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ジェイドくんに街を案内してもらって気がついた。
わたし、この世界のこと知らなすぎでは……?
世界が補完してくれている“わたしが書いてない部分”が全くわからない。
今はジェイドくんが教えてくれている。でも、これから頼らずに生きていこうっていうのに、これじゃいけない。
というわけで――
「図書館に行きたいのですか?」
「はい。王立図書館には王都の学生か身分の高い方、もしくは王族の方から許可をいただいた人しか入れないと伺ったのですが……」
バラ園で王女様とお茶をしながら、それとなく切り出してみた。
幸いなことに、この世界の知識がある魔王の体じゃなくて、全然知識のない二兎の体でもこっちの世界の文字は読めるままだ。
だから図書館でこの世界や生きるのに役立つ情報を調べられたらありがたい。
あと単純に、この世界での読書は娯楽として貴重すぎる。漫画もネットもないこんな世の中じゃ……!
「構いませんよ。でも、入り浸りにならずに、わたくしの相手もしてくださいね」
「よろこんでッ! ありがとうございます!」
「では、明日までに許可証を用意しておきますね」
っしゃ! この世界ではどんな小説が流行ってるのかな! 楽しみ!
……ちがう! わたしは勉強しに行くんだ!
「ニト様。夕食をご一緒にいかが?」
「あわわっ! 光栄です! あ、わたし、作法とかがあんまり……」
「気にしなくて大丈夫ですわ。今日は両陛下はいらっしゃらないのでわたくしだけですし、気楽にしてくださいな」
「そうなんですね!」
王女様の前でも緊張はするけど、少しはマシかな?
歳が近い女の子と一緒にごはんを食べるなんて、前の世界ぶりだ。
「あ、ジェイドくんは……」
「ふふ。“うるさいほうの陛下”に捕まってしまったかと」
脳内に「ガハハハハ!」が響き渡る。
「お母様は主催のパーティーがあって不在なのです。わたくしとふたりは、嫌でしたか?」
微笑みながら小さく首を傾げる。眩しいッ!
「とんでもないですッ!」
「うれしい。ニト様のお好きな料理をご用意いたしますわ」
「さ、様なんて、つけないでいただいて……! あ、食べ物はなんでも好きです……!」
一番好きなのは誰かさんが焼いた魔物の肉ですが。
「では、ニトと呼ばせていただいても?」
「そそそ、それで! それでお願いしますッ!」
「ふふふ」
美女との時間を享受する……!
食事が終わって部屋に戻ろうとしたら、ちょうど戻ってきたジェイドくんと部屋の前で鉢合わせになった。
「……よォ」
「なんか、元気ないですね?」
「ずっとガハハハハを聞かされて、鬱陶しいから酒飲んで聞き流してたんだけど、飲み過ぎた」
あらら。
「すっかり気に入られちゃいましたね」
「勘弁してくれ。明日も夜メシ誘われてんだよな……。さっさとここから出て自由の身になりたいもんだ」
国王様のこと以外にも、ジェイドくんがお城での暮らしに窮屈さを感じていそうな場面は何度かあった。
この世界のことは全然知らないわたしだけど、ジェイドくんのことはよくわかっているつもり。堅苦しいの、苦手だよね。
「なあ、夜はまたオッサンの相手しなきゃなんねーから、昼間に出かけようぜ」
「あ、ごめんなさい! 明日はちょっと図書館に行こうと思って」
「は? 図書館?」
「わたし、この世界について知らないことだらけなので! 勉強をしに!」
「そんなん、今日みたいに街歩きながらオレが教えるけど」
それに頼りっぱなしにならないように自分で勉強するんだよ!
「ほら! わたしって一応物語の作者じゃないですか。本とか好きなんですよ! だから図書館に興味があって」
「ヘボ作家じゃん」
「う、うるさいなあ! ……もしかして、ジェイドくんも行きたかったですか?」
本とか興味なさそうだから、王女様にはジェイドくんの許可証は頼まなかったんだよなあ。それで怒ってる?
「べつにー」
じゃあなんでそんな不機嫌そうなんだよぉぉぉ。
「まあいいや。今度はウマい飯屋教えてやるから、そのときは付き合えよ」
言うだけ言って、さっさと自分の部屋に入って行っちゃった。国王様の相手で疲れてるんだろうなあ。
やっぱり、ジェイドくんにはお城での生活は合わないだろうな。
わたしは一応、お城でお世話にならなくても生きていけるように勉強するつもりだ。
でももし、ジェイドくんが王女様との結婚を選んだら。そしてわたしもお城でお世話になることにしたら――
「もっと一緒にいられるな、とか、思っちゃった」
ジェイドくんに頼らないで生きていこうって決めたばっかりなのに、意志が弱いな、わたし。
でも今までの様子を見る限り、ジェイドくんは外にいたときのほうが生き生きしていた。思い出の場所のことを話している顔が本当に楽しそうで、わたしもうれしかった。
だからやっぱり、わたしたちは別々に幸せになったほうがいいと思う。




