14:実験1
トイレから戻るとシリル君から事の経緯を質問しているグレン様の姿があった。
「そうか……なるほどな。鍵となったのはレオナ君による精霊の説得だったのか」
「はい。あと精霊同士が記憶を共有している可能性も高くなりました」
「そうか。そうなると精霊と交信するというのは過去の歴史すら知ることが出来るということだ。これは大変に素晴らしい発見だぞ!」
「はい。問題は精霊様方が人間の思惑や思想、理念を斟酌してくれないということですね」
「ふぅむ。なんとか引き出せないものか……」
「そうですね。魔石のことを未成熟体と言ってました。精霊になりそこねた存在のようですね。別の方向からそう言った情報を引き出せないかと」
「ほぅ。それは貴重な情報だな」
難しい話をしているなぁ。
「あの、戻りました」
「あぁ。レオナ君。戻ったか」
どうやらグレン様の怒りは完全に好奇心の方へ移動したようだ。シリル君ナイス!
「今回の件。気持ちはわかる。思いついたら試したくなる。だがな事は自分たちだけじゃない。周りの人の命まで関わってくるんだぞ? 今後はもっと慎重にやるように。まぁなんにせよ、無事で良かったよ」
そう言ってグレン様は私の頭を撫でた。
「さて、それじゃあ今回の反省点だ。まず融合自体は成功したんだな?」
シリル君が頷く。
「はい。一度は普通に光っていましたから」
「そうなると、その後の制御が問題となったわけだ」
「そうですね。どうしましょう? あの力を制御するだけの魔道具となると、かなり大掛かりになりそうです」
「ふぅむ……」
そこで私は思いついた。
「あの。精霊石と魔石だと力が大きくなるなら精霊石とクズ魔石ならどうでしょう?」
「クズ魔石?」
「はい。クズ魔石ってそもそもは魔石の更に力の小さな石のことですよね。それなら……」
「なるほど。それなら確かに……いや、まて。それなら……うぅむ」
グレン師匠が思考の海に潜っていこうとしたところでシリル君。
「精霊石と魔石を元に計算式を出してみませんか?」
「うむ。そうだな。そうしてみるか」
どうやら話に方向性が見えてきたようだ。グレン様がシリル君の頭も撫でた。
「だいぶ成長したな。これであとは慎重さを身に着けてくれれば言う事無しだ」
「はい。今後は気をつけます」
「よろしい」
その後二人は、研究室に籠もって難しい計算式に挑み始めた。私はそんな二人を食事の席へ引っ張り出すべく苦心するのだった。
「研究者ってやつは、どうしてこう……はぁ」
それから1ヶ月後。夏の日差しが照りつける中で再び実験が始まった。実験は領都の郊外にある空き地で行われることに。シリル君が不満顔を隠そうともしていない。
「許可をもらうのに時間がかかりましたね?」
「そうだな。でもこれでもかなり早かったほうだぞ?」
「そうなんですか?」
「あぁ。今回はかなり具体的な計算式が出せたからな」
グレン様と私。そしてシリル君。他にも見学者が10名ほどいる。まずは王都の研究者。そして領主であるお父様。彼らが見守る中で実験がスタートとなる。
まずは観測役の王都の研究者たちが距離を取るが、来てからこっち。ずっと何やら言い合いや議論をしている。会話を聞くに疑問や反対がある勢力が一部いるようだ。グレン様にも食って掛かっていて、この実験にこぎつけるまでに結構な説得の時間を要していた。それでも実験が行われるのはグレン様が「仮に何かあっても犠牲になるのは私一人ですから」と言ったからだ。それならばと許可が下りた形となる。
そして領主であるお父様が私を心配そうに見ている。
「お父様。大丈夫です。私は実験が上手くいくように精霊と未成熟体を説得するだけですから」
「あぁ。報告は聞いている。だがな、心配なものは心配だ」
そんなお父様に私は笑いかける。するとお父様が私の頭をひと撫でして「がんばれよ」と言って離れた。
グレン様がシリル君に指示を出している。
「レオナ君による精霊石と未成熟体の説得が終わったら彼女を連れて離れるように。いいな」
「はい。師匠……御無事で」
「はっは。大丈夫。理論は問題ないんだ。計算の誤差からもさらに大きく安全マージンを取って魔道具も作ってある。制御は充分に可能だよ」
「はい!」
「うん。よろしい。じゃあ頼んだぞ」
シリル君が頷き、私の隣に並ぶ。
「大丈夫だよね?」
「あぁ。上手くいく。大丈夫だ」
「……シリル君。だいぶ変わったね?」
「うん? そう?」
「うん。大人になった」
「そうかなぁ?」
「うん。最近は声変わりも始まったみたいだし?」
「あぁ。そうなんだよね。喉の調子がね」
「良い声になると良いね!」
「良い声ってなんだよ」
「そうだなぁ……」
話を続けようとしたところでグレン様に呼ばれた。準備ができたようだ。
「グレン様みたいな声のことだよ」
「あぁ。それなら俺も大歓迎だ」
ふふ。良かった。同士がいる。私は精霊と未成熟体の説得のために一歩前へ進み出たのだった。




