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原作者を殺したい  作者: 鈴井 六
原作者を愛したい

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17/27

「いでででで……」

「あばばばば……! ごめんねジェイドくん……!」


 魔王城から一番近い村。わたしとジェイドくんはその村の宿の部屋にいる。ベッドに横になるジェイドくんの体は傷だらけで、見ているだけで痛くなる。

 すべて魔王からの攻撃を受けてのもので、つまり、そのうちのいくつかは魔王だったときのわたしがつけたものなわけで……。

 わたしは今の体になってから魔法が使えなくなっていた。

 ただの日本の女子高生の体だから当然なんだけど、こうなるなら魔王の体でいるうちにジェイドくんに回復魔法をかけておけばよかったと悔やまれる。


 魔王城からなんとかこの村に辿り着いてまず、王国の領地を魔族や魔物から守るために村に駐在する辺境守備隊に、魔王討伐が成功したと報告した。

 ジェイドくんの怪我は結構ひどいし、ここから王都は遠い。わたしたちが王都に行って直接報告するより、守備隊を通して王都に伝令を送ってもらうほうが早いから。

 今この瞬間も魔王討伐を目指して旅をしている人や、魔王の存在に怯えている人がいる。少しでも早く魔王がいなくなったことを知らせなくちゃいけない。

 守備隊の人はもちろん半信半疑だったけれど、報告があった以上確認に向かうはず。あとは任せて、わたしはジェイドくんに肩を貸しながら治療院に急いだ。

 ……身長差がありすぎてなかなか進まない。歯がゆいな。


 この村の治療院には残念ながら回復魔法を使える人はいないみたいで、最低限の手当てと薬を持たされて、宿は自分たちで探すことに。

 帰り際に少し覗き込むと、院内のベッドは既に魔物との戦いで自力で歩くことさえままならないほど負傷した守備隊の人たちで埋まっていた。


 わたしが書いていない、この世界の人たち。それぞれにちゃんと人生があるんだ。

 当然、怪我では済まずにこの世を去った人もたくさんいるんだろう。

 ……早く本当に魔王がいなくなったのを確認してもらって、国中の人にそれを伝えてほしいな。

 そして怖い思いをした人も、悲しい思いをした人も、これからは少しでも穏やかに過ごせればって……そう思う。


 宿に着いてジェイドくんをベッドに寝かせてから、薬を塗ったり包帯を巻いたり、必死に慣れない手当てをした。

 前の世界ではせいぜい絆創膏を貼る程度の怪我しかしたことがなかったから、こんな酷い傷を見るのは初めてで、包帯なんて使ったこともなかった。

 異世界ものの主人公たちは、現世の知識を活かしてもっと上手くやっていた気がする。

 わたしはあっちでもこっちでも、女子高生でも原作者でも魔王でも、なにをやってもうまくできない。


「サンキュー」

「下手くそでごめんなさい……。きつくないですか?」


 おろおろするわたしの頭に、ポンと手が乗せられる。


「お前、なんつー顔してんだよ。ハッピーエンドだぞ。もっと笑え」


 そう言って笑う顔が、ものすごく主人公って感じだった。



  ―――



 守備隊の人が王都に伝令を送ってくれたおかげで、わたしたちは馬車で王都に送ってもらえることになった。

 もぬけの殻の魔王城の確認と、その報告が王都に届いて、王命が下されたとのこと。魔王の首とかなくても信じてもらえるんだ、と安心した。


 馬車に乗るのは生まれて初めてだけど、小説では乗り心地が良くなさそうに描写されることが多くて心配していた。

 確かに現代日本の文明的な乗り物にしか乗ったことのないわたしには、お尻は痛いし揺れが激しくて乗り物酔いしちゃうし、正直しんどい。

 だけど怪我だらけのジェイドくんが「行商人の馬車とは比べ物にならんくらい立派だ」ってはしゃいでいたから、それで十分。

 途中、町が近くにない場所では野営もしたんだけど、少しでもジェイドくんが調理に手を出した料理だけ異常においしくてすっかり英雄扱いされていた。いや、実際に魔王討伐した英雄なんだけれども。


