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王女様との約束に遅れそう!
早足でお城の中を歩いて中庭に向かう。お城、広すぎない……?
ほとんど駆け足みたいな早歩きで、品もなにもあったもんじゃない。
一応、もしかしたら、万が一。お城に残る可能性も考えて、最近ちょっとだけ上品な所作を意識していたけど、台無し。
「先ほどのお二人のお姿、見ました?」
「ええ、ええ。素敵でしたわね」
廊下の角を曲がってすぐのところに中庭に続く扉がある。その角を曲がる直前、話し声が聞こえて思わず足が止まる。
「セレスティア様は女性の中では背が高いお方でしょう? 横に立つと見劣りしてしまう殿方も多い中、お二人が並ぶととても絵になっておりましたわ」
「勇者様は逞しいお体をされておりますからね。まるで絵物語のようでした」
どうやら使用人さんたちのおしゃべりの現場に遭遇してしまったみたい。
急いでいるし、別にこのタイミングでわたしが現れたところで彼女たちも困りはしないし、隠れる意味なんてひとつもない。
そのはずなのに、会話の中に出てきた名前のせいで、続きを聞くのを止められなかった。盗み聞きなんて品がないどころの話じゃない。下品。最低。
「正直、最初に勇者様を見たときの印象はあまりよろしくなかったのですよ? わたくしたちのセレスティア様に相応しいようには、とても見えませんでしたので」
「わかりますわ。勇者様はその……少し粗暴な方に見えましたので」
「ええ、ええ。ですがセレスティア様や国王様を前にしても臆することなく発言されるあのお姿。今ではあれこそがセレスティア様のお相手に求められていたものなのではないかと考えるようになりましたの」
「セレスティア様と対等にお話できる方など、誰一人おりませんでしたものね」
しばらくお城にいたわかったことがある。セレスティア王女はとても慕われている。
お城の人たちはみんな王女様が大好き。それは単に綺麗な人への憧れじゃなくて、そして王族だからと持ち上げているわけでもなくて、称されるに値するものを王女様が持っているから。
王女様は幼い頃から優秀で、早いうちから国王様は彼女の結婚相手ではなく彼女自身に国を任せる気で仕事を教えていたらしい。
きっと歴史に名を残す名君となるだろう。そんな風に言われている。
そして、ジェイドくんはその隣にいても霞まない。
ヤツはワシが創った。ジェイドくんが褒められているのを聞いて、いつもみたいに得意気になっていればいい。
そのはずなのに。
「……あーあ」
ジェイドくんは、わたしの理想を詰め込んだ存在。わたしが彼のことを好きなのは当たり前。誰だって自分が生み出したキャラクターに愛着を感じるものだと思う。
彼には散々好きを押し付けた。でも、どれだけ彼を好きだとしても絶対に抱かないようにしていたのが、恋愛感情。
自分の好きなように創って恋をするなんて、そんな風に都合の良い存在には絶対にしないと決めていた。
というより、ずっと気が付かないふりをして過ごしてきたんだと思う。わたしは原作者としてジェイドくんのことが好きなんだと、自分に言い聞かせて。
それなのに、誰かの隣にいるジェイドくんを想像して、もう自分を誤魔化せないくらい、どうしようもなく好きなんだと思い知った。
約束の場所に、王女様はもう来ていた。時間には間に合ったけれど、待たせてしまって申し訳ない。
「お待たせしました!」
「いえ。少し早めに来てしまっただけだから。……あら? ニト、あなた……」
「はい!?」
王女様が顔を覗き込むように近付ける。まつ毛長いな……!
「お顔が赤いわ? あと、目も少し潤んでいるみたい」
「え!? ちょ、ちょっと走ったからですかね!? すすす、すみません! はしたない真似を……!」
「元気で良いと思いますわ。それに……」
両手を頬に添えられて、そっと顔を上げさせられる。
「今の貴女、とても可愛い」
―――
王女サマとのうんざりする会話のあと、中庭から離れようとしていたところによく知る声が聞こえてきた。足が止まる。振り返る。
バラに囲まれた空間。そこでテーブルを挟んで楽しそうに笑う王女サマと、ニト。
あー……可愛いな?
今日は一段と可愛く見える。好きだと自覚したからか、はたまた久々にしっかり顔を見たからか。
それとも、王女サマと一緒にいるあいつだからだろうか。
ニトのことが好きだと自覚してから考えることがある。
まだ物語の強制力とやらが残っていて、世界がオレの幸せのために回るんだったら、ニトもきっとオレを選んでくれるんだけどな、って。
まあ、最低だな。
でも、オレじゃない誰かといるニトが幸せそうにしてるとこを見れば見るほど、そういう欲が膨らんでいく。
なにが勇者だ。なにが英雄だ。ただの外道じゃねーか。




