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原作者を殺したい  作者: 鈴井 六
原作者を殺したい

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9/27

 少しのあいだ問答を交わして、納得はしていなさそうだったけれど離脱を了承したジェイドくんはアッシュくんから分けられた所持金や備品を受け取る。

 追放した側なのに涙を浮かべて別れを惜しんで抱きつくアッシュくんに、戸惑いながらもされるがままのジェイドくん。

 ……他のメンバーはわたしがセリフを書かなかったせいでアッシュくんの言葉に頷いたり一緒に寂しそうな顔しているだけのモブと化している。なんかごめん。

 きっとアッシュくんや他のパーティーメンバーも困惑していると思う。だってこれは彼らが本心から望んでしていることじゃないから。


 本来のシナリオでは、自分を倒す人間を観察するために、先回りで食堂にいた魔王が魔法でジェイドくん以外のメンバーの意識を操作をする。そしてジェイドくんを孤立させる目的でパーティーから追放させていた。

 実際に観察してみても人間の中では比較的戦える程度の雑魚にしか見えなくて自分を倒せるとは思えないんだけど、念のため孤立させて自分が倒される未来に繋がらないようにしたんだ。

 わたしはそのシナリオに沿うように強制力で動かされたんだと思う。今までは自分の意思でシナリオに合流しようと動いていたからこんな力が働くことに気が付かなかった。


「じゃあな」


 気がつくと、ジェイドくんがメンバーに簡単な挨拶をして店から出ていくところだった。まずい、追わなきゃ。

 すぐに席を立って出ようとすると、後ろから肩を掴まれる。


「おいボウズ。会計忘れてるぞ」


 店主の大柄なおじさん。……しまった。おなか空きすぎてなにも考えずにオムライス注文したけど、わたし無一文だよ。いや、でも確かそれも含めてシナリオどおりだった気がする。


「えっと……ごめんなさい」


 本当に申し訳ないんだけど、わたしが物語の中で魔王にそうさせたようにおじさんの前に赤い魔石を掲げる。

 それは一瞬だけ赤い光を放って、直後おじさんは「あれ、オレなにしてんだ……?」と首を傾げながら店の奥に引っ込んで行った。あああ……! ごめんなさい……。

 ……意識操作もそうだけど、記憶操作までできるなら気が向けばすぐにでも世界、支配できるのでは?

 しかも本来の十分の一以下の魔力でできちゃってるんでしょ、これ。

 この世界、魔王の気まぐれで侵略されてないだけなの?

 調子に乗って魔王の設定盛りすぎて物語破綻してるじゃん。

 でも今は自分のセンスのなさに絶望している場合じゃない。急いでジェイドくんを追う。



  ―――



「あ、あのっ……!」


 なんとか追いついて、巨大な斧を背負ったその背中に声をかける。


「ンだよ」

「ひぃっ……! ご、ごめんなさい……!」


 うわあカッコいい。あと、めちゃくちゃ怖い……! これには思わず敬語ですよ。


「なんだ、迷子か」

「ち、ちがくて……あの……さっき、パーティー……」

「ああ。抜けたけど」


 目に見えて不機嫌になる。ごめんなさいごめんなさい。


「それ……ボクのせいなんです!!」

「は?」


 なんだろう……会話してるだけなのに命懸けの任務に挑んでいるみたいな、この緊張感。

 緊張のし過ぎでパニックにでも陥ったのか、わたしは自分でも想定していなかったことを口走る。


「わわっ……ボクが……この物語の原作者……なんですっ!」


 あっぶな……わたしって言いそうになったよ。いやそっちじゃなくて、なに『原作者』とか言ってるの。こんなこと言われてもジェイドくんは意味がわかんないよ……。


「……えーっと」


 案の定、まるで意味がわからないって顔をしたジェイドくんが指先で頭を掻きながら少し考える素振りをして、それから理解するのを諦めたみたいに、


「殺していい?」


って、ものすごく軽く言った。

 ……確かにわたしはジェイドくんに殺される覚悟をしてきたけど、それは今じゃない。

 もし今わたしが死んだらどうなるんだろう。魔王は死んだので世界は平和になりました、ってなるんだろうか。

 でももし違ったら……シナリオが破綻してハッピーエンドが迎えられなくなったら……わたしはまた、無駄死にってことになる。それは、すごくこわい。涙が溢れ出すのを止められなかった。


「お、おい……」


 ジェイドくんは、たぶん本心で「殺していい?」って言ったわけじゃない。だから心配そうに声をかけてくれる。

 それがなんだかものすごくうれしくて、気付いたらわたしは声をあげて泣いていた。

 だって、ちゃんとわたしが考えたとおりの、口は悪いけど根は優しいジェイドくんそのままだったから。

 焦ったジェイドくんはわたしを物みたいに担いで走り出す。



  ―――



 ジェイドくんに担がれて町はずれの人目のない場所に連れてこられた私は、洗いざらい事情を話した。

 ……いや、正しくは、

『わたしが転生したのは魔王で、今の姿は仮の姿であること。シナリオでは魔王がジェイドくんを孤立させるためにパーティーメンバーたちの意識を操作するので、わたしはそのシナリオに沿うよう動かされたということ。あと、実は女の子なこと』

これ以外を話した。全然洗いざらいじゃない。

 魔王云々については言うわけにはいかないのはもちろん、たぶん言おうとしても強制力で言えないと思う。

 わたしが女の子であることは言えるかどうかはわからないけど、言ってもジェイドくんがやりにくくなるだけだろうし。男の子相手のほうが気軽に雑に扱ってくれそう。


 ジェイドくんが追放されたのはわたしが軽い気持ちで流行りの追放モノを書いたからということにした。実際書き始めの動機はそのとおりだし。

 でも直前まで……どころか、追放後まで関係が良好だったメンバーや幼馴染のアッシュくんが、急に理由をこじつけてまで離脱を求めてきたのにはちゃんと理由があるということは話せない。

 だからジェイドくんにはわたしが整合性のとれていない物語を思いつきで書く頭の悪いやつにしか見えていないだろうなあ……。

 まあ、実際そういう部分はたくさんあるし、わたし自身が作品に組み込まれて今それを実感しているわけだけど。


 その後にあった料理スキル解放イベントだって、一応意味はある。

 魔王が自分を賢者だと偽るために、なにか特別なことをして見せようと思う。そこでジェイドくんの潜在能力を開花させることにして、でも強くなられたら困るので戦いに役立たなさそうな料理の腕を上げることにしたっていう理由が。

 でも言えないから、ますますわたしはポンコツ作家にしか見られない。事実だけども。


 ジェイドくんの立場だとわたしが迷惑な存在なのはよくわかるから、食べ物の見た目としてはわりと最悪なビジュアルの魔物の肉を差し出されても我慢して食べた。

 ……生まれてはじめて食べた魔物の肉は、オムライスよりおいしかった。

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