 半月ほどかけて、馬車は王都に到着した。

 途中で寄った町の治療院に回復魔法を使える治療士さんがいたおかげもあって、この頃にはジェイドくんの怪我はだいぶ治っていた。

 回復魔法をかけてもらったにしてもジェイドくんの回復力は凄まじくて、「さすが、お前が丈夫さだけが取り柄のバカに書いてくれただけあるな」って冗談っぽく言われた。別にそれだけが取り柄だなんて思ってないのに!


 わたしとジェイドくんはそのまま城に案内された。

 その日は疲れた体を休めるようにと客室に通された。夫婦でも家族でもない異性なので、別々の部屋。

 一人で寝るのが久しぶりだからかな。すごく立派なベッドなのに、なかなか寝付けなかった。




 翌朝。


「勇者殿ォォォォォ!!!」

「おわぁぁぁぁぁ!?!?」


 とんでもない大きさの声で、わたしは目を覚ました……。

 えぇ……なになに? 最初の声は知らない人だけど、二人目の叫び声ってジェイドくんの声だよね……?

 恐る恐る部屋の扉を押す。少しだけ開いた隙間から部屋の外の様子を伺う。隣の部屋の前に人が集まっている……? そこはジェイドくんのいる部屋だ。


「な、なんの騒ぎでしょう……?」

「あ、賢者様! それが……」


 もう魔法が使えないただの女子高生なのに賢者様なんて呼ばれて気まずいんだけど、そのわたしより遥かに気まずそうな使用人と思われる女性は、横目で部屋の中をチラリと見る。その視線を追うと――


「いきなりなんだこのオッサン!?」

「ガハハハハ! 照れるでない照れるでない! ワシと勇者殿の仲じゃん!」

「初対面だよッ!」


 白い髭のおじさんに背中をバシバシ叩かれるジェイドくん。まだ寝癖がついていて、寝起きっぽい。……状況からして、急に部屋におじさんが入ってきて叩き起こされた感じ?

 なんで誰も止めないの、と言いたいところだけど、その理由はおじさんを見ればわかる。


 服装からして、どう見ても国王じゃん。


 そりゃ大事な客人、それも魔王討伐を果たした勇者であるジェイドくんに無礼なことしても誰も止められないわけだ。

 ……っていうか、わたし書いてないよ? こんな変な国王。


「陛下」


 その声がした瞬間、空気が変わった。

 その場にいた使用人たちが姿勢を正して頭を下げる。


「勇者様たちとは朝食後に謁見の間にてお会いする手筈だったはず。なにをなさっているのです?」


 淡々と国王と思われるおじさんに問うのは――絶世の美女、としか言いようのない……綺麗な女の人。

 窓から差し込む陽の光を受けて、腰まであるブロンドの髪がキラキラ輝いている。宝石みたいな青い目は涼しげで、気が強そうなのに、なんかこう……王族って感じの威厳があって――


 ぐぬぅ……! わたしの語彙力だとこれが限界だ……!

 つまり、わたし、この人も書いてないんだが。書けないんだが、わたしでは。


「おお! ティアではないか! すまんすまん! 待ちきれなくてな!」

「だからといって勇者様にこのようなご無礼を……」


 国王様と美女に注目が集まっている隙に、使用人の女性に声をかける。


「あの方は?」

「あっ、はい! あちらはセレスティア王女殿下でございます」


 ……名前まで美人かよ。こっちは『二兎』だってのによ……。

 なんて、“わたしが書いてない部分”の出来の良さに嫉妬していると、オッサン、もとい国王陛下はとんでもないことを口にする。




「だって、早く婿()殿()に会いたかったんだもん」




「「は?」」


 わたしとジェイドくんの声が重なった。

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