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声フェチ令嬢と魔石の声  作者: 月城キナ


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02:精霊の声

 恩寵の儀式が終わって、もうすぐ春になろうかという頃に私の勉強が始まった。


 教えてくれるのは王都の学校で教師をしていたという50代の男性だ。


 まずは我が家のことからだった。


「スレアーニ家の領地はフレアリア王国の北方にあり、冬が長い土地柄です」


 その辺のことは私も知っている。知りたいのは領地の客観的な評価だ。


「先生から見て、この領地ってどんな感じなのでしょうか?」

「寒くて、貧しいですね」

「うぐっ!」

「特産は木材と毛皮。あとはクズ魔石ですね」

「クズ魔石?」

「はい。精霊石になれなかった石のことを魔石と呼び、その魔石の中でも低品質のものをクズ魔石と呼んでいます」

「クズ魔石には使い道があるんですか?」

「魔石は魔法を使う人達の触媒に使われます。杖や魔道具がそれですね。ですが、クズ魔石に使い道はありません」


 聞けば聞くほど、気候が厳しい土地にしか聞こえない。


「先生。精霊石は採れないのでしょうか?」

「採れません。採れたという話は聞いたことがありませんね。もちろん開発や調査の進んでいない針葉樹林帯の奥の方にはあるかもしれませんがね」

「そもそも精霊石って何なんですか?」

「精霊石は精霊が宿っている石のことで、精霊とは自然が豊かで魔力の豊富な土地に多く存在する霊のことですね。魔石はそのなり損ないと言われています」


 ふへぇ。そうなんだぁ。


「本日は特別に精霊石を持ってきました。3等級ですけどね」


 そう言って見せられたのが手の平に乗る程度の大きさの緑色の石。光を反射して綺麗に輝いている。


「風の精霊石です。精霊石の中では最も安くて手に入れやすい石ですね」

「何で安いんですか?」

「風の精霊石の使い道が限定的だからです。例えば水や土を混ぜたりといった具合に。生活基盤である水の操作に便利といえば便利なのですけどね。他の火や水や土といった精霊石より使用用途が少ないんです。特に3等級はね」


 ふぅん。


「さて。本日これを持ってきた私の意図は分かりますか?」

「はい。私に精霊の声を聞けということですね。分かります」

「はい。ではよろしくお願いします」


 室内が静まり、そして私は精霊石に耳を傾けた。瞬間……ゾクッと背筋が粟立った。


「うは。声!」

「声がどうかしましたか?」

「とっても良い声なんですぅ」


 ひぃええええ。これは堪らん。人じゃない。人には出せない独特な声音。低音ではなく、むしろ逆の高音域の声だ。それでいてとても透明感のある声。これは新発見! 高音も良いね!


「何を喋っていますか?」

「歌を歌っているようです。そうですね故郷を思う歌みたいです」

「へぇ。精霊にも故郷の概念が?」

「どうでしょう。ちょっと話しかけてみますね」


 自分の口から自然と紡がれる「ピルピル」という不思議なリズムと音階で構成された言語で語りかけると精霊が歌うのをピタリと止めた。そして語りかけてくる。


「あら人間? 珍しいね」


 うはぁ、声を聞くたびに背筋がゾクゾクする。


 そんな私の様子なんて気が付かない先生が待ち切れない様子で話しかけてきた。


「なんて言っていますか?」


 もう良いところだったのに!


「風の精霊が言うには、ここに来るまでに人間が歌っていたのを真似て居るだけだそうです。人間は変な生き物だけど鳴き声や、鳴らす音は素晴らしいって言っています」

「ほぅ! 精霊は歌や音楽を理解しているということでしょうか?」


 ピルピルピッピと、さえずって風の精霊に聞いてみた。


「うぅん。いいえ。音楽や歌を概念として理解しているというより、不思議なメロディを刻む存在を人間として認識しているようです」

「ほうほう。いやぁ。いいですねぇ。楽しいですねぇ。新しい発見ですねぇ!」


 知的好奇心が満たされたことによる感動で興奮している先生と一緒に、私は精霊に色んな質問をした。私は知的な好奇心より声が聞きたい為だったが……。


 しまいには先生が止めるのを無視してお喋りをした。その結果、私の声が枯れてしまったというオチが付いて、この日の授業は終わった。


 ちなみに次の日。先生は授業に精霊石を持ってきてくれなかった。


「ぶぅ! 何で持ってきてくれないんですか!」

「レオーナ嬢のためです。貴女。あれがあったら一日中話しかけてるじゃないですか! 授業の邪魔になると判断しました」

「ひどーい!」

「酷くありません! それに何ですかその言葉遣いは!」


 ぶぅ。口を尖らせて無言の抗議。すると先生。


「ダメですよ。淑女がそんな顔をしては」


 はぁ。しょうがない。いつもの猫を被るか。ニッコリとお済まし顔。


「よろしい。それでは授業に入ります」


 そう言って授業が始まったのだった。

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