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その後、オレらはシナリオどおりに進む。
道中で魔物に襲われそうになっている女を助けたらめっちゃ感謝されたとこまではいいが、唐突に転んでなぜかオレがそれに巻き込まれて押し倒される(そうはならんだろ)なんてハプニングがあったり、依頼受けるために寄ったギルドでわざとらしく「あいつ、ランクSだと……!」ってざわつかれたり(魔王城近い町のギルドなんだからハイランカーくらい見慣れとけ)、まあとにかく別にいらねえ出来事が次から次へと起きた。
そのたびにニトに視線をやると、気まずそうにしててちょっとおもしろかった。ヘボ作家め。
気づくと最初は宿に泊まるたびにギャーギャー騒いでたニトが、慣れて速攻で寝るようになるくらいの日数が経っていた。
もうここまで来たら魔王討伐なんてする気ないって言うのも無駄だってわかってきたし――それに、魔王倒して平和になった世界でこいつと一緒にハッピーエンドとやらを迎えるのも悪くないと思う。
そうして数週間かけて、ついにオレらは魔王城に辿り着いた。
人里離れた荒れた地にそびえ立つ古びた城。オーソドックス? スタンダード? まあ、想像通りの外観。
「よーし。行くぞ、ニト」
「……うん」
魔王城に近づくにつれ、ニトはあんまりしゃべらなくなっていった。顔色も良くない。
大賢者の力があったって中身はただの泣き虫だし、そりゃ魔王討伐なんて気が重いだろうよ。
自分で書いた物語に従わされて死地に向かうハメになってるとか、ちょっと気の毒。
「お前はオレの後ろにいりゃいいんだよ。なんせオレが魔王倒すのは確定してんだから」
フードの上からガシガシ頭を撫でると、青白い顔したままちょっと笑った。強制力がなかったら近くの町に置いてきたかったんだけどな。
回復魔法も精神的なものからくる不調には効かないらしいし。
さっさと終わらせてやろう。
―――
城の中は拍子抜けするくらい静かだ。なんの気配もない。
敵の本丸だぞ。もうちょっと気合入れて魔族や魔物配置するとかしねーの? ここに来るまでの道中でもほとんど魔物に遭遇しなかった。
これもニトのガバガバ設定のせいだろうか。「魔王戦以外の戦闘を書かなかったんですよねー」とか言いそうだけど、今はそういう軽口叩けそうな顔してないから、なにも聞かなかった。
それなりの広さの城を歩き回って、恐らく魔王がいそうな他より立派な扉のある部屋の前に立つ。
ニトの具合はますます悪そうだ。
早く全部終わらせてハッピエンドとやらを迎えて、そのあとはなんかウマいモンでも作って食わせてやろう。
魔王討伐ではなんの役にも立たなかったクソスキルだけど、ハッピーエンドのあとならもうちょい役に立つだろ。
そんなことを考えながら扉を開ける。
「……は?」
扉の先の光景に思わず間抜けな声が出た。
誰もいない。なにもいない。ただ仰々しい玉座だけがそこにあって、魔王はおろか魔族も魔物もいなかった。
「どういうことだ? 他のヤツに先越されたか?」
でもオレが魔王を倒すって物語な以上、他のヤツじゃ魔王倒せないよな?
広間で突っ立ってそんなこと考えてると、後ろのニトの様子がおかしいことに気づいた。ペタンと座り込んで床に手をついてる。
「おいニト! 大丈夫か……!?」
焦って駆け寄る。ニトは苦しそうに息するだけでなにも言わない。
少しでも楽な体勢にしようと思って手を伸ばす。そしたら指先が痺れるような違和感。
何度か感じたことがある。強い魔力の近くにいると体にそれがビリビリ伝わってくるあの感覚だ。
「……ジェイドくん……だめ……離れて……」
「は? なに言って……」
言い終わる前に体がふき飛んで、気がついたら広間の隅に無様に転がってた。背負った斧の重さがなかったら壁に叩きつけられてたと思う。
……なにが起きた? 体中痛むが気にしてる場合じゃねえ。すぐさまニトのほうに視線を向ける。
無事ではあるようで、さっきと同じ体勢のままうずくまってる。もう一度そばに行こうとして、体が止まった。
ニトのローブの懐から、赤く光る丸い玉がスルリと出てきて、浮き上がって、ニトの頭上でゆっくり旋回する。
クソデカい飴玉みたいなそれの動きに目を奪われてると、今度は玉座の裏側から青く光る玉がスッと浮き上がって、ゆっくりニトに近づく。
ふたつの玉はニトの上を回りながら光を強めて、オレが思わず目を閉じている間に消えていた。
「ニト!」
我に返って駆け寄る。だがあと数歩ってとこで、さっきより強い魔力に圧されて近寄れなくなる。
不意にニトが立ち上がった。その拍子にフードが脱げる。
「え……」
赤い髪。赤い目。顔立ちはニトのままなのに、ニトじゃない。
極めつけは、頭に生えた二本のツノ。
「……ごめんね、ジェイドくん――」
――ボクが、魔王なんだよ。
……頭が、理解を拒んでる。
「大丈夫。ボクを倒したら……ちゃんと世界は平和になるはずだよ」
まだなんも理解できてないオレに言葉をかけるニトは、困ったようなさみしそうな、ちょっと怖がってるような、そんな顔で笑う。
その顔を眺めてたらふと、ある言葉を思い出す。
『だから、ジェイドくんの幸せは保証されています!』
なあニト。
あのとき綺麗な目して、どんな気持ちであれを言ったんだよ。




