08:お仕事
まず洗濯から始めることにした。
私は近所にある共同の井戸で洗濯をするため桶に下着やベッドのシーツを数枚だけ入れて、ご近所さんへ声をかけた。
「すみませぇん」
「はいよ……って誰?」
「はい。今度グレン様の工房で家政婦をすることになったレオナです。洗濯で井戸を使いたいんですけど何か決まりってありますか?」
「あぁ。今、ちょうど行くところだから一緒に行こうか」
「はい。ありがとうございます!」
その道すがらで色々と注意事項を聞いていく。
「使える時間帯が決まっているんですね?」
「そうさ。基本的に水汲みは早朝で終わらせる。洗濯は朝、といった具合さね。例外もあるから、その時は我が家に来てくれれば対応するよ」
「ありがとうございます。他に家事で気をつけることってありますか?」
「ゴミの出し方は?」
「あぁ。そう言えば生ゴミはどこへ?」
「グレンさんが知ってそうだけどね?」
「そうですか。今度聞いてみます」
「もし知らないって言ったら、うちの畑の隅に捨ててくれていいよ」
「ありがとうございます」
「いいってことよ」
その後は井戸の周辺で他のおばさま達とお喋りしながら洗濯をする。ゴッシゴッシゴッシとな。でも力が弱いせいだろう。汚れが落ちない。
「ほらもっと腰に力を入れる。ほいほいほいってね」
「はい!」
ごっしごっしごっし。シーツが終わったら下着だ。ゴシゴシゴシ。
「げっ!」
穴が開いちゃった!
「うぅん。そこはもっと、優しくやったほうが良いんだよ。次からは気をつけな」
「はい!」
「うん。いい返事だ」
後で縫わなきゃ。
「ふぅ……仕事が増えちゃった」
「それはそうと、グレン様の工房はどんな感じだい?」
「それはもう酷い有様です」
内部の様子を話したらアドバイスが貰えた。
「そうかい。なら一つの作業を一回で完璧に終わらせるんじゃなくて、全体を少しずつ日を分けてやった方がいいよ」
「そうなんですね。分かりました。ありがとうございます」
「いいってことよ。何かあったら家に来な」
優しさと頼もしさが身に染みる。
それにしても大変だ。現在の季節は夏になろうかという時期のことだからまだいいけど、これ、夏場と冬場は死ぬんじゃなかろうか?
まぁ洗濯は水を使っているのでまだマシではあるのだけれどさ。
おばさま達からは色んな情報が手に入ったが、同時にグレンさんに興味があるから情報があったら何か話しとくれとも言われた。グレン様って何気にモテるようだ。
「私も今日からなので、まだよく分からなくて」
「そうかい。まぁそうだねぇ。気長にね」
すると別のおばさまが話を振ってきた。
「それはそうと、無愛想な弟子の方とはどんな感じだい? 上手くやれそうかい?」
「どうでしょうね。さっそく喧嘩しちゃいましたし」
「いいね。カマしてやったのかい?」
「いちおう。ですが私も少し噛みつかれて一勝一敗の引き分けです」
「あっはっは。そうかい。まぁ喋らせたのならその時点で勝ちさね。ああいった手合は、とにかくめげずにマイペースで話しかけるといいよ。後は好きなことの話とかしてもいい」
「へぇ! 今度、錬金術の話を振ってみますね」
「うん。いいね。負けるなよ?」
「はい!」
洗濯が終わったら、工房の庭に干していく。
「ふぃ~」
この時点でまだ朝と昼の間ぐらい。空には青空が広がっている。この天気なら夜までには乾くはずだとおばさま達が言っていた。
「さて。昼ご飯の準備をしなきゃ」
って思ったけど、まずはシンクに溜まった皿やコップを洗わないといけない。でもそんなことをしていたら料理が間に合わない。
「しょうがない。何処かの屋台で買いに行くか!」
そう思ってご近所さんに近場で何かないかと聞いたら、おばさまが豪快に笑いながら「それなら家のお昼を少し持っていきなよ」と言ってくれた。
「え、でも……」
遠慮しようかと思ったら、おばさま。
「今度何か手に入ったら返してくれたら良いさ」
「ありがとうございます!」
というわけで、器までおばさまに借りて料理を運ぶ。その時におばさまのお子さんである兄弟が手伝いに駆り出されたのでシリルについて話したら色々と出てきた。
「アイツ話しかけてもブスッとして何にも言ってこねぇんだぜ」
「そうそう。少しぐらい笑えっての」
「いや、そもそも喋れっての」
あはは。みんな思うことは一緒だ。
「シリル君に注意しておくね」
私がそう伝えると。真ん中の子が首を左右に振った。
「いいよ。無駄だから」
一番下の子も言った。
「そうそう。俺達、もう諦めたし」
一番上の子が「でも錬金術師の弟子かぁ。良いよなぁ」と呟いた。
「なぁ。研究で一発当てたら大金持ちだぜ」
「そうなったらシリルの奴も成功者かぁ。いいなぁ」
「なぁ」
研究で一発当てたらかぁ。たしかに地位も名誉も手に入る職業だ。羨ましいね。
その後はお昼……の前に食卓を簡単にだけど片付けて、それからグレン様とシリル君を食卓へ呼ぶことにした。
「お昼ですよ」
するとグレン様が軽く反応。
「……あぁ」
シリル君は無反応。
「……」
まぁなんかそんな気はしてた。
「食べたくなったら呼んでくださいね。温め直しますから」
「……あぁ」
「……」
しょうがないので独りで私の分だけ食べる。
午後は水回りの掃除をとにかく簡単に済ませて、次に庭の掃除も軽くした。おばさまたちのアドバイス通りにね。
こうして私の初日は終わるかに思えた……が。夕方になって帰ろうかと思った頃。食卓で冷めたままのオートミール粥をズルズルと食べている現場を目撃。それも師弟そろってだ。
「あぁ! 温め直すって言ったのに!」
するとグレン様。
「あぁ。忙しそうだったから……」
シリルくんは無言だ。
「まったくもう! 今度からは呼んでくださいね! 最優先で温め直しますから!」
強く言ったらグレン様が申し訳なさそうに頷いたので、シリル君にも視線を向けて「いいですね?」と念を押す。するとコクリと小さく頷いたのだった。




