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原作者を殺したい  作者: 鈴井 六
原作者を殺したい

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8/27

 ジェイドくんに会いたい理由は人恋しいから……だけじゃない。

 もしここが本当にわたしの書いた物語の中なら、わたしがジェイドくんに会うことで物語が進む。そうしたら、あとは簡単。自分で書いたストーリーどおりに動けばいいだけ。


 わたしはプロットの最後に『魔王を倒してハッピーエンド』と書いた。だから順当にいけばわたしはジェイドくんに倒される運命なんだけど、それでもよかった。

 誰もいない、何もない城で自分で考えて生きていくくらいなら、何も考えず流れに身を任せてしまいたかった。

 それで世界の平和になってジェイドくんも幸せになるなら、死に甲斐があるとさえ思える。

 ……少なくとも、下らないことをして死んで親を泣かせる結末よりはずっとマシだ。


 わたしが書いた物語では、ひとりで退屈になった魔王がある日、稀に発動する予見の能力で自分を倒す人間の存在を知って、退屈しのぎに人間に化けて見に行ってやろうと思って主人公に出会う。そういう流れだった。

 でもそのまま城を空けるとまずい。魔王の気配が消えたら、他の魔族に荒らされるかもしれないし、外に出れば気配ですぐバレる。

 その対策としてほんの少しの魔力だけ残して、大半の魔力を自分の体から抽出した。

 できると理解した瞬間、やり方も自然とわかった。元からこの体にあった知識を思い出した、みたいな感じ。


 意識を集中させて体から魔力を流し出すようにイメージすると、紫色の光が両手から溢れ出て、手の先で光の球体を作り上げる。

 完成したのは紫色に透き通るピンポン玉くらいの大きさの魔石。多分、この世界で一番魔力と価値のある魔石。

 これで魔王の体には“そこそこ強い人間程度”の魔力だけが残る。外に出ても、魔族には気づかれないはずだ。

 このまま城を出たら魔力の気配が消えてただの立派な空き家になってしまうわけで、それを防ぐために今取り出した魔力をここに置いていくというわけ。

 でも全部置いていくとちょっと不便。だから――


「えい」


 紫の魔石に魔族特有の尖った爪の先を突き立てて、ふたつに割る。割れた魔石はまた光り出して形を変えて、赤と青のふたつの球体になった。

 ただの色違いに見えるけど、青には九割くらい、赤には残り一割の魔力が込められている。青は城でお留守番。赤はわたし用。

 青い魔石を広間の玉座の下にそっと置く。これで他の魔族や魔物にはここに魔王がいると錯覚させられる。

 万が一魔石が見つけられたら詰みなんだけど……まあ、わたしがそう書いたし大丈夫……なはず。


「我ながらここ、ガバガバ設定にしたなあ……」


 気を取り直して、赤い魔石を持って鏡の前に立つ。

 今のわたしの魔力量じゃ、魔王だけが使える特殊な魔法は使えない。でも赤い魔石があれば姿を変える魔法をはじめ、数種類なら便利な魔法が使える。うん、ご都合主義。

 ……とりあえず、目と髪の色が派手すぎるからわたしの元の容姿に寄せよう。あとツノとか論外だから消そ。なりたい姿をイメージすると魔石が光ってあっという間にその姿に。うん、ご都合……あー、もういいや。


 魔王の人間に化けたときの姿についてはほとんど設定していなかったから、わりと自由にできるらしい。さすがに男の子として書いたから女の子である秋山二兎をそのまま再現はできなかったけれど、だいぶ落ち着く見た目になった。どこからどう見ても人間の男の子。

 平凡な人間の子どもの見た目のわりに魔力はかなり多い。人間の中なら相当。でも魔族と比べたら、これでも全然足りない。魔王の魔力の一割以下しか魔力が込められていないこの赤い魔石ですら、今わたしの体内にある魔力の十倍はあるはず……。


「……普通に戦ったら、人間が勝てる相手じゃないよね」


 ……なんでわたし主人公じゃなくてラスボスチート設定にしたんだろ。

 この設定のせいでジェイドくんがどう魔王を倒すか思いつかなくて物語を書く手が止まって……寝落ちして死んだんだった。また泣きそう。

 今はわたしが魔王だから、そのチート級の能力をありがたく使わせてもらおう。


 魔法の使い方と同じように、知らないはずのこの世界の地図が頭の中にぼんやりした知識として浮かぶ。

 姿を変える魔法と同じく、魔王だけが使える転移魔法で一瞬でジェイドくんと魔王が出会うはずの町に行くことにした。

 ……やっと会えるんだ。



  ―――



 町はずれの人に見られない場所に都合よく転移したわたしは、さっそく魔王がジェイドくんを観察することになる食堂に向かう。……おなかが空きすぎているので。


「いらっしゃい」


 ……この世界ではじめて自分以外の人間を見た。やった、言葉普通にわかる。

 店内のすみっこの席に座ってメニューを見る。見たことない文字だけど、これまたなんて書いてあるかはわかる。……おお、この世界にもオムライスがある。ありがとう、わたしに都合の良い世界。


 注文したオムライスがきたのとほぼ同じタイミングで食堂にジェイドくんたちが入ってきた。

 みんなそれなりに強い冒険者だから体も鍛えられているし、たくさん危険を乗り越えたからなのか、なんともいえない気迫みたいなものがある。

 その中でもジェイドくんは一番大きいのと、背負った大きな斧、あと目つきの鋭さで特に存在感があった。

 自分が考えたキャラクターなんだけどふんわりしたイメージしかなかったから、実物を目の当たりにするとわたしが思ってたよりカッコよくてなんか嬉しい。ヤツはワシが創った。


 それぞれが料理を注文してそれを待っている間に次の目的地について話し合っている。

 料理が運ばれてから、ジェイドくんは軽口を叩きながらアッシュくんと笑っていて和やかな雰囲気。自分が生み出したキャラクターたちが幸せそうなのを見るのは、わたしも幸せ。

 そんな光景を眺めながらオムライスを食べていると、突然手が動かなくなった。


「えっ……」


 そして急に“あること”をしなきゃいけないと強く感じる。

 ……確かにシナリオだとそうすることになっているけど、ついさっきまですっかり忘れていたのに、なんだかおかしい。偶然思い出したんじゃなくて命令を強引に頭にねじ込まれたみたいな不自然な感覚。

 もしかしてシナリオどおりに動くよう強制されてる……?

 考えている最中もずっと早くしなきゃっていう焦りみたいな感情が止まらない。

 せっかく楽しくごはん食べてるのに、ごめんね、ジェイドくん。


 心の中で謝りながら魔石に触れてある魔法を使う。瞬間、パーティーメンバーたちの表情が変わった。和やかだったその場の空気がスーっと冷めるのがこっちにまで伝わってくる。そんな中でジェイドくんだけが取り残されたように、機嫌良さげに食事を続けていた。空になった皿を重ねて次の料理を食べ始める。


 そして――


「あのさジェイド。パーティーから抜けない?」

「は?」


 ……ああ、始まってしまった。

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