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「うぎゃあああああ!!」
翌朝、死ぬほどやかましい叫び声で目が覚めた。
「……朝イチから最大音量出せるのな、お前」
「これが叫ばずにいられますかー! な、な、な、なんでボクたち同じベッドで寝てんですか!」
「そら、ベッドひとつしかないし」
昨日はオレが斧の手入れをしてる間にニトがソファに横になってそのまま電池切れみたいに寝落ちした。
で、ソファが引くほど硬かったからベッドに転がしておいた。
幸い貧相なのはソファだけでベッドは広くて寝心地良かった。オレとチビが一緒でも十分な大きさだ。
「ひぃぃん……ボク、いびきとか大丈夫でした……?」
「さっきの叫び声よりは全然マシだ」
「え!? うう……恥ずかしい……!」
「ウソだけどな。静かなもんだったよ」
「ちょっと! からかわないで!」
ニトがペシペシオレの肩を叩く。全く痛くない。
いびきはウソだ。
ただ――
『おと……さん……おかあさん……』
あの寝言は、正直堪えた。
ああいうのは……勘弁してくれ。
―――
「次はカジノのある町に行きまーす!」
顔洗ってすっきりしたニトが広げた地図を指差す。
フードをとってるから顔がよく見える。
改めて見ると、髪も頬もなんか柔らかそうで、なんつーか、弱そうですぐ死にそうだと思った。
朝メシの硬いパンをかじりながらそれを眺める。
「あー。追放された後、王都戻る前に寄ろうとしてたわ」
オレはアッシュと違って品行方正じゃねーし、近くにカジノがあるって聞いたら、そら行きたくなるだろ。
あのパーティーにいたらアッシュが許可しないだろうから絶対入れなかったし。
「今から歩けば昼には着くはずです!」
それはいいんだが。
「カジノに行くのは物語的にどういう意味があるんだ? 魔王討伐に関係あるか?」
実はカジノの運営を魔族がやっていて、人間の金があっちに流れてるから成敗するとかそういうやつか?
「そ、それは……」
……目が泳いでる。
「どうせ後でバレるぞー? 今言えー?」
軽く圧をかけると観念してゲロった。
「……カジノで大負けして全財産失って、路銀を稼ぐために依頼を受けて、ジェイドくんの強さをみんなに知らしめる的なー……そんな展開がー……?」
チラチラこっちの顔を伺っている。うぜぇ。
「つまりカジノは負けイベで爆死確定と?」
「……ハイ」
殺す、が喉元まで出て、飲み込んだ。
一回死んだやつにはさすがに言えねえ。
「爆死する必要あったか? 全財産無くさなくても、普通に困ってるヤツに頼まれて魔物退治とかさー」
「ごめんなさい……ジェイドくんをカジノとか好きでちょっと悪いこともしちゃうような一面があるキャラにしたくて……」
「ったく。カジノ好き設定はいいけど勝たせとけよ。お前、ほんとに思いつきで書いてるよなァ。オレは本あんま読まないし当然書いたこともねえけど、大まかなあらすじ考えてから書くモンじゃねーの? 必要ない設定とか行動が多いんだよ」
「うっ……! で、でも、一応この物語を書いたノートの最初のページに、結末までのプロットは書いてあるんですよ!」
途中で思いつきで書き足したりもしてるけど、って、なんかゴニョゴニョ気まずそうに言ってる。聞こえてんぞ。
「じゃ、お前はその結末とやらに辿り着くまでに起こること全部知ってるんだな?」
「いえ……終盤あたりを書く前にこっちに来たので、全部はわかりません……」
でも! って拳握りながら目を輝かせてる。感情忙しいな。
「本文だけじゃなく、ノートの隅にメモ書きしただけの設定も反映されているみたいなので、本文は書けていなくてもプロットに書いた結末は反映されるはずなんです!」
「つまり?」
「ボクはプロットの結末にこう書いたんです!」
『魔王を倒してハッピーエンド』
「だから、ジェイドくんの幸せは保証されています!」
「カジノで爆死しても?」
「カジノで爆死しても、です!」
そんな綺麗な目で言われてもねえ。
っていうか、オレ別に魔王討伐する気ないんだけどな。カジノで遊んで王都に帰るつもりだった。
魔王討伐は魔物の襲撃で両親亡くしたアッシュの悲願だ。
オレには特別、それにこだわる理由も命かける理由もねえ。
……まあ、強制力とやらで爆死確定カジノはやらなきゃならないんだろう。
どうせやるなら楽しんでやる。
ついでに強制力も跳ね除けて、大儲けしてやるよ。
で、どうなったかって?
爆死だよ、爆死。クソが。




