04:フレデリック=モルガー
もうすぐ夏になろうかという季節がやってきた。春先に出した父と私の手紙の返事が来たのは一月前で、会ってお話をしましょうとあった。そこで父と私は領地を離れてモルガー様の領地まで足を運んだ。
「ようこそ。スレアーニ卿。パシアバル=モルガーです。そしてこっちが……」
「ようこそおいで下さいました。フレデリック=モルガーにございます」
そう言ってにっこり微笑む好青年。キタキタキター! 声が聞けた! たしかにイケボだ。そして見た目もイケメンだ。金の髪に水色の瞳はまさに王子様!
あまりの興奮にこのまま昇天するんじゃないかと思っていたが、そうはならなかった。何故かと思ったら、フレデリック様の目だ。笑っていない。こちらを値踏みするかのような、探るような目つきが何だか怖い。思わずゴクリと唾を飲み込む。そんな様子のおかしい私をお父様がフォローしてくれた。
「いやぁ。娘も緊張しているようで。レオナ。挨拶なさい」
「……はい。レオーネ=スレアーニです。フレデリック様」
「レオーネ嬢は今年10歳になったばかりとか。それでこれだけお美しいと将来が楽しみですね」
それって今の私には興味がないってことかしら?
「ありがとうございます。フレデリック様は17になったばかりとか?」
「えぇ」
するとフレデリック様の父親が前に出てきた。
「三男のフレデリックも17になってようやく落ち着いて、将来を考えてくれるようになりました。いやぁ、それにしてもスレアーニ卿はお目が高い!」
そうして始まった歓談だったが、私は終始うつむき加減で過ごした。上手く話の合間に相槌が打てた私を誰か褒めて欲しい。そしてあれよあれよという間に婚約話が纏まってしまった。
その日。私たちはモルガー様の城の客間へ泊まることとなった。
「どうしたんだ。レオナ? 様子がおかしいが? 憧れていたフレデリック殿はお気に召さなかったかい?」
「……えぇ。その……あの婚約が決まるまでのスピードが早くて、ちょっと戸惑ってしまって……」
今さら乗り気じゃないなんて言えない。私が前のめりで勧めた話なだけに。
「あぁ。そういうことか。まぁ気持ちはわかる。私も結婚となった時は手が震えたからなぁ」
少しお父様と話した後は、私は自分用のベッドへ向かう。ひどく精霊様の声が聞きたいと思った。
その後、領地へ戻るまでの間。ずっと私はフレデリック様の笑っていない目を忘れられなかった。
領地へ戻ってからのお母様への報告も無難にやり過ごした私は、基礎学習の先生にもう一度精霊石の声が聞きたいとお願いしてみた。
「そうですね。レオーネ様は婚約も決まりましたし、私のお役もそろそろ終わりでしょうからね。よろしい。それでは今日は精霊様と存分にお話なさってください」
「ありがとうございます」
そうして出てきた風の精霊石は相変わらず美しかった。その色にホッと胸が熱くなる。
「精霊様。風の精霊様。お聞きしたいことがございます」
するとすぐに精霊語で返事があった。ピルピルとね。その声を聞いて、これから私が聞く残酷な質問に緊張してしまう。
「なになに?」
「精霊様は、その……死ぬのって怖くないですか?」
ずっと疑問に思っていたこと。精霊石はエネルギーとして消耗される。そうなれば当然、精霊様も存在が消滅するということだ。だからこその質問。
「死? 死とは?」
逆に聞かれてしまった。
「え、えぇっと。肉体的な活動の停止……って意味じゃないよね。聞きたいことは。じゃあ、あの、自分が自分じゃなくなること……かな?」
「へぇ。自分が自分じゃなくなる……かぁ。人間って面白いね!」
何故に? 今の質問と答えのどこが面白かったのかが分からない。
「なるほどぉ。死というものは自分が自分じゃなくなることかぁ」
「えぇ。精霊様はその……消えてなくなることは嫌じゃないですか?」
「いいや。まったく」
「へ?」
「だって、僕たちは循環しているんだもの」
「循環?」
「そうだなぁ。僕たちは全体で一つの個なんだ。だから死というものがない」
「それって、私達が精霊様を、その……働かせて消耗させて消滅させてもですか?」
「うん!」
ふへぇ。これは予想外。えぇっと。つまり人間で例えるなら精霊は細胞の一つに過ぎないということなのだろう。全体で一個の生命なのだ。それを聞いて何だか安心してしまった。その後も私は精霊様の価値観が知りたくて質問を続けたのだった。
精霊様と話しているときだけは、婚約話を……フレデリック様を忘れられて楽しかった。




