったより火の手が回っていたが、幸いにもまだこの部屋以外には燃え広がってはいないようだった。

フローリアがオリジンで消化活動を終えた頃、大主教がやってきた。

「フローリア!何があった!?」

「火事です。消火活動は終わりました、もう大丈夫です。」

「そうか、良かった…。」

大主教は口ではそういいながらも、部屋の中に入り、あるものが無事かどうかを念入りに確認していた。

「………。」

この部屋は大主教専用の物置だった。

大事なものが無事であるかを確かめることは不思議ではないが、大主教が一番気にかけていたのは、弓だった。

「大主教様、その弓は…?」

「これは、少々特別な弓だ。」

しかし大主教は、その弓が問題なさそうだということを目視で確認するだけで、手に取ることはなかった。

「大主教様…?」

「……いや、なんでもない。ただ、私は選ばれてはいないから、必要以上にこの弓を触るのは危険なのだ。」

「………選ばれて……ない…?」

大主教は選ばれていない。その言葉は、今日聞いたばかりだ。

「それって、何に選ばれてないんですか…?」

「……この弓に、だ。」

「…弓に……?」

この弓が、トランセンダー?

ラディアの言葉を信用するなら、フローリアは選ばれているらしい。

なら、フローリアは触っても問題ないのか?

「大主教様。」

「なんだ?」

「その弓、私が触ってもいいですか?」

「!!」

そう聞いた瞬間、大主教は顔色を変えた。

「ダメだ。絶対にダメだ。」

「!」

「まさか、この弓について何か聞いたのか?誰に聞いた?…あのLALLの少女か?」

そう言いながら、大主教は弓を手に取る。さっき触らない方がいいと言っていたのに。

LALLの少女とは、アイのことだろう。このままだと、アイが危ないかもしれない。

「大主教様、違います!私は少し気になっただけで、その弓についてなにか知ってるわけではありません!」

フローリアは扉を閉めて、大主教と扉の間に立った。

「いや、きっとそうなのだろう。この弓は、私のものだ。誰にも譲らん!」

「!?」

フローリアの知る大主教なら、いつもフローリアのことを気にかけていて、フローリアの言葉を疑うことなどなかった。

それが今は、大主教が部屋を出ないよう立ちふさがるフローリアに、弓を引いていた。

「大主教様……どうして………。」

「そこをどきなさい。」

フローリアがここを通せば、大主教はアイに危害を加えようとするだろう。

きっとアイも戦う力を持っているだろうし、LALLには戦闘員がたくさんいるはずだ。

もし本当に大主教がアイを狙っても、きっと大丈夫だと頭の中ではわかっている。

だがアイスポートとLALLの関係が悪化するのは目に見えている。それはフローリアにとって望ましい結果ではない。

「どきなさい、フローリア。」

なにより、フローリアにとって数少ない友人であるアイに危害を加えようとしているのなら、例えそれが大主教であっても見て見ぬふりは出来ない。

「………お断りします、大主教様。」

「………ならば、力づくで通らせてもらう。」

「!!」

大主教は一切の躊躇なく弓を射ると、矢はまっすぐフローリアに向かって飛び、フローリアの目の前で突然現れた壁に阻まれた。

フローリアのオリジンを知っている大主教は、もちろん驚きはしない。

すぐに連続して弓を射るも、やはりフローリアには届かない。

大主教にとってのフローリアがそうであるように、フローリアにとっても大主教は唯一の家族だ。

フローリアだって大主教を怪我させたくはない。

その思いでフローリアは大主教を攻撃することはなかった。

気付けば、矢はフローリアの周りに10本ほど転がっていた。

「すまないフローリア。」

「?」

大主教がまた一発矢を放つ。

その矢はフローリアにはあたらず、後ろの地面に刺さった。

そして次の瞬間、散らばっていた矢全てから電撃が走り、フローリアを襲った。

「うわああああっ!!??」

フローリアは数秒もだえ苦しんだ後、その場に倒れた。

まさか本当に大主教が自分を攻撃すると、フローリアは思っていなかった。

フローリアが攻撃を防げると知っているから矢を放っているのだと高をくくっていた。

「大主教…様……。」

フローリアは無理して立ち上がり、再び立ちふさがる。

「……前からずっと気になっていました…。…どうして、私が嫌と言っても私にこの強奪のオリジンを使わせたがるのか……。…でも、やっと少し分かりました。大主教様は………私の知ってる大主教様は、大主教様のほんの一部なのだと。」

大主教は何も言わず、次の矢を放とうとしている。今度は雷のオリジンを出し惜しみなく矢に乗せている。

「答えてください、大主教様。大主教様が私にいろんなオリジンを吸収させて強くしようとしていたのは、唯一の家族である私を心配したのではなく、ただ国の力の一つとして強くしたかっただけなのですか?」

