↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リュウノスケの冒険 その後の長靴をはいた猫  作者: ぽち丸


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/4

海とリュウノスケ、運命の出会い②

「こちらが最後のひと箱でございます」

お母さんがぎょうぎょうしくぼくの前に段ボール箱を押しだした。箱には「ウミ」となぐり書きしてある。ガムテープをはがすと、図鑑がぎっちりつまっていた。


ぼくはかがんで段ボール箱に両手をつくと自分の部屋の本棚の前まで押して行った。本棚のいちばん下のスペースは図鑑のためにあけてある。

お父さんは「小学生男子といえばゲームだよな」とゲームを買ってくれたけど、ぼくはゲームより図鑑の方がずっとおもしろいと思う。とくに動物と植物の図鑑が気に入ってる。ゲームは学習机の引き出しに入れっぱなしで、お父さんがいるときだけちょっと遊ぶようにしている。


図鑑を丁寧にならべて満足したぼくは、ベッドにごろんと横になった。

レースのカーテンのついた窓に目をむけると、濃い緑や薄い緑の木々の葉が、青空を切り取っている。緑道を歩く人々の話声と鳥たちのピチピチ鳴く声が響いて――四六時中トラックの音が響いていた社宅の生活とくらべるとまるで別世界だ。


目をつむり心地よいつかれを感じてぼんやりしていると、今まで考えないようにしていたことが、ふと頭に浮かだ。いけない、いけない。あわてて打ち消そうとしたら、あっというまに夏の雲みたいにむくむくふくれあがった。ぼくはぶ厚い雲にのみこまれて急に息苦しくなった。考えないようにしていたこと、それは新学期のこと。


どうしてクラスに慣れたころにクラス替えがあるんだろう?

ぼくは超のつく人見知りで、一学期でクラスメイトの顔と名前を覚えて、二学期でやっと気の合う友だちを見つけて、三学期でようやくクラスの雰囲気になじんだと実感する。それなのにあっというまにまたクラス替えだ。春休みは本当にゆううつだ。


新学期のことを考えて居ても立ってもいられなくなったぼくは、ベッドからはね起きてお母さんに「散歩に行ってくる」と言って玄関をとびだした。


マンションのエントランスを出ると空はすでに暮れかけていた。オレンジ色に染まった道には、木々の枝が濃い影を長々とのばしている。ぼくはひとけのない緑道をとりあえず前へ前へと歩いた。


歩きながら4年のクラスで仲良くなった村田のことを思いだした。席が近くてポツポツ話しているうちに図鑑が好きという共通点で仲良くなった。マイペースだけどすごくいいヤツ。新しいぼくの部屋を見せたいけど、春休みは毎日塾通いだって言ってたっけ。


クラスにひとりでも気の合うヤツがいると息がしやすくなる。そうじゃないと自分だけ水の中にいて、新学期のはじまりはいつも、ぼくだけが教室で苦しそうにもがいている。

そんな自分をうっかり想像してしまって、足もとがゾワゾワしてきた。


いやな想像をふっきるために全力でダッシュした。そしたらすぐに横っ腹が痛くなった。ゼエゼエ。ほんと、カッコ悪い。


「……転校生向きじゃないよなあ」


ぼくはかがんでひざに手をのせて息をととのえた。さっきまで深刻に悩んでいたのが、なんだかバカみたいに思えてきた。「そろそろ帰ろ」ぼくは反対方向にむかって歩きはじめた。


「テンコウセイってなんだ?」


どこからか声がした。ふりかえってもだれもいなかった。LEDライトが遠くで光っていた。低い位置だから散歩中の犬なんだろうか。ぼんやり考えていると、


「なあ、テンコウセイって、おまえの名前?」


子どもみたいな声が今度は下の方からきこえて、ぼくはびくっとした。植えこみの中に誰かいる? こんな時間に? 子どもがひとりで?


いつのまにか犬の散歩中の人もいなくなり、木々の葉のすれあう音もしなくなっていた。家にむかって駆け出したいけれど、スニーカーの底が地面にくっついたみたいで一歩も動かせなかった。


ふいに植えこみから何かがころがりでてきた。悲鳴をあげなかったぼくはえらいと思う。


足もとに灰色の毛玉がころがっていた。毛玉の正体は猫だった。野良にしてはめずらしい灰色一色。エメラルドみたいな目が外灯のあかりを受けてキラキラかがやいている。


「なあ、テンコウセイっておまえの名前?」


ぼくの頭がおかしくなったのかな? 猫がしゃべってる。


「オレ、おまえのこと毎日見てた。友だちになりたいと思ってたんだ」灰色の猫はぼくを見上げていった。


これがぼくとリュウノスケの運命の出会いだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。