01:恩寵の儀
よろしくお願いします!
白を基調とした大きな教会。内部の壁面や天井には神話を題材にした絵が描かれていて、お父様の……男爵領という貴族としては低い爵位には見合わない程の立派な教会。そこでは今、儀式が行われている司祭様が朗々とした声で私の名を呼んだ。
「レオーネ=スレアーニ」
私は立ち上がって、優雅に一礼。新調した白いドレスが軽く揺れ、金の髪もふわり舞う。スレアーニ男爵家の長女として恥ずかしくなく振る舞うように心がける。今、並んでいるのは私と同じ、今年10歳になる者たちばかりだ。参列者席ではお父様が見守っていることだろう。
司祭様の下へ静々と進む。
「それではレオーネ嬢。恩寵の儀を」
「はい」
この世界にはギフトと呼ばれる、神より授かる特殊な才能があるという。それは時にとても大きな力の場合もある。例えばドラゴンを従えてしまうような能力だったり、一瞬で何里も離れた場所に瞬間的に移動したり。
そんな力を賜る儀式がこれから行われようとしている。最初がこの領都で一番偉い男爵家の長女である私だ。
「祭壇の前へ」
司祭様に言われて神々を象ったと言われる彫像の真ん前に置かれた長方形の白い祭壇の前へ進んだ。
「祈りなさい。神に愛されていたならば加護を賜るでしょう」
静かに目を閉じ、そして祈る。フレアリア王国が信じる神々に。
すると閉じたはずの瞼の裏が白く輝いた。周囲からザワザワと動揺する声が聞こえる。
「光が……」
「なんて神々しいんだ」
その声が少し静まった頃に女性の声がした。
「レオーネ=スレアーニよ。そなたに言語の加護を与えましょう。この世界にある全ての言語を理解して習得できる力です」
どうやら知恵の三女神の中の長女であるカスカパニーニ様から加護を授かったようだ。人間を象徴する女神の中でも始まりを意味する言語の神。
「ありがとうございます。カスカパニーニ様……」
私が授かったギフトを人の世界で表すなら『世界言語』と呼ばれるものだ。カスカパニーニ様も、おっしゃっていたようにこの世界にある全ての言語を理解して使用できる能力。意思ある存在なら誰もが使う言語を私は、この時この瞬間から理解できるようになったのだ。ただ使いこなすには知恵が必要な力でもある。私自身が無教養ではいくら言語を理解できても相手への礼を失してしまう可能性がある。
「勉強。頑張んなきゃ!」
将来は外交官かしら?
他国や異種族と、このフレアリア王国を繋ぐパイプ役。
女性でこの役が出来る人の中で有名人と言えば、やっぱり筆頭公爵のスレイア=マキュリ様だろうか。
私もゆくゆくはきらびやかな外交の表舞台で活躍する人になるのだろうか。それとも舞台裏で調整をする一役人かな?
それとも別の何者かになれるのだろうか?
まだ10歳。
ゆっくりこれからのことを考えてもいいかもしれない。
こうして私の恩寵の儀は終了した。その後も粛々と儀式は進行したが、この時に私以外でギフトを授かった子は一人だけ。孤児院に住む男の子で、原初の神の一人である魔力を司る神から恩寵を賜ったようだ。ゆくゆくは宮廷魔術師だろうか?
きっと彼のこの後の人生は目まぐるしく変化していくことだろう。
「って、それは私もか……」
ぐっとお腹に力を込めて、気合を入れる。
「だいじょうぶ。やれる!」
家に帰る途中の馬車の中で、お父様とお母様に報告。するとお母様はたいそう喜んだ。
「家庭教師を雇いましょう!」
しかしお父様は困っているようだ。
「女の子が外交官? どんなに優秀でも男爵の位が足を引っ張るかもな。いずれにしても王都に報告は必須か」
そう言って心配している、お父様にどういうことかと聞いたら教えてくれた。
「世界言語のギフトは貴重だが、同時に外交の場は女性というだけで不利なんだ。相手から下に見られてしまう。そのうえ位が男爵じゃあな。せめてレオナが男性だったらそれでも活躍の場があったのだろうが……」
せっかく入れた気合が萎んでいく。するとお母様。
「それなら高位貴族と婚姻をしましょう。精霊石を産出する地方の殿方なら、レオナを気に入ってくれるでしょう」
お母様の目が輝いている。どうやら私の結婚相手をこれから探すようだ。だが聞き捨てならない単語が出た。
「精霊石?」
私が首を傾げるとお父様が教えてくれた。
「この国で産出する精霊石は他国によく売れるんだ」
「へえ……で? 精霊石ってなんですか。なぜ高く売れるのかしら?」
「あぁ。そこからか。精霊石というのは一般的に大規模な社会基盤を作る際によく使われるんだ。分かるかい?」
「えぇっと。村や町や都市を作る際の水回り……上下水道とかのことですよね?」
「そうだ。その場合に使うのは水の精霊石となる。それにしても、よく知っていたな。偉いぞ」
「えへへ」
「精霊石には当然、精霊が宿っている。そこでレオナの世界言語の出番となるわけだ」
「もしかして精霊とお話ができる?」
「そう!」
「素敵! 精霊と話せるなんて! それ! 私。その仕事がやりたい!」
するとお母様が我が意を得たりとばかりに、お父様と私の間に入ってきた。
「でしたら、やはり精霊石を輩出する家と婚姻を結ぶのが良いでしょうね」
なるほど。ドキドキワクワクしてきたぁ!
「素敵な人と出会えると良いなぁ」
年上で落ち着いている男性。身長もすらっと高くて……そして何と言っても声!
私が現在理想としている男性の声は、家で雇っている庭師のアルフみたいな声だ。あぁ……思い出しただけでゾクゾクする!
時々彼とはお喋りをするようにしているのだけど、素敵なのよねぇ。声だけは……。
でも声だけでその日の食事が美味しく感じる変態チックな私は完全な声豚だ。ブヒー。
じゅるり。
すると私の奇行を見咎めた父が呆れた声で言った。
「レオナ。よだれが垂れているぞ?」
あっと。
「失礼しました」
猫を被るのを忘れてましたわ。おほほほほ。
そうだ。
声豚と猫を被るで思い出した。
「そう言えば、元気にしているかしら?」
前世の両親。
最近は思い出すことすら少なくなってきちゃった……早逝した親不孝者でごめんよ。
せめてこっちの両親は大事にして孝行をしなきゃね!




