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声フェチ令嬢と魔石の声  作者: 月城キナ


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07:ケンカ

 朝。領都にある錬金術工房のノッカーをコンコンコンと叩く。家は普通のレンガで出来た一軒家だ。ただし庭は雑草でぼうぼう。木も枝葉が伸び放題。そのせいで道側も落ち葉が積もっている。そんな家だ。今まで一度も家政婦を雇ったことがなさそうな家だ。


 ガチャリとドアが開いた。そこには目の下に隈のある黒目黒髪の13歳ぐらいの少年が立っていた。不健康そうだな。これが私の彼への第一印象。


 そんな少年が不思議そうにしている。


「誰?」


 問われたのなら名乗るのが礼儀でしょう。と言うか挨拶しなきゃ!


「あ、あの。私。レオーネです。レオーネ=スレアーニ」


 すると少年。


「スレアーニ? 領主と同じファミリーネーム?」

「はい。あの、家政婦が必要とのことでパンハーニ商会のムソリーニおじさまの紹介で来ました!」

「領主の娘が家政婦?」

「ちょっと色々ありまして……あはは」

「……」


 おおぅ。無愛想。表情一つ変えやがねぇ。


「は、はい。あのこれ……」


 そう言って私が紹介状を渡すと少年が読み始め、そして眉根を寄せて言った。


「師匠は奥だ」


 中へと通してもらえたことにホッと胸を撫で下ろす。少年の後を追って入ると中は雑然としていた。廊下には本が積まれ、丸められた紙やら切り刻まれた紙が散らばっている。途中でチラッと確認したキッチンは使われている様子がない。っていうか家に魔石を使うコンロがある! オーブンや送風機まで!


 さっすが魔法が使える錬金術師様。これらの魔道具って自作かな?


 そんな事を思いながら家の中をキョロキョロしていると黒髪の少年が不機嫌そうに言い放った。


「鬱陶しいな」


 うは!


 何、こいつ。最悪なんだけど?


 でも一応。謝っておく。これから雇われようってのに喧嘩するのも違うだろうと思って。


「ごめんなさい……でも何だか凄いですね! 家中に本や紙がいっぱい!」


 紙一枚だってそれなりに高いのだ。それが山のようにあることへ驚愕しての発言だ。


 でも少年。そんな私の感想を一言で終わらせた。


「全然すごくないよ」


 ザ・無愛想。張り飛ばしてやろうかと思ったが、それをやってしまったら私が叩き出されてしまうので我慢だ。


 そうして奥に居るという錬金術師様へとご対面。


「師匠。これ……紹介状だって」


 少年が師匠と呼ぶ男性に声をかけると本から顔を上げて視線をこっちへ向けた。おぉ中々のイケメン。薄い茶色の髪に薄い空色の瞳。視線は鋭く目の下には隈がある。年齢は30歳前後といったぐらいだろうか。


「紹介状? 誰からだ?」


 男性らしく低くて落ち着いた声に一瞬にして心のど真ん中を射抜かれてしまった。


「こ、この人もイケボ……」


 錬金術師様が紹介状を読み始めた。


「ふむ。パンハーニ殿からか……なるほど。領主様の娘ねぇ」


 そう言って私に視線を向ける。私のお婿さん検定に合格ですよ?


 なんて言えるはずもなく。表向きは淡々と、お澄まし顔で対応する。


「家事はどの程度できる?」

「一通り出来ます」


 元貴族といえども貧乏だったのだ。家政婦と一緒に家事も一通りやっていたのが役に立つ。それを知っていて紹介状を書いたムソリーニおじさまに感謝!


