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原作者を殺したい  作者: 鈴井 六
原作者を愛したい

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23/27

 わたしが図書館に通い始めて、今日で一週間。

 お城で朝食を食べて、図書館に行って、お昼の鐘が聞こえたらお城に戻る。そして王女様と遅めのお昼ごはんかお茶をするのがお決まりのパターンになりつつあった。

 夕食は王女様と食べたり、ジェイドくんと一緒に国王様と王妃様に呼ばれてガチガチに緊張しながら食べたこともある。誰とも約束がない日にジェイドくんと一緒に食べようと思ったら、「ガハハハハ!」に連れて行かれたあとだったので部屋でひとりで食べたことも。

 そういえば最近、ジェイドくんとふたりで会うことないなあ。いずれお別れしなきゃいけないんだし、慣れたほうがいいんだろうけど。


 勉強はそれなりに順調。地理とか歴史とかはもちろん、魔法とか魔物についての本もあってワクワクする。元の世界での勉強より楽しい。

 一冊だけ本を借りて図書館を出る。読みたい本はいくらでもあるけど本の虫になっちゃうのもどうかと思うし、一冊だけって決めている。王女様との時間を作るって約束をしたし。

 今日もお昼ごはんを一緒に食べることになっている。少し駆け足でお城に向かっていた、その時――


「クソ作家みーっけ」


 楽しそうな声が聞こえた。足を止めて、振り返る。


「……なんで、お前がいるんですか」

「なんだよ、おっかない顔して。せっかくお前のこと探してここまで来たのに」


 燃えるような赤い髪。同じ色の瞳。わたしが知る姿より随分と幼いけれど、忘れるはずがない。

 少し前まで、わたしだったんだから。


「なんでいるのかって聞いてるんですよ。アルファルド」


 わたしの声に怒気が含まれているのがよほど面白いのか、小さな魔王は無邪気に笑った。



  ―――



 一週間、ニトとふたりで話してない。

 あいつは朝から昼まで図書館。そのあとは王女サマとの時間。夜メシは一緒に食えた日もあったけど、国王のオッサンと王妃サマにふたりセットで呼ばれた場だったからあいつと話す時間がない。

 メシのあとに少しでも話せればって思ってても、オレだけガハハハハに捕まって酒に付き合わされたりして、全然時間がねえ。

 このオッサンは、ニトが誰とも夜メシの約束をしていない日にオレがあいつを誘おうとしたら、すかさずオレを誘ってきたこともある。わざとやってんのか?

 同じ城の中にいる。部屋はすぐ隣だ。別に焦ることもない。そう思ってダラダラしてたら、あっという間に一週間だ。


 あいつが図書館に行ってる間、オレは暇を持て余して城の中を適当に歩き回ってる。

 中庭に出て陽の光を浴びる。最近体を動かしてなくて鈍ってきてるんだよな。

 思いっきり体を伸ばしてたら、中庭の奥……大量のバラが咲いてる場所にポツンと設置してあるテーブル。そこにクロスを敷いている王女サマと目が合った。


「御機嫌よう、勇者様」

「ああ、こりゃどうも」


 優雅に一礼する王女サマ。


「お昼はここでニトと一緒に食事をする予定なのです。勇者様もご一緒にいかがですか?」

「いや。遠慮しとくよ」


 オレは王女サマが苦手だし、ニトには女同士でおしゃべりする時間も大切だろうし。

 にしても……“ニト”、ね。いつの間にかずいぶんと仲良くなったらしい。


「よろしいのですか? 最近、ニトと過ごす時間がないように見えましたのでお誘いしたのですが」


 ……あんたがいなければ大歓迎なんだよ。あと、あいつとの時間が減ったのはお前ら親子のせいでもあるだろうが。


「オレはいつでもあいつに会えるし。だから今はあんたがニトの相手してやってくれよ」

「ふふふ、強がりですこと。でも勇者様、ご自分ではわからないと思いますけれど、とても寂しそうなお顔をしていらっしゃいますわよ?」

「……堅苦しい生活に疲れてるだけだよ」


 想像する。

 外に出て、大通りを抜けて、ごちゃついた裏通りの露天に行く。まんじゅうみたいな丸い顔のおっさんから肉まんじゅう買って、熱いうちにかじり付く。それだけで生き返るんだけどな。


「勇者様。もう一度お伺いしますけれど」

「あ?」

「わたくしと結婚し、城に残るつもりはありませんこと?」


 ……ここにいたら碌な話を聞かねえなァ。


「何度でも言うが……」

「いえ、何度も申していただかなくて結構です。わたくしの話を最後まで聞き、一度だけお返事を」

「はぁ? おい……!」

「このままだと、勇者様はおひとりで自由になることになるのでは?」


 うるせえなあ。


「ニトは、ここでの生活に適応するために日々努力を重ねておりますわ。少しずつテーブルマナーも覚えてきましたのよ。毎日学んだことについてうれしそうにお話してくれる姿がとても愛らしくて」


 うるせえんだよ。


「あの子はここでも幸せになれる子ですわよ? そんなあの子と一緒に幸せになるためには、外に連れ出すのとここに残るの、どちらのほうが適切なのでしょうね、勇者様」


 喋んな。


「面倒な執務も外交も、すべてわたくしにお任せくださって結構ですわ。勇者様はただ『象徴』であれば良いのです。城で気ままに暮らし、時々民衆の前に姿を現す。それだけで十分」


 オレはお人形か。


「……まあ、跡継ぎのことに関しては少々我慢してご協力いただくことになりますが。それはお互い様ですし、目を瞑っていただきたいですわね」


 この女は、なんでこうも人の神経を逆撫でする言葉を選ぶんだよ。


「それだけ我慢してくだされば、これからもニトと一緒にいられますわ」


 お上品な笑顔だこと。反吐が出る。


「では、最後にもう一度だけ」


――お飾りの玉座に座る気は、ございませんこと?


「黙れって」


 あー……声に出たな。


「あら、不快な気分にさせてしまったようですわね。お許しください」

「……もう、行く」


 想像する。

 外に出て、大通りを抜けて、ごちゃついた裏通りの露天に行く。まんじゅうみたいな丸い顔のおっさんから肉まんじゅう買って、ニトに食わせてやる。それだけでいい。

 それだけのことが、とてつもなく遠く感じる。

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