来夢ちゃん?
「次はこれからの活動内容を決めるぞ。何かいい案持ってる人いるか?」
天瀬さんと来夢が『んーーんーー』悩んでる中、神崎だけがニヤニヤ不敵に笑っている。
「私がなんのために居ると思ってるのよ。どんな活動をすればいいか何てもう占っているわよ」
ここで1拍置いて
「ズバリ、ステージで歌うわよ!!」
何言ってんだこいつ。知名度もない来夢がステージに上がれる訳ないだろ。
そもそも曲もない、振り付けもない、受け入れてくれるステージもない。
ステージに上がるためにどうするかを話し合ってるんだよ。
天瀬さんは呆れて、来夢はうるうるした目で神崎を見つめている。
そんな思考を読んでか神崎は何処かに電話をかけた。
「あ、もしもし、佐藤さんかしら? いえいえ、それは佐藤さんの実力ですよ。はい。はい。それはそうと少しお願いがありまして、今週末に1人ステージに入れて貰えないかしら? はい。ありがとうございます。それでは今週末よろしくお願いします」
3人が神崎を見つめたまま周囲に沈黙が訪れた。
「な……なによ……今週末のステージが決まったから準備しましょ」
おいおい、今週末がステージってことは、今週末がステージって事だろ? いくら何でも早すぎる。曲は? 振り付けは? 来夢を見ると脇をパタパタしている。お前は鳥か!! てか神崎のやつ曲とか振り付けの事も考えてるのか?
同じ事を思ったのか、天瀬さんが神崎に質問した。
「神崎さん、そんな所にコネを持っていた事にも驚きですが、流石に今週末は早すぎじゃないですか? 歌とか振り付けも無いんですよ?」
「ん? 歌と振り付けはもう決まってるでしょ? そうよね? 来夢」
皆の視線が来夢に集まる。
何を驚いているか分からないが両手を口に当てている。所謂私の年収低すぎ!! ポーズである。
「ななな!! あの曲と振り付けはなんて言うか人様に見せれる物とかではなくて、こんな振り付けどうかな? とかニヤニヤするためにやってるだけで……」
後半は声が聞こえないぐらいの声量だったが、続けて神崎が確認した。
「そうだったの? 私は曲と振り付けを持っている事しか見えなかったけど、どんなレベルなのか見ないと分からないわね。ここでちょっとやってみてよ」
まぁ確かに、神崎の言う通り一度見てみないと話にならない。たまにはまともな事も言うじゃん。
天瀬さんも一度見てみたいのか、部屋に置いてあるゴミ? をブルドーザーの様に横に避けていく。
「来夢ちゃん、準備出来ましたよ。ここでお願いします」
「まぁ、そんなに緊張しなくてもいいぞ。ダメそうならダメそうで今週末は止めて練習すればいいだけだし。それよりどれぐらいのレベルなのか知っとかないと今後に関わってくるからな。気楽に」
俺と天瀬さんの言葉に渋々と言った形でちょっと汚いステージ立った。
「わかりました……あの……マイクとかってありますか? ダミーでもいいので……」
来夢がそう言いながら自分の髪をアップに纏めている。マイク? まぁ、形式上必要か。手に持ったマイクをどう扱うかも振り付けに関わってくるし。
俺はその辺に転がっていた300曲ぐらい内蔵されていそうなマイクを来夢手渡した。
てか、なんでこんなのあるんや。別にいいけど。
マイクを受け取った来夢はあのオドオドしさは何処へやら、口角を吊り上げ目付きも鋭くなった。
マイクを持った手を天に突き上げ、踵で一定のビートを刻んでいる。
「おおお!! お前らなにしけたツラしてんだ? そんなんで私に着いて来れると思ってんのか!? 早速3速に入れろ! エンストすんじゃねーぞ! レッドゾーンまで回して行くぞー!!」
え? なんか始まったけど、アイドル? だったよな?
待て待て待て、1つづつ考えよう。
まず口角と目付きは良いとしよう。本番になったらスイッチが入り自分のゾーンに入れる事はいい事だ。
次に片手を天に上げ、踵でビートを刻む事だが、片手を天に上げる演出は現役アイドルでも見た事があるから良いとして、問題は踵でビートを刻んでいる事だ。
今売れてるアイドルでも見た事はあるが、それはビートではなく軽くリズムを取ってるだけだと思う。
現に今の来夢のビートは凄まじい。
俺も音楽に詳しくないから何とも言えないが結構早いビートで音もしっかりとしている。下の階の天井から埃が舞うレベルだ。
それで最後に歌う前のマイクパフォーマンスだ。
なんだあれは。性格変わりすぎだろ。
世の中には車に乗ったら性格が変わったり、拳銃を持ったら性格が変わったりする人は多いと聞く。
マイクを持って性格が変わる人は初めてみた。俺が知らないだけで、アイドルの中では結構多いのかな? まぁいいや。
問題は俺が思っているアイドルと来夢が目指そうとしているアイドルに乖離があった事だ。
現に天瀬さんと神崎にも同じ乖離があったのか、神崎は来夢のマイクを、天瀬さんは来夢の口を塞いだ…………えぇーー、手で。
てか神崎。お前占い師ならこの結果占っとけ。
「んっうぅんーんっっーはっ!! ちょっと何するんですか? 今いい所だったじゃないですか」
うん、確かにいい所だった。俺は正直続きが気になるもん。
「来夢、あんたバカなの? あんなにドンドンしたら下の人に迷惑になるじゃない。私が怒られるのよ! 私が」
「だって皆がここで見せろって言ったからじゃないですか」
確かに、怒られるのは神崎だしいいか。
「そうだな。止めて悪かった。神崎、来夢にマイクを」
「はぁ? あんたもバカなの? 今日はもう中止よ。明日スタジオを借りてそこで確認しましょ。今日はもう解散。来夢は明日学校終わったらここに来てね」
こうして週初めから濃い1日が始まった。
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