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原作者を殺したい  作者: 鈴井 六
原作者を殺したい

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10/27

10

 両親は決めるのが苦手なわたしの親なだけあって、ちょっと気が弱いけど穏やかで優しい人たちだった。

 なので豪快なおじいちゃんがわたしの名前を勝手に考えてきたとき、押し切られてそのままその名前をつけたんだとおばあちゃんから聞いた。

 わたしの名前、“二兎”はことわざの『二兎を追う者は一兎をも得ず』が由来。欲張らずに堅実に、身の丈にあった生き方をしろと願ってつけた……わけではない。それなら二兎とは名付けないよね。

 おじいちゃんは「二兎追って二羽とも捕まえるような子になれ」という思いで名付けたらしい。孫に強欲になれと?

 そんな豪快なおじいちゃんの願いも虚しく、わたしは自分でなにも決められない臆病な人間になってしまったけれど。

 幸いと言っていいものかはわからないけど、わたしが物心つく前に亡くなってしまった。

 だから孫がこんなに情けない人間に育ったことと、下らないことで死んでしまったことを知らずに済んだ。


 お父さんとお母さんは押し切られて名前を決めてしまったことをずっと気にしていたようで、度々そのことを謝られた。

 わたしは自分の名前をそれなりに気に入っている。おじいちゃんがなってほしいと願ったような人間にはなれなかったけど、名前にウサギが入っててかわいーって呑気に喜んでいた。


 だから、夢の中でもまだ謝っている両親にわたしは言った。


『ねえ、謝らないでよ。それより、お父さん、お母さん。ふたりより先に死んじゃって、本当にごめんね』


 誰かが頭を撫でてくれたような気がした。



  ―――



「うぎゃあああああ!!」


 翌朝、わたしは目を覚ますなり出せる限り最大の声を出して叫んだ。死ぬ前の世界でこれだけの大声を出したことがあっただろうか。


「……朝イチから最大音量出せるのな、お前」


 そう言って眠そうに目を開けるジェイドくん。

 ……近い。近すぎる。なんでこうなった?


「これが叫ばずにいられますかー! な、な、な、なんでボクたち同じベッドで寝てんですか!」

「そら、ベッドひとつしかないし」


 だからわたしはソファで寝たはずなんだけど。

 なのに起きたらわたしはベッドにいて、すぐ隣にはジェイドくんがいる。しかもジェイドくんの片腕がわたしの腰のあたりに回されて抱き込まれるような体勢になっていた。だから思わず叫んだ。


「ひぃぃん……ボク、いびきとか大丈夫でした……?」


 恥ずかしがってるのがバレないようにいびきを気にしているフリをした。


「さっきの叫び声よりは全然マシだ」


 なのにまさか本当にいびきをかいていただなんて……!


「え!? うう……恥ずかしい……!」

「ま、ウソだけど」


 ウソかよ。


「ちょっと! からかわないで!」


 軽く叩いてもビクともしなくて、でっかい木でも殴ってるみたいな気分だった。

 ジェイドくんはわたしに叩かれてることなんて全く気にならないらしく、ぼんやり考え事をしているみたい。表情がちょっと固い。

 もしかして怒ったかなって少し心配になったけど、すぐに「メシにしようぜー」って軽い調子で言うのを聞いてホッとした。


 昨日はジェイドくんの料理スキル解放のあと、元の世界にいたときわたしの話を少しだけした。

 名前を聞かれて、うっかり本名を名乗ってしまった。本当なら物語の中で魔王が名乗った偽名を名乗るべきだったのに。

 そういえばわたしが別の世界から来たことや原作者なこと、本当の名前も言うことができた。

 ……これには強制力、働かないんだ。まあ、今のところシナリオ進行に影響出てないみたいだし。


 話の流れで自分が高熱を出して死んでしまったことを話していたら、悲しくなってまた泣いた。

 鬱陶しかっただろうに、ジェイドくんは黙って背中をさすっていてくれた。やっぱり優しい。

 ……でもこのあと、そんな優しいジェイドくんには申し訳ない目にあってもらわなきゃいけないんだよなあ。


「次はカジノのある町に行きまーす!」


 ……元気よく言っているけど爆死確定なんだよね。

 これは魔王がジェイドくんを無一文にしてやろうって思って仕掛けたイタズラのせい。

 魔法でジェイドくんの運を最低値まで下げて、ダイスやカード、ルーレットも魔法で操作して敗けさせる。それを見て密かに面白がっていた。

 ……わたしの書いた魔王ってクソガキだな。

 本来のシナリオだと、ジェイドくんをすぐ殺さないで人に化けて一緒に旅するのも暇つぶしでやっている。飽きたら殺そうくらいにしか思っていないし。


「あー。追放された後、王都戻る前に寄ろうとしてたわ」


 そうそう。ジェイドくんはこういうちょっとだけ悪いことに興味津々な男の子だからね。

 ……ちょっとだけ悪いこと、か。わたしができなかったことだね。


「今から歩けば昼には着くはずです!」


 ジェイドくんが乗り気なうちに、細かいことに触れられないうちにさっさと出発しよう。


「カジノに行くのは物語的にどういう意味があるんだ? 魔王討伐に関係あるか?」


 ……。

 結局また、魔王の思惑は伏せて説明する。ジェイドくんに無駄な設定が多いとダメ出しされた。ジェイドくんの中でわたしのポンコツ作家度がまた一段上がったことだろう……。


 でもいいんだ。ジェイドくんをハッピーエンドに連れて行けるなら、わたしがどう思われるかなんて。

 

 ジェイドくんはわたしに何度か「殺す」「死ね」って言っていたけど、口が悪いだけで本心じゃない。

 それなら根は優しい君がわたしを倒すときに躊躇しないよう、頭の悪い作家だと思って嫌いにでもなってもらって――


――そしたら最後には、原作者(わたし)を殺したいって、本気で思ってくれるかな。

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