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原作者を殺したい  作者: 鈴井 六
原作者を殺したい

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6/27

 自分を倒せば世界は平和になる。ニトはそう言った。

 でもオレにこいつを殺せるわけないだろ。そりゃ、初めて会ったときは殺したかったけど。


 強制力のせいでやりたくなくてもやらざるを得ない様子のニトがぶっ飛ばしてくる魔法をなんとか躱しながら、オレはなにもできずにいた。

 今までも十分強かったけど、今のニトの魔法はその比じゃない。

 強制力に逆らって発動が遅れてるから躱せてるだけで、本来なら避けるのも厳しい速度と精度だ。そんで、一発でも当たれば終わる。


「ジェイドくん……本当に、ボクは大丈夫だから……」


 攻撃の威力に反して、撃ってる本人の声は弱々しい。多分強制力に逆らうと体力を消耗するんだろう。

 ……こいつのためにも早くなんとかしなくちゃなんねえのに、なにも思いつかない。


「クソッ……! ニト、お前さっきから弱音を吐くんじゃねえ! お前が大丈夫でもオレが大丈夫じゃねえんだよ!」

「ううん……ジェイドくんは大丈夫。ボクを倒しても、ちゃんと幸せになるから。だか……ら……」


 声が途切れた。放つ直前だった魔法も消える。ニトは、目を見開いて固まってる。

 バカなオレは、もしかして強制力に打ち勝ったんじゃねえかって、一瞬喜びかけた。


 そんなオレを嘲笑うみたいに、声がした。




「なに勝手に俺の体、殺そうとしてるわけ?」




 直後、とんでもない速さでオレの横を雷が通り過ぎた。避けられたのはただの偶然だった。少し掠った腕に焼けるような痛みを感じる。


「そのデカい斧持って今の避けるとは思わなかったわー」


 愉快そうにケラケラ笑う、ニト……じゃ、ない……なにか。

 さっきまで弱々しかったのが嘘みたいに軽やかな動き。それなのに圧は増す。空気が重い。


「……誰だ」

「は? わかるだろ。バカでも」


 乱暴な口調。こっちを見下すような視線。……ニトは絶対しない。

 こいつは、その体の本来の持ち主。魔王だ。


「ニトは……ニトをどうした!」

「あ? 俺の体勝手に使ったクソ作家? さあ。奥に押し込んだから寝てんじゃね? ってかそんなこと気にしてていいのか? ジェイドくん」


 バカにするように笑ってオレの名を呼ぶ。同時に容赦なく魔法を撃ち込んでくる。

 さっきまではニトを傷つけられなくて攻撃できなかったが、今はもう躱すのに必死で無理だ。避けきれずに掠るたびに少しずつ傷が増えて体力が奪われる。

 それも、相手は多分こっちを試すような……いや、遊ぶような、そんな余裕さえ感じた。

 あまりにも一方的で、戦いとも呼べない茶番だった。



  ―――



 昔から、自分でなにかを決めるのが苦手だった。

 だからとりあえず正しそうなのを選ぶ。


 それがわたし、秋山二兎。




 高校生は中学生と違うことがたくさんある。わたしが一番悩まされたのは、自由が増えたこと。

 自由にしていいと言われても、どうすればいいかわからなかった。

 だから“正しそうなもの”を選ぶことにした。

 一度そう決めてしまえば、あとは考えなくていい。そう決める頃には、二年生になっていたけど。


 学校内でのことは、それで大体なんとかなった。

 問題は学校外でのこと。


「いやー、やっと解放されたよー!」


 帰り道、友人の一人が伸びをしながらすっきりした顔で言う。今日は期末試験の最終日だった。

 そこまで社交的ではないわたしにも、いつも一緒にいる女友達がふたりいる。


「今回範囲広くなかった?」

「うん。何問か全く習った記憶ないやつあったー」

「ねー」


 ふたりが話す合間に相槌を打っているのがわたし。


「あ、がんばったご褒美でカフェ寄っていこうよ!」


 ひとりがはしゃぎながら言った。

 ……あー。


「いいね! ……あ、二兎はどうする?」


 もうひとりが少し気まずそうにわたしに尋ねる。それを見てはしゃいでいた子も大人しくなる。


「わたしはいいかなー。あんまりおなか空いてなくて。ふたりで行ってきてー」


 もう何度こんなやり取りがあっただろう。

 わたしたちの高校は少しだけ校則が厳しくて登下校中、コンビニとかで買い物や買い食いするのは問題ないけど、飲食店やカラオケ、ゲームセンターに寄るのは禁止されている。行きたければ一度帰宅して私服に着替えてからとのこと。

 ただ、校則はあるけど見回りはゆるくて、見つかっても軽く叱られるくらい。だからほとんどの子は普通に寄り道していた。

 でもそんな校則でもわたしは破れずに一度も友人の誘いに乗ったことがなかった。


「そっか、わかった。ごめんね」

「ううん。また明日ね」


 毎回断っていると、そのうち友人たちは最初から帰りにどこかに寄りたいときは事前にわたしにそう言ってふたりで帰るようになっていた。こっちとしても断る気まずさを感じなくて助かっている。

 今日は急に思いついてうっかり口にしてしまったんだろう。


 学校ではみんなに合わせている。

 今だって気まずく感じるくらいなら、破っても大したことない校則なんて気にしないで一緒に行けばよかったのかもしれない。

 でも、学校でみんなに合わせるのはあくまでも決まりを破らない範囲で、だ。

 今みたいなちょっと羽目を外す、みたいな状況になったとき、なんだかもやもやして結局正しいかどうかで決めてしまう。


 もし、わたしに『規則は守るべき』っていう信念とかがあって選択したのならもっと堂々とできたのかもしれない。でもわたしが真面目だからそうしているんじゃなくて、決めるのが苦手だからそうしているに過ぎない。

 正しくないことってどこまでやっていいんだろう。なんでみんなはそれを自分で決められるんだろう。


 三人組は二人+一人になりがちとはよく言うけど、わたしたちもそうだ。当然わたしが+一人のほう。

 別に仲間外れにされたりしていないし、ふたりとも仲良くしてくれている。

 ただ、三人で一緒にいると、たまにわたしだけ知らない話題になったりすることがあるくらい。

 自分から距離をとってるくせに、距離があることを実感するとちょっとだけさみしい。


 そんなことが何度かあったからか、なんとなく息が詰まる日がたまにあって、休み時間にひとりでいたくなることがあった。

 ある日、勉強するからと言って友人のところに行かず自分の席で勉強……するフリをした。

 わたしのことを真面目だと思っている友人たちは特に不審がる様子もなくわかった、と言ってくれる。

 ……あっちもわたしの知らない話題を遠慮なくできて気が楽なのかもしれない。


 どうせなら本当に勉強すればいいものを、真面目なわけではないわたしは適当に広げた教科書になんとなく視線を落としはするけど、学習意欲は全く湧いてこなかった。

 視線は教科書のまま全然関係ないことばかり考える。今日の晩ごはんなんだろう。読みかけのウェブ小説更新されてるかな。


 ……ってか、暇だな。

 教科書と一緒に広げたノートに目をやる。そういえばこれ、新品だ。

 このときノートが新品じゃなかったら、多分書かなかったと思う。


 でも、新品だったから、書いた。

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