海とリュウノスケ、運命の出会い①
4年生の終業式の翌日、ぼくの家族はお父さんの会社の社宅から中古のマンションに引っ越した。
「転校生」という言葉の響きに憧れていたけど、学区内の引っ越しだったので転校生にはなれなかった。残念。というのはウソで、ほんとは転校しなくてすんでホッとしてる。なにしろぼくは超のつく人見知りなんだ。
引っ越しの日、なんとか休みをもぎとったお父さんは、はりきって段ボール箱をはこんでいた。「おれも一国一城の主~♪」とうれしそうに歌いながら。
中古マンションでもお父さんにとっては城なんだなあと、ぼくはそれを見て思った。
こんなふうに言うと馬鹿にしてるみたいだけど、そんなつもりはまったくなくて、ぼくも自分の部屋ができてうれしい――でも「城」ではないよなあ。
それでもいつか、自分の稼ぎでマンションを買ったら、城を手に入れたような気持ちになるのかも、とお父さんを見ていて思った。
お父さんは平日は夜遅くまで仕事、休みの日は接待ゴルフだなんだで、ふだんはほとんど家にいない。だから荷ほどきはぼくとお母さんでやることになりそうだ。という予想はみごとにあたって、引っ越しの翌日から、朝起きてから夜眠るまでのほとんどの時間を段ボール箱と格闘することになった。春休みだっていうのに。
そんなぼくの唯一といえる息抜きは、マンションの近くの緑道を散歩すること。
背の高い木々にはさまれた緑道は、電車の駅3駅分の長さがあって、はしからはしまで歩くとゆうに一時間はかかる。
緑道沿いには、畑、雑木林、畑、竹林、畑、公園、畑……がつづいている。倉庫や工場にかこまれた社宅に住んでいたころにくらべると、別世界にきたみたいだ。同じ学区内でこんなにも景色がちがうことにぼくは驚いていた。
はじめはガーデニングをしたいというお母さんの希望で一戸建てを探していたけど、お父さんがこのマンションと見つけてきた。「手入れのいらない庭があるぞ」とかなんとか言って。
憧れのガーデニング!なんて言ってるけど、お母さんのことだから道具をそろえたとたん飽きそうだよね、というのがぼくとお父さんの共通の意見。案の定、緑に囲まれたマンションを見て、お母さんはひと目で気にいった。
もちろんぼくも最高に気に入ってる。自分の部屋の窓から、森みたいな景色が見えるなんて最高だ。




