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原作者を殺したい  作者: 鈴井 六
原作者を愛したい

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20/27

「あの、ちょっと伺いたいのですが……」


 ジェイドくんと王女様はわたしの歳を聞いてなにか思うところがあるのか黙り込んでしまった。……わたしのこと何歳だと思ってたの。

 そう聞きたい気持ちはあるけれど、それよりも気になることがある。

 ふたりの会話が途切れた隙に、ずっと言いたかったことを言っておこうか。


「わたし、女なんですけど」


 なぜ誰もそこに触れないの。側室って確実にお世継ぎを誕生させるためにお相手を増やしましょうっていうやつではないの?

 女のわたしが王女様の側室になる意味、ある?

 なので思った。王女様はわたしのことを男の子だと思っているのでは、と。

 男の子だったころのわたしは、今のわたし――秋山二兎によく似た顔立ちだった。今のほうが多少は女の子らしさがあると思うし、髪だって短めだけどあの頃よりは少し長い。

 でも、わたしによく似た男の子が成立するなら、今のわたしもまた、男の子に間違われてもおかしくないのかもしれない。

 この世界は王女様やジェイドくんを筆頭に美男美女が多い。わたしのようなちんちくりんは性別がわかりにくいと思われているとか……。


「ふふふ、賢者様。ええ、もちろんわかっておりますわ。とても愛らしい女の子だと、ひと目見てそう思ったのですから」


 ええ……じゃあ、なぜ。


「性別など些細な問題ですわ。わたくしをときめかせてくれた可愛らしい貴女と一緒にいたい。ただそれだけのこと。そしてそれを叶えるために些細な問題を排除するだけの権限が、わたくしにはありますのよ」


 ん? 排除する必要があるってことは、本来は認められていないってことだよね……?


「ですが、わたくしが介入できるのはあくまでも制度についてのみ。貴女の同意なしに強引に事を進めることはできません」


 ……制度は捻じ曲げられるんですかそうですか。


「もういいだろ。くだらねえ」


 機嫌の悪さを隠そうともしない、低い声。


「褒美はいらねえ。別にそれ目的でしたことじゃねえし」

「あらあら、よろしいのですか?」

「そりゃ、もらってうれしいモンならもらいたかったけどなァ。いらないモン押し付けられても迷惑だ」

「……へぇ」


 王女様の声のトーンが下がる。

 ジェイドくんはさっきからずっと不機嫌で、乱暴な物言いをするたびにわたしの心臓が縮み上がった。勇者じゃなかったら不敬罪で何度か処刑されてそう。

 わたしは口出しすることもできずに目の前のティーカップを覗き込んで、映り込む自分を眺めていた。……作画手抜きしたのかってくらい、わたしだけ浮いてるんだよなぁ。


「勇者様のお気持ちはわかりました」

「あっそ。じゃあ、行こうぜニト」

「お待ちを」

「……まだなにか?」

()()()()()()()はわかりました。賢者様……ニト様のお気持ちはまだ聞いておりませんので」

「え……わたし……?」


 わたしの気持ち……? あれ? わたし、どうしたいんだ……?

 魔王としてジェイドくんに倒されるとき、わたしは「一緒がいい」と言った。今でもそれは変わらない。

 でもそれは、『一緒にこの世界で生きたい』ということで、『ずっと傍にいたい』という意味で言ったわけではない。というか、そこまでをジェイドくんに求めていいと思っていない。

 だから平和なこの世界にわたしとジェイドくんがいる時点で、わたしの望みは叶っている。これ以上どうしたいかなんて考えていなかった。


 ……いや、望みがないわけじゃない。

 ジェイドくんが、幸せであること。ハッピーエンドのそのあとも、ずっと。


「ちょっと、考えさせてください……」

「ニト!?」

「ふふふ。もちろんですわ」


 次は、間違えない。



  ―――



「ジェイドくん、怒ってますか?」

「怒ってない」

「でも、顔が怖いです」

「元からだ。どっかの原作者がこういう顔ってことにしたから」

「……やっぱり、怒ってますよね?」


 王女様と従者のおじいさんが退室してふたりになってから、ずっと腕を組んで座ったままなにも言わなかったので、怒っているのはしっかり伝わっている。

 まあ、朝からドタバタ続きだし、さっきのわたしの返事も気に入らなかっただろうし……。


「わたし、別にジェイドくんを王女様と結婚させようとしてるわけじゃないですからね!」

「ふーん」


 前のわたしは、ジェイドくんにハッピーエンドを押し付けた。でも、結局ジェイドくんは自分で幸せを定義して自力でそれを引き寄せた。

 自由でさえあれば、ジェイドくんは自分で幸せを掴み取れる人なんだ。

 だから同じ間違いはしない。

 ジェイドくんが望んだ幸せを彼自身が選ぶ……その邪魔をしないこと。それが今のわたしの役目だ。


「ほら、わたしってこっちに頼れる人も、住む場所もないじゃないですか? だからお城で面倒見てもらうのも悪くはないかなって」

「……側室だぞ?」

「うっ……そこだけ気になって、すぐにはお返事できなかったんですよね」

「そこだけ、ね」


 不機嫌オーラが濃くなった。あれ、失言した?


「と、とにかく! どっちにしても魔王討伐のお祝いのお祭りまでは一ヶ月お城に滞在しなきゃいけないみたいですし! その間にお返事することになってますから、じっくり考えます!」

「好きにしろ」


 ……信じてもらえていないな。きっとわたしが「わたしは側室になるから、ジェイドくんは王女様と結婚しなよ!」って思ってるんだと誤解している。そうじゃないんだけどな。

 時間はある。お城に滞在している間に、側室になるのか、別の形で自立して生きるか決めないと。


 ジェイドくんに頼らなくても生きていけることを証明する。

 そうすればきっと、ジェイドくんも安心して自分の幸せを選べる。



  ―――



 オレに王女との結婚を勧める気はなくて、でも自分は城に残るつもりで、気掛かりは側室っていう身分になることについて、()()

 それ、つまりオレと離れることは別に気にしてないってことか?

 ……ムカつく。


 一緒がいいって言ったくせに。

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