「分かった。じゃあ今日からお願いしよう。シリル。家の案内を頼む」

「はい。師匠」


 そう言って私を見て一言。


「こっちだ」


 ついて来いということだろう。私は大人しく後を着いて歩く。終始無言の少年。シリルという名だったか。だがいちおう自己紹介を始める。挨拶は大事だ。


「私、レオーネ。レオナって呼んでね。で、君は?」

「……シリルだ」


 こっちを振り返ることもない。うぅ。へこたれそう。


「そっか。ねぇシリル君?」

「……」

「あのね。さっきキッチンに魔石コンロがあったように見えたんだけど、あれってば自作? あれだよね。魔道具って魔法が使える人しか使えない道具だよね。さっすが錬金術様の家。シリル君も魔法が使えるのかな? 良いなぁ。私も使ってみたいな」


 私はその辺の本を触りながら話題を振ってみる。しかし!


「本や紙にはできるだけ触らないで。丸まっている紙もだ」


 無視ですか。そうですか。


 やれやれ。これは荒療治が必要かもね。


 でも負けない!


 そこで私は無愛想を体現しているような人物であるシリル君に話しかけまくった。


「雇い主の錬金術師様のお名前ってなんていうの?」

「……」

「ねぇねぇ。シリル君?」

「……」

「そうだ! シリル君って歳はいくつ?」

「……ちっ、鬱陶しいな」

「そうだね。で?」

「で?」


 ここでシリル君の表情が変わった。


「そう。雇い主の錬金術師様のお名前は?」

「……グレン様だ。グレンダーク=ウィーシェル」


 おっ答えてくれた。じゃぁ次ね。


「ふぅん。ありがとう。で?」

「まだあるの?」

「うん。シリルくんは幾つ?」

「……」

「い・く・つ?」

「12だよ! それがどうした!」

「そっか。私の1個上だね!」

「どうでもいいよ」

「よくないよ?」

「何で疑問形?」

「よくないから?」

「だから何で疑問形?」


 段々とまた怒り出した。だから挑発してみる。


「ふふ。お喋りしてくれてありがとうね」

「……」


 おっ。また沈黙?


「私ね。挫けないって決めたの」

「……」

「貴族じゃなくなっても」

「……」

「嫌われても」

「……」

「もう泣いてばかりなのはやめたの」

「それと僕へ話しかけることに何の関係が?」


 おっ、喋り始めた。こっちに興味を持ったね?


「うん。シリル君には知っておいて欲しいんだ。私。諦めないから」

「どうでもいいよ」

「よくないよ。だって……諦めないんだもん。最終的に私の質問へ答えることになるんだったら最初で答えたほうが良くないかな? いちいち喧嘩するのも面倒だし?」


 一瞬だけ唖然とした表情をしたシリル君。だがすぐに舌打ちが返ってきた。


「ちっ!」

「ふふ。かぁわいい。ちっ、だって!」


 すると顔を真赤にして怒り出した。意外に表情が豊かだこと。


「バカにしてるのか?」

「うん。そうだよ。だってバカなんだもん」

「何だと?」


 睨みつけられるが、全然怖くない。迫力不足だよ。あの元婚約者に比べれば全然ね。


「悪い俺ってカッコいいとか思ってる?」

「いや」

「常に冷静な俺ってカッコいいって思ってる?」

「思ってない」

「じゃあ何でそんな態度なの?」

「人と話すのが面倒だからだよ!」

「面倒くさいねぇ。でも私は話したいんだもん。だから話す。諦めないって決めたから」

「そういうところが面倒くさいんだよ!」

「なっ!」


 私が面倒くさい?


「ふんっだ! その一言は面倒くさくないんだ?」

「なっ!」


 よっしゃ勝った。というわけで、この辺で切り上げるか。


「さてと、お仕事しなきゃ。何処から手を着けよっかなぁ」


 ここまで言われて手が出ない。意外に紳士だ。そこだけはプラス評価だね。


 それにしても、面倒くさい子だなぁ。


 ……ってお互いに思ってるってことか。


「はぁ……」


 まっいっか。とにかく今は、グレン様に捨てられないように仕事を頑張らなきゃね!


 グレン様が命綱だ!

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