大主教は弓を限界まで引いている。

「大主教様…。」

「………そうだ。」

「!!」

大主教は全力で一矢を放ち、雷をまとったそれはフローリアが出した壁を3枚貫通して、フローリアの腹部と扉を貫いた。






少し前、アイはシーパストがこれまでになく震えているのを感じ、急いで大聖堂に向かっていた。

どうして大聖堂だと思ったのかは分からない。だが、この予感はきっとあっているのだという確信があった。

「!!」

大聖堂についてすぐ、どこかから焦げ臭いにおいがしていることに気が付いた。

本当は立ち入り禁止だということは分かっているが、それどころではないと、アイは無視して奥に進む。

少し走り回って、突き当りの扉の向こうから誰かが戦っている音がしていることに気が付いた。

アイがその扉に近づこうとすると、直前である人に阻まれた。

「………ラディア…。」

「久しぶりだね、アイ。」

アイは一切躊躇なく剣を抜く。まだトラウマを完全に克服出来たとは言えないが、ラディアを相手に少しでも手を抜けば、勝ち目はないだろう。

「その剣……やっぱりアイも持ってたのか。」

「……アイ……"も"…?」

まさか、とアイが目を見開いた瞬間、ラディアは横に手を伸ばす。

すぐにどこからか剣が飛んできて、ラディアの手に収まった。

アイの持つ剣と少しだけデザインが異なるが、よく似ている。

「そう、私も持ってるんだ。意志を持って主を選ぶ、オリジンを増幅させる力を持つ武器、トランセンダーをね。」

「………トランセンダー…。」

「アイ、久しぶりの再会は嬉しいけど、今日の目的は君たちにとっても悪いものではないはずだ。邪魔しないでくれるとありがたい。」

「お断りします。」

ラディアはブレイズスカーとは異なり、常にLALLと相対する目的で行動しているわけではないことは分かっている。

しかしそれでも、いつどこで、何を仕掛けてくるのか分からないのがラディアという存在だ。

「せめて話くらいは聞いてくれてもいいんじゃないか?この奥には、もう一本トランセンダーがある。」

「!!」

「それは弓の形をしていて、今は正しい主の手元にない。もうすぐ選ばれた主…フローリア・フロストブルームの手に渡る。」

「フローリアさん…!?」

つまり、この扉の向こうで戦っているのは、フローリアなのだろう。

相手が誰かは分からないが、この増幅の力を持った武器を使っているということは予想できる。

「心配することはない。一般人がトランセンダーを持ったところで、あれだけ多くの力を持った発現者には勝てない。むしろ、彼女が誤って今トランセンダーを使っている家族を、殺めてしまうことを心配した方がいい。」

「家族…?それって……。」

フローリアにとっての唯一の家族。それは大主教だったはずだ。

「そう、優しい人にとって他人を殺すという経験はしばらく響くはずだからね。そうだろう?アイ。」

「………。」

「家族を失う、というのも忘れ難い経験だ。おっと、これも君にも理解出来ることだな?」

「ラディア…。」

「まぁ落ち着け。とにかく、君は何もしなくていい。私の今回の目的はフローリア・フロストブルームにトランセンダーを渡すことだ。私の作戦は絶対に成功する。知っているだろう?」

もちろん、知っている。

ラディアがLALLに居た頃、その完璧な作戦には何度も助けられた。

しかし同時に、ラディアの作戦は望む結果への完璧で最短の作戦であり、その方法は過激なものであることも多かった。

今回も、おそらく弓の置いてあった部屋で火事を起こし、フローリアと大主教を呼び寄せたのだろう。

他の衛兵や聖職者が見当たらないことについては、考えたくもない。

アイが考え込んでいると、ラディアの背後の扉を貫通して、一本の帯電した矢が飛んできた。

それはラディアの横を通過し、アイの目の前で止まった。

「油断大敵だ、アイ。」

矢の動きを止めたのはラディアだ。アイが横に避けると、矢は再び動き出し、遠くの壁に刺さって止まった。

ラディアは余裕といった態度でアイに背中を見せ、扉を開ける。

「終わったようだな。」

「!!……ラディアさん…。」

「さすがの私も今のは死んだかと思ったよ。透過、あるいは幽霊化……そんなところか。」

フローリアはラディアを警戒して見ていたが、その後ろにアイが居ることに気が付くと、少し安堵したようだった。

「それで、その男は?死んだのか?」

「……いえ、私にそんなことは出来ません。」

「だろうね。まぁ私にとってはどっちだっていい。さて、もう一つ教えておこう。トランセンダーは選ばれた者以外が使うと、大きな拒絶反応が起きる。その弓の場合、使用者の感情を極端に増幅させる。君を強くするために処刑を繰り返したのも、弓を奪われるかもと思って君にさえ攻撃したのも、その拒絶反応によるもの。」

「!!」

慌ててフローリアは弓を地面に置いた。

「ちゃんと聞いてなかったのか?選ばれた者以外が使うと、だ。君は、こちら側。」

フローリアはやっとアイもラディアも弓と似た意匠の剣を握っていることに気が付いた。

「この国のことはどうだっていい、好きにしろ。ただ、その弓を決して手放すな。そうすれば、いつか君にとって、私にとって、それとアイにとっても、良い結末につながる。」

そう言いながら、ラディアは振り返り、アイの横で立ち止まる。

「アイ、君ももっと剣を使いこなせ。」

ラディアは小声でそう伝え、去っていった。

「アイさん……。」

「…おそらく大丈夫です。ラディアももう今回の目的は達成したみたいですから。」

使いこなせ、というのは、ただ単に剣に慣れろ、という意味ではないのだろう。

アイの知る限り、ラディアの能力は万物を操る能力であり、扉の向こうの出来事を見透かすことなど出来ないはずだ。

トランセンダーとは、一体なんなのか。この剣に何が出来るのか。

しかしやはり、今はいくら考えても結論は出なかった。

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