表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
原作者を殺したい  作者: 鈴井 六
原作者を愛したい

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/27

 消えたはずの魔王アルファルドが、わたしの前に現れた。しかも、なぜか幼くなって。

 でも間違いなく魔王。人をおちょくったような態度も、わたしを『クソ作家』って呼ぶところも変わっていない。


「お前! なんで生きてるんですか!」

「……えー? お前らに殺されて肉体が滅びたあと、少しのあいだ魂だけが残ってふわふわしてたんだよ。そしたら……」


 そこまで言って、黙る。

 そして急にその場にペタンと座り込んだ。


「ちょちょちょ、ちょっと! なんですか急に!」

「……腹減った」

「はぁ!?」

「腹減ってたの、忘れてた」

「なっ……なんつータイミングで思い出すんですか! 続きが気になるところで流れる広告みたいなことしやがって!」

「だって、一週間くらい前に復活してから、なんも食ってないんだもん」


 い、一週間だと……?

 よく見ると、アルファルドは全身土や埃で汚れているし、投げ出された脚には擦り傷や獣に引っ掻かれたような傷がいくつもある。


「……力ずくで食料を奪うことくらい簡単にできたのに、しなかったんですか」

「この体は魔法が使えねえ」

「は?」

「ただのザコい人間のガキなんだよ。だから……あーもう。だから、腹減ったってばー」


 そう言って道に仰向けになる。


「うわぁぁぁ!? こらっ! こんな場所でやめなさい!」

「もう動けねーもん」

「このクソガキ……! わたしは知らんですよ! もう行きますからね!」


 大の字になっているアルファルドに背を向けて歩こうと一歩踏み出した、その時。


「あらカワイイ。姉弟かしらね?」

「ほんとだわ。ソックリね」


 近くの奥様たちがこっちを見て微笑んでいる。わたしとこいつが姉弟に見えてる……?

 そうか。アルファルドの見た目って、わたしの色違いみたいなもんだった!

 うっわ! じゃあ今のわたしってスーパーでよく見る、


『お菓子買ってぇぇぇぇぇ!!!』

『ダメって言ってるでしょ! 置いて行くからね!』


の、『置いて行くからね!』のほうってことじゃん!

 めっちゃ注目集めちゃってるし、本当に置いていったらわたしが冷ややかな目で見られるやーつ!


「……おねーちゃん、お腹減ったぁ」


 調子に乗りやがって……!


「……ほーらアル、行きますよ。食べたいもの買ってあげるから、早く立って? 迅速に」

「やったー。俺パン食いたい。甘いやつー」

「うん。たくさん食べようねー」


 窒息するまで詰め込んでやりたいですねえ。




 パン、と聞いてつい来てしまった。ジェイドくんに教えてもらったパン屋さん。

 アルのバカが目立つことしたせいで注目されて、大通りから早く離れたかったから、あの辺のお店には入れなかったし。

 ……いやいや、でもジェイドくんの馴染みのお店はさずかにまずい……のでは?

