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高校生になってからよく眠れない日が増えて、そのせいか風邪もひきやすくなった。
今日も熱が出て学校を休んだ。そこまでしんどくはないし小説の続きでも書こう。
学校の空き時間に書き進めていた小説が、気づけば終盤まで進んでいた。暇つぶしで始めたものだったけど、それなりの期間になるから結構愛着が出てきた。どっかで読んだ展開の寄せ集めっぽいけど、まあ人に見せるつもりはないし。
ハッピーエンドにすることは最初から決めていた。憂鬱な気分を晴らしたくて書いているんだから、読んでいて嫌な気持ちになる内容にしたくなかったし。あと、主人公に自分の理想詰め込んだこともあって不幸にはなってほしくなかったから。
でも具体的にどういう結末にするかがなかなか決まらなかった。思いつきで振り回しちゃったし、最後くらいはちゃんといい終わりにしてあげたくて、考えるだけ考えて——
結局決めきれなくて、そのまま勉強机に突っ伏して寝落ちしたらしい。
熱が出て休んでいたのに、親が帰ってくる夕方までパジャマ姿で布団もかけず寝ていたせいで風邪が悪化した。
……わたしなにやってるんだろう。でも、治ったら次こそ続き書いて完成させるんだって思うと、高熱の苦しさも少しはマシに感じた。
まあ、その“治ったら”を迎えることはなかったんだけど。
―――
目が覚めて飛び込んできた光景はすべてがおかしかった。
石造りの天井、壁、床。ありえないくらい大きいベッド。思わず飛び起きる。体かるっ。熱が下がった?
ベッドから降りて部屋を歩き回る。知らない部屋。窓の外が気になって近寄る。そして気がついた。
窓に映っているのが、“自分に似てる誰か”だってことに。
赤い髪。赤い瞳。とんでもない色になってるし髪短くなってるけど、顔立ち自体はあんまり変わっていないように見える。身長も多分、一五五センチだったから、同じくらい。でも、……頭の上に、二本のツノ。
鏡ほどハッキリ見えなくても、あり得ないことが起きてるのだけはハッキリわかった。
「え……は? なんで……」
……声も変わってる。男の子の声。
だんだん状況がわかってきた。今のわたしは、自分が書いた小説の中にいる。というか、多分これは夢だ。高熱を出したときにおかしな夢を見るのはよくあることらしいし。
ということはこの子は魔王だ。普通こういうときは主人公になりそうなものだけど、理想を詰め込みすぎてわたしとはかけ離れた存在になったから、まだ設定があんまり固まっていない魔王のほうを無意識に選んだのかな。
とにかく、夢とわかれば慌てる必要もないわけで。むしろこれって明晰夢ってやつだから、好き勝手できるチャンスでは?
試しに飛べないかと思って思いっきりジャンプしてみたけど、着地に失敗して硬い石の床に倒れた。……痛みがリアル、だと? 夢は痛みを感じないもので、痛みを感じないから好き勝手できるものなのに、痛かったら危ないことできない。明晰夢にハズレがあるなんて知らなかったよ。
そのあとはひたすら歩き回って探索をした。わたしが魔王ならここは当然魔王城。それなりに広くて立派なのに、わたし以外だーれもいなかった。つまんないな。
でもよく考えたらわたしは魔王城内にいる魔王以外の魔族や魔物の設定をほとんど考えていなかった。考えてないんだから、夢にも出ないのかな。
外に出てみても荒れた土地が広がっているだけ。
飽きたわたしはさっさと寝ることにした。
―――
夢を見た。
夜の暗い病室。ベッドに誰か寝てる。苦しそうな息遣いが聞こえる。
少しずつ呼吸が弱々しくなる。
しばらく経つと、なにも聞こえなくなった。
―――
目を開けて、また石の天井が目に入って、ようやくわかった。
わたし、死んじゃったんだね。
さっきのは夢だけど、現実に起きたこと。
風邪をこじらせて肺炎になって入院した。あれはわたしだった。
じゃあ今はなんなんだろう。小説でよくある異世界転生? それとも最期の夢?
……どうでもいいや。
その日は一日中泣いた。
なんて下らない死に方したんだろう。ちょっと学校がダルいなとは思っていたけど、別に大きな不満なんてなかったのに。
両親はどう思っているだろう。親より先に死んじゃうなんて、わたし最低だ……。
いつの間にか眠っていて、目が覚めて、また泣きそうになる。
でもこんなに悲しいのにおなかは空く。それは魔王の体でも変わらないみたい。昨日探索して、城にも周辺にも食べられそうなものなんてなにもなかった。
わたしがこの体に乗り移るまで魔王ってどうしてたんだろう。
いやそもそも、わたしって魔王をどういう設定にしていたんだったっけ?
容姿は今のわたし……っていっても、目と髪の色とツノがあること、主人公より年下の男の子ってことくらいしか決めてなかった。だからなのか決めていない細かい部分がわたしのまんまになっちゃったけど……。
あとは、生まれたときから強い魔力を持っていて、そのせいで強さだけで序列が決まる魔族・魔物の世界の頂点、魔王になる者として親から引き離されて城で育てられたって設定だったはず。
成長するにつれ力を増していく魔王はある日、当時の魔王を殺して正式に魔王の座につく。
魔族・魔物は強さに差がありすぎると相手の縄張りに入ってはいけないと感じる本能みたいなものがある。
でも、この子が魔王になったことで先代に仕えていた配下たちでさえ傍にいられないほどの格差が生まれてしまった。
……ああ、だからこの城には、誰もいないんだ。
この設定を考えていた頃は友人との距離感に特に悩んでいた時期で、孤立しても孤独を感じないキャラクターを書きたかったんだと思う。
……でも、今の魔王はただの“わたし”だ。
わたしには、この城にひとりなんて無理だよ。
――ジェイドくんに、会いに行こう。