 ジェイドくんにはアルが生きてるの話せないしなあ。わたしよりずっと嫌な思いさせられただろうし。

 もし知られたら、速攻で魔王ぶっ殺すマンになるかもしれない。今のアルじゃ全く歯が立たないだろうな。

 ……なんでわたし、アルのこと庇おうとしてるんだろ。


 魔王との戦い。あのとき――死に際にアルと別れたとき。わたしは後悔していた。

 この子がジェイドくんと幸せになる可能性を、わたしが奪ったから。

 だからどんな理由があって復活したのか知らないけど、もう一度生きることができるなら次こそ幸せになってほしい。

 そう思っているからだ。


「おいさっさと買ってこいよクソ作家。迅速に」

「……」


 やっぱ地獄に堕ちろ。


 アルの姿をお店の人に見られるのは良くないので、わたしが入ってパンを買う。この前話をした店主のおじさんはいなかった。

 よかった……できればわたしがここに来たこと自体をジェイドくんに隠したい。

 最近全然ジェイドくんと話せてないし、一緒に出かける約束も果たせていない。

 それなのにわたしひとりで街を歩き回っていると知ったら、さすがに良い気はしないと思う。


「はい」

「おっせえよノロマ」


 店から少し離れたところに待たせていたアルにパンの入った袋を差し出す。わたしから袋を奪い取ると、目をキラキラさせてパンを頬張る。

 こうして見ると本当にわたしに似た、ただの子どもなんだよな。これがついこの前まで世界中から恐れられていた魔族の頂点だったと誰が思うだろうか。


「で、お前はなんで生き返ったんですか。どうしてここに来たんですか。なにを企んでいるんですか。そしてなんです、その姿は。まるで幼稚園児です。年長さんです」

「一気に聞くな。あ、これもーらい」

「あ、こら」


 手に持っていた瓶牛乳を奪われる。……本当に喉を詰まらせられても迷惑だから、もともとアルに渡すつもりで買ったものではあるんだけど。


「ふぅ。前から思ってたけど、食い物だけは人間のもののほうが優れてるよな」


 一番美味しいのは最強料理スキル所有のジェイドくんが焼いた魔物の肉だけど。


「えーっと、なんだっけ? なんで生き返ったのかだっけ?」

「そうですよ! 死に際になんかこう、イイ感じのセリフ言って去っていったくせに!」


『俺から勝ち取った命だ。せいぜいクソみたいな世界でクソみたいな人生送っとけ』


 あの言葉は、それなりにわたしの心を揺さぶった。

 アルから勝ち取った命。意味のある死を求めていたわたしがした生きるという選択。だから今度こそ間違えないと決めたんだ。


「俺だって普通に死ぬもんだと思ってたし。でも、魂だけになって消えるの待ってたら、声が……」

「声?」

「……なんか声がして、魂に少しだけ魔力が残ってたのに気がついたんだよ。ほんとにちょっとだけだから大したことはできないけど、全部使ってショボい器は作れたってわけ」


 声ってなんだろう。この世界には神様的な上位存在がいるのかな。

 だとしたら原作者のわたしを差し置いて、魔王復活とか自由にやってのけてしまえるのはわかるけど、なんのために?

 魔法も使えない子どもの体にしてまで。


「器って、その体?」


 で、こいつはこいつで“ほんのちょっと”の魔力で体を作れたって……? 魔王ってほんと性能ぶっ壊れてるな。


「魔力が少なすぎてすぐ死にそうなガキの体くらいしか作れなかったし、これを作るために魔力を使い果たしたからもう魔法も使えねえ。クソ雑魚だ」


 苦々しげに吐き捨てる。


「そんなに嫌なら、なんで生き返ったんです?」

「は?」

「だってお前、この世界に未練なさそうだったじゃないですか」


『次に生まれるのはお前のようなクソ作家が書いたクソみたいな世界じゃなくて、もっと面白い世界であってほしいもんだね』


「クソみたいな世界に未練なんかねーよ。でもここはもう、クソ作家が書いたクソみたいな世界じゃないし。お前が書いてないならちょっとは面白いこと起きそうじゃん」


 否定できないけども……。


「お前がどんなアホ面で生きてるのか見るために、このクソ雑魚い体でわざわざここまで来てやったんだぜ? ちょっと獣に襲われただけでもすぐ死にそうになるから大変だったわ。馬車の荷台に忍び込んだりしたのは、まあまあ楽しかったけどな」


 年相応の無邪気な笑顔。

 転移魔法もなしに、傷だらけになって、お腹空かせて、動けなくなる寸前までわたしを探していたのか……。

 ああダメだ。わたし、絆されてるな。


「……明日、同じくらいの時間にまた来ます」

「んー?」

「食べ物くらいは恵んであげますから。なんとか生き延びなさい、クソ雑魚」

「クソ雑魚でもお前よりは強いし」


 ムッとしてそっぽを向いた横顔が少し赤い。


「クソ雑魚といえばさー、ジェイドくんは一緒じゃねーの?」

「お城にいますよ。お前には絶対会わせません」

「別に会いたくねーし。あ、お前はちゃんと来いよ!」


 ぎゃーぎゃーうるさいアルを置いて、お城に向かう。

 あんな小さな子どもを置いていくことに抵抗は感じるけれど、アルならなんとか凌ぐだろう。今のわたしには他に手段が思いつかない。


 ほんの数ヶ月前まで“ちょっとだけ悪いこと”をする勇気もなかったわたしが、隠れて野良の元魔王に食べ物をあげているなんて……バレたら処される?


 アルが生き返ってうれしいやら気が重いやら。

 王女様との昼食の約束に間に合うようにバタバタと駆ける足取りも、そんな気持ちに合わせて軽くなったり重くなったりを繰り返すのだった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